海運大手、ROE10%視野へ。紅海迂回・円安、純利益押し上げ

日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社の2024年3月期連結決算で、財務指標の一つであるROE(自己資本利益率)が10%を超える期待感が出ている。足元では紅海を迂回(うかい)する海運会社が相次ぎ、コンテナ船の業績が回復するとの指摘も出てきた。円安効果に伴う業績による押し上げ効果もあり、純利益が上方修正されれば「ROE10%の壁」を超える可能性もある。

 ROEは自己資本に対し、純利益が何割かを示す指数のこと。ROEが高いほど、株主の投下資本に対し会社が効率的に利益を上げていることを示す。

 21年3月期時点で海運大手のROEは15―22%と東証プライム市場で一般的に求められる10%をクリアしていた。

 最大の理由は自己資本に比べ、純利益が先行して増加した点にある。

 3社が出資するオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)は20年後半から本格的に米国などの「巣ごもり需要」の取り込みに成功。ONEの22年3月期税引き後利益は、前年比約5倍の約2兆1800億円を計上した。

 海運大手は各約3割を出資しているため、21年2月から22年6月までに合計5回の配当を受け取り、配当額は1兆円を超えた。

 自己資本の積み上げの基礎となる利益剰余金は期末以降に計上されるため、純利益が先行して計上された形だ。

 一方、足元では自己資本と純利益の関係が過渡期に入っている。

 海運大手の23年9月期の自己資本は、日本郵船2兆6471億円、商船三井2兆1603億円、川崎汽船1兆5837億円といずれも過去最高を記録した。

 日本郵船や川崎汽船は自社株買いを実施している。本来、自社株買いの原資は自己資本となるため自己資本は減少する。

 関係者によると、自社株買いの株式は「消却」するまで自己資本が減少に転じないとみられる。期末以降に自己資本が減少に転じれば、「適正な資本構成を構築できる」(海運幹部)。

 今期は過去最高の自己資本、コンテナ船市況の不透明感で23年9月期時点の期末予想でROE10%を超えているのは商船三井だけ。

 しかし、11月以降、イエメンの武装組織フーシ派による紅海を航行する船舶への襲撃が発生。足元ではAPモラー・マースク、ONE、CMA―CGM、ハパックロイドなど世界の主要コンテナ船社が紅海を迂回することを表明した。

 自動車船やタンカー、バルカー船社も紅海を迂回、喜望峰回りの遠距離航路を選択している。

 特にコンテナ船は新造船の発注が急増し、来年の市況への影響が懸念されていた。

 パナマ運河でも渇水による通航制限が長期化されており、「洋の東西」の主要運河が大きな制約を受けている。

 24年3月期末に向け自己資本の適正水準、純利益の押し上げがあれば、各社ともにROE10%を超える可能性は高い。

 もう一つの課題となっているPBR(株価純資産倍率)についても自己資本の水準次第では、時価総額の押し上げで理論上の解散価値と同等とされる1倍も視野に入りそうだ。

引用至《日本海事報》2023年12月27日 デイリー版1面

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