クラブネス・ドライ、デジタル化で市況の荒波超える。重要な運賃の決定も
ノルウェー船社トルバルド・クラブネスのシンガポール事務所に入ると、メインフロアの奥に電子海図が大きくディスプレーされていた。トルバルド・クラブネスの創業は1946年、シンガポール事務所の開設は2006年と、この歴史ある不定期船会社の名前を知らない人はいないだろう。しかし、記者がクラブネスという名前をはっきりと意識するようになったのは、18年10月にミカエル・ヨルゲンセン氏が来日し、クラブネス・デジタルについて取材したときだ。そのとき、記者はこう感じた。「不定期船ビジネスにデジタルは必要なのか?」。あれから5年、当時の疑問は大きく変わった。海運にデジタルは欠かせない―。(山本裕史)
■ドライ船社の自負
「クラブネスは、持ち株会社の傘下にクラブネス・コンビネーション・キャリアーズ(KCC)、クラブネス・ドライ、クラブネス・デジタルを擁する。シンガポールの社員は、クラブネス・ドライの中で三つの主要事業に注力している。プール、マーケット・マネジャー、そしてクラブネス・チャータリングだ」
5年ぶりに再会したドライ部門長のミカエル・ヨルゲンセン上級副社長は、シンガポール事務所の役割についてこう説明した。
クラブネス・ドライは、パナマックスを中心に太平洋とインド洋の用船とフォワーディングを担当している。
「用船はクラブネス・ドライにとって非常に重要な仕事だ。どのタイミングで船舶を使用し、どのように効率的に貨物を輸送するかが重要だからである」
用船を担当する太平洋C&T部門副社長のアイヴァン・ライフォード氏は、クラブネス・ドライの用船活動について次のように説明する。
「クラブネス・ドライの用船事業は、『海運の本質を改善する』というグループのビジョンに基づき、75年にわたる経験とその過程で得た豊富な知識を生かし、年間約450隻の船舶を用船している。われわれは市場の中だけで仕事をするのではなく、24時間365日体制でサービスを提供している」
われわれは市場の中だけで仕事をしているわけではない―。
ライフォード氏のこの言葉はどういう意味なのか?
ヨルゲンセン氏が説明する。
「例えば、当社は20年には日本の大手商社である丸紅とパナマックスに特化したプールオペレーションを開始した。ドライマーケットは常に不安定である。例えば市場が上昇するとみれば、われわれは船主に電話する。それは相場が下がる前に、向こう3カ月間の用船料を固定したいかと聞きたいからだ。そんなことをするプール・マネジャーはほとんどいない。しかし、われわれは常にオーナーと共にプールを発展させたいと考えている。だから、このような形でコミュニケーションを取っているのだ」。
丸紅船舶部とクラブネス・ドライは、3年間のパートナーシップを成功させた後、クラブネス・ドライへの丸紅の出資比率を25%に引き上げるなど、協力関係を強めている。
■デジタルは海運の未来
クラブネス・ドライのもう一つの「武器」は、海運へのデジタル・アプローチである。
海運業界がデジタル化とまだ距離を置いていた15年、クラブネスは同社の戦略文書でこう述べている。
「デジタルは海運の未来だ。デジタルは今後、海運にどのような影響を与えるのか」
ヨルゲンセン氏が話す。
「最初の3―4年間は、デジタルが何を意味するのかよく分かっていなかった。しかし、15年にデジタルの種がまかれ、7―8年たった今、私たちはその果実を収穫する時期に入ったのだ」
市場で利用可能なデジタルツールは、航路を最適化し、船舶の位置や針路などの衛星データを一目で把握できるようにするだけではない。
同社は二つのサービスを提供している。「カーゴ・バリュー」は、産業界の顧客向けに在庫と出庫のクラス最高の管理を行うもので、「マーケット・マネジャー」は、船主、用船者、貿易業者、オペレーター向けに最適化された運賃決定を行うものである。
ヨルゲンセン氏は次のように説明する。
「18年に日本に行った際、各オペレーターに説明をした。例えば、石炭火力発電所は、石炭の在庫と消費量、船舶による供給量を管理する必要がある。カーゴ・バリューを利用すれば、海上輸送を最適に計画し、在庫レベルを適切なレベルに調整することができる。現在では貨物面だけでなく、マーケット・マネジャーを通じて重要な運賃の決定も行っている」
クラブネスは世界の不定期船会社の中で最も先進的なデジタル化について、15年時点で既に開始していた。
同時に、ヨルゲンセン氏は同僚とのコミュニケーションの重要性についても語る。
「クラブネス・ドライの仲間であるマーケット・マネジャーのハルキ・チュア氏や、丸紅に勤務するシニアマーケティングマネジャーの福田大輔氏の意見に耳を傾けるようにしている。時には聞きたくない意見もある。そういう意見も大事だと思う。誰もがプロフェッショナルを自覚している。だから、同僚が自由に意見を言える雰囲気を作るのが私の仕事だと思っている」
デジタルスキルとコミュニケーションスキル―。
次世代の海運会社に求められる重要な要素は何か。クラブネス・シンガポールのオフィスへの取材はその一端を感じる契機となった。
引用至《日本海事報》2023年10月30日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290943