ケミカル船社、集約が進展。持続可能性 高まるか
石油化学製品などを運ぶケミカルタンカー船社の集約が進んでいる。市況低迷の長期化に苦しめられたことに加え、船価高騰や環境対応で船舶投資が困難なことが集約を後押ししている。海運関係者は「ケミカル船業界が持続可能になるための契機になるかが焦点になる」と語る。
商船三井グループのMOLケミカルタンカーズ(MOLCT、本社・シンガポール)は9月12日、米国の複合企業フェアフィールドマックスウェル傘下のフェアフィールドケミカルキャリアーズ(FCC)を買収することで基本合意したと発表した。
MOLCTは競争法上の関係当局の承認を条件に、フェアフィールドマックスウェルからFCCの全株式を約4億ドル(約597億円)で取得する。
MOLCTのケミカル船隊は85隻。これにFCCのケミカル船36隻が加わり、MOLCTの船隊は120隻超に拡大する。ケミカル船最大手のノルウェー船社ストルトニールセンを追随する。
ケミカル船社のM&A(買収・合併)としては、2016年のストルトによる同国のJOタンカーズの買収、19年のMOLCTによるデンマーク船社ノルディック・タンカーズの買収に次ぐ案件になる。
事業環境が改善してきた中での今回のMOLCTによるFCCの買収合意を受けて、あるケミカル船関係者は「寝耳に水」と驚きを隠さない。別の関係者は「伏線はあった」と語る。
フェアフィールドマックスウェルの幹部が数年前に、FCCの売却も選択肢という考えを示したという。当時は市況低迷が長引き、ケミカル船社の業績も振るわなかった。
同関係者は「(ケミカル船は)投資先としての魅力が薄れていたのだろう」との見方を示す。
ケミカル船市況を巡っては、リーマン・ショック後も半年間は堅調に推移。関係者の間に金融危機の影響は軽微にとどまるとの安心感が広がったものの、すぐ新造船の大量竣工のあおりで市況悪化が顕在化した。
MOLCTやストルトが主力とするステンレス製のカーゴタンクを備えたケミカル船は、もともと運賃市況のボラティリティー(変動性)が低い。
ステンレス船は腐食に強く、あらゆる液体貨物を積載できる。エチレングリコールやスチレンモノマー、リン酸など多種多様な貨物を組み合わせて運ぶため、高度な専門知識と技術が求められ参入障壁が高いためだ。
だが、海運バブル期にケミカル船分野にも投機マネーが流入。船舶投資ファンドが大量発注した新造船がリーマン後に相次いで就航し、需給バランスが崩れた。石油製品を運ぶプロダクト船が流入したことも市況悪化に拍車をかけた。
ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ケミカル船を取り巻く事業環境は一変した。
欧州は石油化学製品の調達先をロシアから北米や中東などにシフト。それにより輸送距離が延び、ケミカル船の船腹需要が押し上げられた。プロダクト船が石油製品輸送に回帰したことも、ケミカル船の需給タイト化を促した。
不況時に船舶投資がストップし新造船の供給が少ないことも相まって、ケミカル船の運賃市況は改善。船社の業績も改善し、船舶投資の再開を検討できるようになった。
ところが、鋼材やステンレス価格の高騰を受け、ケミカル船の新造船価は大幅に上昇した。造船所の船台も26年ごろまではほぼ埋まっている。次世代燃料の見極めも難しい。船社は投資判断が困難な状況にある。
そういった中で、M&Aを通じた成長戦略の実現という選択肢が現実味を帯びてきたようだ。
MOLCTの佐々明CEO(最高経営責任者)は、FCCの買収合意に関するプレスリリースの中で、FCCの魅力ある船隊の獲得が一つの目的だったことを認めている。
ケミカル船社の収益は改善し、市況も健全な水準を維持している。ただ、「高品質で安全な輸送サービスを安定的に提供していくための経営基盤の構築はまだ道半ば」(関係筋)だ。
インフレや環境対応など取り巻く事業環境が大きく変化する中で、ケミカル船業界がサステナブルな業界になれるのか。MOLCTによるFCCの買収は一つの試金石になる。
日本海事報告,2023 年 10 月 02 日,每日版第 1 頁