邦船大手、ケープ刷新に障壁。既発注船枯渇。重油焚き新造用船停滞
邦船大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)のケープサイズバルカーの船隊刷新が、新造用船の停滞という障壁に直面している。各社は同船型ではLNG(液化天然ガス)燃料船を自社で整備する一方、高齢船の退役が続く中で船隊規模を維持するため、最新鋭の重油焚(だ)き船を新造用船で一定数確保したい考え。実際、複数社が今年前半まで重油焚きケープサイズの新造用船を進めてきた。だが足元では、その対象だった船価上昇前の日本造船所への既発注船がほぼ枯渇。船価の高止まりで新規発注も見込みづらく、新造用船は当面様子見せざるを得ない状況だ。
「ケープサイズ船隊の刷新に向け、LNG燃料船の自社整備に加えて、EEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3対応の燃費性能に優れた重油焚き船を一定数、新造用船で確保する必要がある」
大手邦船オペレーター(運航船社)3社の幹部はこう口をそろえる。
実際、複数社が今年半ばまでに、ギリシャ船主大手が日本造船所で建造したケープサイズを3隻ずつ新造用船した模様。同船主は当該船について、日本海事新聞の取材に対し「期間平均5年、日建て約2万ドルの用船契約に投入する」と回答した。
このほか郵船は昨夏、米船主フォアモスト・グループから、名村造船所が建造するEEDIフェーズ3対応のケープサイズ2隻の新造用船を決めたことが表面化。同2隻は用船期間が7年で、用船料はインデックス・リンク(市況連動)。2024年ごろの竣工を予定する。
邦船大手はこれ以外にも昨年から今年前半までに、日本建造の重油焚きケープサイズの新造用船を国内外の船主と水面下で進めてきた。
邦船社が新造用船の対象として特に検討しやすかったのは、「船価上昇前に海外船主が日本造船所での整備を決めた用船フリーの既発注船」(邦船大手幹部)だ。
ケープサイズの新造船価は21年初めから上げ基調に入ったが、前出のギリシャ船主の発注船のように23年前半納期の新造船はまだ上昇途上だったため、用船料も「採算の合う範囲に収まった」(同)。
海外船主からの新造用船が増えている背景には、邦船社が志向する「用船期間の短期化に柔軟に対応できるプレーヤーが多い」(同)との評価があるようだ。
邦船大手の間では、重油焚きケープサイズの新造用船期間について「3年前後などの短期が理想だが、信頼関係のある国内船主の起用を軸に検討していることもあり、5―7年程度が現実的」(同)との声が昨年までは多かった。
しかし、ケープサイズは足元の新造船価が18万重量トン型で7000万ドル弱、21万重量トン型で7000万ドル台後半と、20年の底値から4割弱も上昇。この過程で、国内船主は邦船社の想定以上に長期貸船志向を強めた。
国内船主には船価が高額なケープサイズではかねて、10年以上の定期貸船を志向する声が根強かった。これがさらなる値上がりを受け、「今の船価で10年以上の長期用船を付けずに発注すれば、会社が傾く痛手を被りかねない」(四国船主)との認識が強まった。
一方、海外船主に対しては、「船価に応じたコストベースの用船期間・用船料を提示する国内船主とは異なり、ケープサイズでも竣工時から1―2年の短期用船に応じるなど、マーケットベースの条件提示を柔軟に行うプレーヤーが多い」(同)との評価が用船者側には根強い。
このため邦船オペの間では、「期間5年未満のケープサイズの新造用船は海外船主と話をせざるを得ない」(同)との声が多く、実際ここ1―2年で決まった新造用船は用船元が海外になっているケースが多いようだ。
■船価高で新規案件減
しかし今後は当面、邦船社の重油焚きケープサイズの新造用船は停滞する公算が大きい。
各社がターゲットとしてきた海外船主の日本造船所への既発注船は「ほぼ底をついており、用船フリーで残っている数隻は条件が合わない」(同)。
これまで同船型を用船フリーで日本に発注してきたギリシャ勢についても、「船価の高止まりでさすがに様子見姿勢のようで、新規の新造案件は当面出てきそうにない」(同)。今年前半に日本造船所に発注されたケープサイズは、大部分が国内船主の海外オペ向け案件とみられている。
各社が100隻規模を運航する大手邦船オペのケープサイズ船隊は、リーマン・ショック前後の07―09年に新造船竣工が集中した経緯があり、船齢15歳弱の高齢船の退役が今後相次ぐ見通し。
全船を重油焚き船より船価が20億円程度高いLNG燃料船に入れ替えるのは現実的でなく、用船の対象となる重油焚き新造船も発注停滞が続く中、各社はケープサイズの船隊刷新で難しい舵取りを迫られそうだ。
引用至《日本海事報》2023年09月20日 デイリー版1面