〈欧米メジャー LNG市場展望〉長期売買契約を再評価、舶用燃料化にも期待。アジア新市場開拓、ガス低炭素に注力
シンガポールで今月上旬に開催された世界最大の天然ガス・エネルギー国際会議「ガステック」で、欧米エネルギー大手のキーパーソンらからLNG(液化天然ガス)の長期売買契約の重要性を再評価する声が相次いだ。ウクライナ危機後のLNG価格のボラティリティー(変動)増大を機に、これまで進行していたLNGのコモディティー(一般商品)化からの反動が鮮明となりつつある。一方、需要面ではLNGの舶用燃料化への期待の声も上がった。
「欧州における過去1年半を振り返ると、天然ガスの役割が浮き彫りになり、長期で多様なLNG購入契約による供給確保の重要性がはっきりと再認識された」
米エクソンモービルのピーター・クラーク上席副社長はパネルディスカッションの冒頭にそう語った。
「ロシアの輸出急減に伴い、欧州各国がガスのスポット購入に追い込まれ、エネルギー価格全体の高騰につながった。再生可能エネルギーはその需給ギャップを埋める機能を果たさず、各国は石炭などの高炭素燃料への回帰を強いられた」(クラーク氏)
英シェル・エナジーのスティーブ・ヒル上級副社長も「地政学リスクとエネルギー転換に伴うボラティリティー増大は依然として続いており、LNG業界における長期契約の重要性が強化されている」と指摘。
その上で「昨年の価格高騰において、スポット市場にほぼ完全に依存していた欧州のバイヤーに比べて、長期契約が調達の8―9割を占めるアジアのバイヤーへの影響ははるかに小さかった」と述べた。
欧州トレーダー大手ビトールのラッセル・ハーディCEO(最高経営責任者)は「昨夏、欧州のガス価格はMMBtu(百万英国熱量単位)当たり約100ドルに達し、供給危機への恐怖が高騰を引き起こした。背景にはわれわれが特定のガス源に大きく依存していたことがあり、今後は多様な独自戦略が求められてくる」と語り、ソース多様化の方向性を示す。
■米VG社を非難
LNG市場では2000年代後半以降、仕向け地制限のない米シェールガス輸出拡大に伴いトレーディングが活発化。LNGのスポット市場拡大とコモディティー化により、LNG船の用船契約の短期化にもつながっていた。
しかし、ここにきてエネルギー各社が長期売買契約を再評価していることで、用船契約にも中長期化への揺り戻しが起きつつある。
シェル・エナジーのヒル氏はコモディティー化に関し「LNGには二つの市場が存在する。一つは世界のガス市場のバランスを取る上で効果的なスポット市場。もう一つは長期市場であり、プロジェクトを立ち上げ、顧客とLNGビジネスに供給の確実性と価格の予測可能性をもたらす上で非常に効果的だ」と長期、スポットそれぞれの利点を解説する。
さらにヒル氏は長期売買契約の信頼性を巡り、米国のLNG生産会社ベンチャーグローバルLNG(本社・バージニア州)が試運転期間を理由に供給責任を十分に果たしていないと強く批判した。
「ベンチャーグローバルの欺瞞(ぎまん)的行為が業界に損害を与え、危険な存在となっている。これは業界への警鐘だ。LNGビジネスは長期契約の順守と信頼によって成り立っている。プロジェクトの実現を支えてきた信頼あるバイヤーに貨物を供給しないのであれば、現在の価格環境において誰もその企業を信じなくなる」(ヒル氏)
■船舶向け拡大へ
ディスカッションの後半にはLNGの舶用燃料需要にも話題が及んだ。
ビトールのハーディ氏は「今後数年間でLNGバンカリング(船舶燃料供給)市場は大きく成長し、道路輸送においてもLNG使用が大幅に増加するだろう」と期待感を口にする。
「50年のネットゼロは全産業の巨大な課題だが、現時点で明確な解決策が見いだされていない領域がある。その一つがバンカー(船舶燃料)だ。年約4億トンの船舶燃料が燃焼され、われわれのモノやエネルギーが世界中に運ばれている。現段階の新造船の選択肢は、LNGと重油の2元燃料を志向していることは確かだ」(ハーディ氏)
シェル・エナジーのヒル氏も「(船舶燃料のLNG転換は)今まさに起こり始めている。われわれはシンガポールで2隻目のLNG燃料供給船を導入したところだ。2元燃料仕様を備えた新造船は大型船で約3分の1に達し、巨大な潜在需要が存在する」と指摘する。
ハーディ氏は今後の見通しについて「ガス供給拡大によりLNG価格が少しでも安くなり、供給インフラも整備されると、巨大なLNGバンカー市場が出現する。船舶燃料は今後10年でLNGに大幅に転換されるだろう。この推移を興味深く見守っている」と話す。
■再ガス化1億トン
米エクソンモービルのピーター・クラーク上席副社長はLNG(液化天然ガス)市場の今後の展開について、米国積みを中心とした欧州向けトレード伸長シナリオを示す。
「複数のアナリストが欧州で2027年までに約1億トンの再ガス化能力が必要になると予測しており、対応プロジェクトが急速に提案されていくだろう。世界各地からLNGが供給され、特に米国ガルフが重要な役割を果たす」
エクソンも来年、米ガルフの新規プロジェクト「ゴールデンパスLNG」で年1800万トン規模の液化設備の稼働を予定している。
欧州トレーダー大手ビトールのラッセル・ハーディCEO(最高経営責任者)は「ガス不足は解消されておらず、今年はLNG5000万トンが欧州に向かう見通しだ。ロシアからのガスは依然として止まっており、われわれは『輸入LNG』と『需要減』という二つのメカニズムで問題を解決している」と分析する。
同氏は続けて「価格にもよるが、今年はおそらくLNG換算約2000万―3000万トンの需要減により需給ギャップを埋めなければならない。推奨したいのは、より柔軟なビジネスモデルを開発し、サプライ&トレーディングビジネスに適応することで、ボラティリティー(変動)の犠牲者ではなく、利用者になることだ」と訴える。
■ストレージ投資へ
伊エネルギー大手Eniのクリスティアン・シグノレット取締役は「ボラティリティーの一因には天然ガスとLNGの貯蔵キャパシティーが非常に少ない事実が挙げられる。われわれの投資はまだ完了しておらず、ストレージが次の投資の波だと思う」と見通す。
米シェブロンのコリン・E・パーフィット中流部門担当プレジデントは「米国ではこれからLNGプラント導入が加速し、まずは欧州向け、長期的にはアジア市場への輸出が進んでいく。過去20年間、米国と欧州では石炭火力からガスへのシフトがCO2(二酸化炭素)削減につながっており、今後はアジアでこうした転換の機会が生まれてくる」と予測。
さらに、同氏は「私はエネルギー分野で約40年間働いてきたが、今が最もエキサイティングな時代の一つだ。伝統的なエネルギーをどう転換するかという大きなチャレンジが目の前にある」と語り、変革期に意欲をのぞかせる。
■CCSに熱視線
LNGは石炭よりもGHG(温室効果ガス)排出量は少ないが、化石燃料であることには変わりない。さらなる排出削減への努力が需要拡大の鍵を握る。
「米国のガス市場における長期的役割を促進する一つの要素が、ガス生産の上流でのGHG削減策だ」
エクソンのクラーク氏はそう言い切る。
エクソンは米国有数のシェールガス生産地「パーミアン盆地」における30年までのネットゼロ目標を設定。クラーク氏は「当社を含めた多くの開発企業がCCS(CO2回収・貯留)設備を調査している」と明かす。
シェブロンのパーフィット氏も「石油・ガス事業の成長と同時に、炭素強度の大幅削減にも取り組む」と決意を語り、「フレアリング(余剰ガスの焼却処分)停止やLNGプラントでのメタンスリップ(メタン漏えい)対策を取らなければならない」と課題を挙げる。
一方、ガス価格高騰により、経済的に余裕のない国々が石炭に回帰している傾向も指摘された。
ビトールのハーディ氏は「今冬もガス価格が上昇すると、パキスタンやインド、中国などはLNGを受け入れず、他の燃料を使用する傾向が今後も続く。アジアは依然として19―21年の消費レベルまで戻っていない。一方、欧州はガスを必要としており、上昇した価格を支払うことになる」と分析する。
■独越比に供給開始
シェル・エナジーのスティーブ・ヒル上級副社長は新たな輸入国増加への期待感を口にする。
「われわれはマーケットの驚異的な成長を目にし、過去1年で新たにドイツ、ベトナム、フィリピンの3カ国への供給を手掛けた。LNG業界が過去10―15年間協議し続けてきた市場がついに現実になり、インフラが整備されている。最初のカーゴが届けられ、LNG導入の課題を大きく打ち破り、大きな成長の可能性が生まれている」
Eniのシグノレット氏も「当社はガスとLNGが未来を創ると信じており、30年までにトータル生産に占めるガス比率を6割、50年には9割とする大きなミッションを定めている。LNGビジネスの持続可能性には規模が鍵を握り、欧州だけでなく、最も成長の見込まれるアジアの顧客にもリーチしたい」と意気込む。
引用至《日本海事報》2023年09月27日 デイリー版1面
【ガステック2023】〈欧米メジャー LNG市場展望〉長期売買契約を再評価、舶用燃料化にも期待。アジア新市場開拓、ガス低炭素に注力|日本海事新聞 電子版 (jmd.co.jp)