国内船主、退役ケープ代替難航。用船契約短期化。小型船2隻に分散も
国内船主は海運ブーム期に発注したケープサイズバルカーの退役が本格化するのを前に、次の投資先に頭を悩ませている。同船型は邦船オペレーター(運航船社)の期間15年程度の長期用船を裏付けに当時、大量の新造整備が進展。その竣工が2008年の金融危機直後に集中しており、用船期間を満了した高齢船の売船が今後相次ぐ見通しだ。ケープサイズは船価が高額で市況のボラティリティー(変動性)も高い上、用船期間の短期化が鮮明。こうした中、保有船主の間では「全船の代替発注は困難で、小型船2隻の保有に切り替えるのが現実的」との声が多く出ている。
「ケープサイズの船隊規模が今後縮小していくのは、多くの日本船主にとって既定路線だろう」(今治船主)
邦船オペとの長期用船契約が今後数年で満了するケープサイズを保有している国内船主関係者は、こう口をそろえる。
邦船オペ各社は未曽有のドライ好況が続いた03―08年の海運ブーム期、国内船主との期間15年程度の長期用船契約を積極活用し、ケープサイズを大量に新造整備した。
その新造船の竣工が特に集中したのが、リーマン・ショック直後の09―11年ごろ。これらの船舶が用船契約を満了する24―26年は、各社が100隻規模を持つ大手邦船オペのケープサイズ船隊のリプレース需要がピークを迎えるとみられている。
大手邦船オペは同船型ではいずれも、LNG(液化天然ガス)燃料船を自社で整備する一方、高齢船の退役が続く中で船隊規模を維持するため、最新鋭の重油焚(だ)き船を新造用船で一定数確保したい考え。
しかし、邦船オペ向けにケープサイズを長期貸船する国内船主の多くは、既存船の用船期間満了後、邦船オペに代替の新造用船需要があったとしても「退役船と同じ隻数の新造船を整備するのは難しい」(同)との考えを示す。
■発注ハードル高く
リーマン・ショック以前と比べ、ケープサイズを国内船主が新造整備するハードルが格段に上がっているからだ。特に鉄鋼原料のコモディティー(一般商品)化と共に輸送契約が短期化したことに伴い、かつて10年以上が主流だったケープサイズの新造用船期間が短期化したことが大きい。
「邦船オペから提示されるケープサイズの新造用船期間は、最近では5年が主流だ。既存のケープサイズはいずれもブーム期直後から邦船オペに期間15年で新造貸船しているが、船価も高騰した今、用船市況が乱高下する同船型を5年の短期で新造貸船することは当社の財務体力では難しい。退役するケープサイズの売船益を元手に、他船型への投資を検討する」(同)
国内のケープサイズ船主の間では、こうした声が多く上がっている。
■5年新造用船も
一方、邦船オペ向けに期間5年の新造用船を決めた船主も一部いる。
「EEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3対応の最新鋭の新造船であれば、竣工後の用船期間が5年でも、契約延長の可能性が高いと判断し、船価上昇前に一部発注した」(別の今治船主)
しかしケープサイズの代替発注は今のところ、船価上昇前の一部の新造船にとどまっており、今後の売船・退役分の隻数を大きく下回る見通しだ。
今治船主が続ける。
「当社では27年までに邦船オペとの長期用船が切れるケープサイズが相当数あり、新造船に入れ替えられるのは一部にとどまる。ケープサイズ船隊は縮小傾向だ」
同様に、ケープサイズの保有隻数は今後減っていく、と見通す国内船主は少なくない。
彼らが代替の投資先に挙げるのが、小型バルカーだ。
■逆張り投資妙味
海運ブーム初期に発注したケープサイズ複数隻を売船した船主は、次の投資先についてこう話す。
「長期用船がないなら、スポット市況がボラタイル(不安定)なケープサイズ1隻と同じ投資額で、市況が比較的安定しているハンディサイズバルカー2隻を発注する方が得策だと考えている」(四国船主)
「ケープサイズは足元の新造船価が18万重量トン型で7000万ドル弱、21万重量トン型で7000万ドル台後半と、20年の底値から4割弱上昇した。今の船価で長期用船を付けずに発注すれば、会社が傾く痛手を被りかねない。ケープサイズ1隻が退役する分、小型バルカー2隻を発注するのが現実的だ」(今治船主)
一方で一部船主は、用船期間短期化と船価高騰で発注できるプレーヤーが限られる今を、発注の好機と見ている節がある。
今治船主が逆張り投資の意向を示唆した。
「ケープサイズは26―27年に代替需要がピークを迎えるのがほぼ確実で、発注残は世界的に少ない。手掛けられる船主が限られてくる中、リスクさえ取れるなら、投資妙味は増す」
引用至《日本海事報》2023年10月20日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290743