パナマ運河、「過去100年で最悪の干ばつ」。コンテナ船など船腹タイトに
パナマ運河の渇水が深刻化しており、「過去100年で最悪の干ばつ」と評されている。2月以降、段階的に同運河では水不足を理由に通航する船舶の隻数、喫水ともに制限されてきた。パナマ運河の通航制限による滞船でコンテナ船やドライ船、タンカー、ガス船など船腹需給のタイト化に拍車が掛かる可能性がある。
米有力紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は8月18日、「パナマ運河の両端の入り口の船舶の滞船は200隻に達している」と報じた。パナマ運河庁(ACP)は今月5日、船舶の滞船が減少していると発表。滞船は108隻と前週の135隻から20%減少し、「この時期としては平年並み」とコメントした。
しかし、パナマ運河の渇水に対する危機感は拭い切れていないようだ。
パナマ運河は淡水で運営されており、これは世界の主要な水路と異なっている。パナマ運河の水源となるガトゥン湖は淡水の人造湖だ。
ガトゥン湖から太平洋、大西洋へと続く水門(ロック)と水門で区切ったスペースの閘室(こうしつ)の中に水を閉じ込める。そのスペース内の水量を増減することで水位を上下させ船舶を通航させる。
「パナマ運河のエレベーターと呼ばれる通航段階用の水として海水を利用することは、設備の不具合を起こす可能性もあり使用できない」(日本の海運会社)
パナマ運河庁の関係者は、「過去20年、降水量は減少し続けている。干ばつはパナマ運河だけでなく、パナマ全体にも広がっている」と説明している。
パナマ運河は既に毎日の通航隻数を36隻から32隻に減少させているほか、喫水制限も実施。
パナマ運河の喫水が1フィート下がるごとに、コンテナ船は300から350個のコンテナを船から降ろさなくてはならないという。
降ろされたコンテナは、パナマ運河の反対側まで鉄道輸送されるケースもある。
パナマ運河の通航料も値上げされており、WSJによると、早期通航のためにドライバルク船が通常支払う40万ドルに比べ、オークションの実施などで90万ドル相当まで料金が値上げされているケースもあるとみられる。
パナマ運河の通航制限は既に海運市場に影響を与え始めている。
北米の穀物輸送では、パナマ運河を通航する前に積み込まれるミシシッピ川流域でもバージの滞船が発生している。
南米産穀物の輸送にも使われるパナマックス市況は22日のロンドン市場で1日当たり1万3828ドルと採算ラインの1万2000ドルを上回った。中型バルカーのスープラマックスも同1万4908ドルと続伸している。
ガス船はさらに船腹タイトな状況だ。
米国はシェールガス由来のLNG(液化天然ガス)をメキシコ湾沿岸や米西岸の基地から出荷。ロシアのウクライナ侵略で欧州ではこれから冬場にかけ天然ガスの不足が懸念されている。
英クラークソンズ・リサーチによると、今月1日付の17万4000立方メートル型2ストローク船のスポット市況は前週比31%高の21万ドルへ急騰。8日付では22万ドルへ続伸した。採算ラインの8万―9万ドルの倍以上の値がついている。
LPG(液化石油ガス)を輸送するVLGC(大型LPG船)のスポット運賃も急騰。VLGCは世界に現存船が340―350隻と少なく、滞船などの影響を受けやすい。北米―アジア間を中心に用船料は1日当たり13万ドルと損益分岐点の5倍に達している。
外務省経済局によると、2022年度の通航量は1万3003隻。パナマ運河を利用する日本発着の貨物は全体の13%で、米国、中国に次いで第3位。AFP通信によると、パナマ政府の年間歳入は25億ドル(約3675億円)に上った。
今後、コンテナ船の滞船が続けば、コンテナ船の需給タイト化につながる可能性もありそうだ。
引用至《日本海事報》2023年09月26日 デイリー版1面