今年の新造船市場予想、先物納期 にらみ合い。受注1割減、船価は微増

今年の新造船市場予想、先物納期 にらみ合い。受注1割減、船価は微増

2024年の新造船マーケットは、主要造船所の線表が海運ブーム期以来の先物まで進んだことで新造商談が減速し、日本造船所の受注量は前年比で1割程度減少するとの見方が大勢だ。船価を巡っては、インフレによるコスト増加分を転嫁したい造船所と、海運市況の先行き不透明感から価格のレベル感に神経質になっている船主のにらみ合いが継続。新造船価は横ばいか微増で推移するとの予想が多い。

■線表ブーム期並み
 今年の日本造船所の新造船受注動向を占う上で、ポイントは大きく二つある。

 一つは、造船所の線表が近年なかった先物まで進んでいる点だ。

 日本造船主要各社はドライ市況が急回復した昨春、国内外の船主から主力の中小型バルカーを集中的に受注。過半が26年船台を完売し、先行勢は複数社が27年半ばまでの工事にめどを付けた。

 さらに、夏場の商談停滞を経て、秋口に再開した新造商談〝秋の陣〟で線表をじわりと伸ばし、各社が26年船台をほぼ完売。艤装期間が長いLNG(液化天然ガス)などの新燃料船を連続建造するヤードなど、内定を含めて線表確定が28年まで進んだ工場も出てきた。

 つまり、主要日本造船所は新しい年が明けた今の時点で、3年超の潤沢な手持ち工事を確保しているところが多く、00年代後半の海運・造船ブーム期以来、線表を4年先まで進めた工場もある状況だ。

 このため、造船所は受注を急ぐ必要はなく、「24年は採算重視で案件を選別する姿勢を強め、年末までに27年船台1年分を売り切る程度に受注ペースを落とす公算が大きい」(商社船舶部)。

■高止まりで様子見
 もう一つのポイントが、今年は新造船価の高止まりがほぼ確実視されていることだ。

 造船所は線表を先物まで進めたことで、船価を下げてまで受注に動く局面ではない。加えて、世界的なインフレの影響で、鋼材・舶用機器などの材料費のほか人件費、電気料金などが軒並み高騰。コスト全般の上昇による「採算悪化を為替の円安効果で何とか吸収しているのが現状」(国内造船所関係者)で、船価を下げる選択肢は年間を通じてないだろう。

 資機材の中で特に価格上昇圧力が強まっているのがエンジンだ。主機の価格は近年受注が急増した小型バルカー向けの需給逼迫(ひっぱく)もあり、「コロナ前からこれまでの値上げ幅は5割以上に達している」(同)。

 他の舶用機器も同2―3割の値上げが進んだとの声が多い。21年から右肩上がりの上昇が続いた鋼材価格は天井感が一時出ていたが、昨年末に値上げ圧力が再び高まるなど、日本ではなお史上最高値の水準で推移。人件費は23年に一段と高騰した。

 こうした状況下、造船所関係者の間では「24年の船価は前年水準の維持を最低ラインとして、インフレによるコスト増加分の転嫁で前年比数%の微増を期待する」との声が多い。

 日本造船各社は業績が厳しい中、鋼材価格の高騰が始まった21年初めからの急激なコスト増をカバーするため、船価の引き上げを強い姿勢で進めてきた。

 これが24年の船価予想では「最低でも現状維持」(同)などと若干弱気に映るのは、今の事業環境で船価水準をもう一段引き上げれば「船主に許容されないレベルに達してしまう」(同)との感触を得ているからとみられる。

 ギリシャなどの海外勢を含め、船隊刷新に向けた新造整備を探っている船主は年末時点で少なくなく、造船所への引き合いも増えていた。一方、船主を取り巻く事業環境は良好とは言えない。

 「中国経済の減速懸念やコロナ後の滞船解消、地政学リスクなどが意識される中、24年の海運マーケットが急回復する材料は少ない。加えて、ドル金利高で資金調達コストが大きく膨らんでおり、船価がこれ以上上がれば多くの船主が本格的に様子見に入り、受発注が停滞する公算が大きい」(商社船舶部)

 好市況なら期先成約も

■商談スローダウン
 潤沢な手持ち工事を確保した造船所と、船価の高止まりで発注に様子見姿勢の船主。24年は両者のにらみ合いが続くとみられる中、日本造船所の新造船受注量はどう推移するだろうか。

 「24年の日本の受注量は、年間竣工量と同程度の900万総トン前後になると予測している」

 国内造船所と商社船舶部の見立ては、この内容でほぼ一致している。

 日本船舶輸出組合のまとめによると、23年の日本の輸出船受注量は1―10月累計で前年同期比16%減の811万総トン。このペースを維持すれば、通年では1000万総トン程度に着地する見通しだ。

 船価回復で受注が急増した21年とその勢いを前半まで維持した22年の実績は下回るが、海運市況が大底だった16年以降で見れば、両年と18年に次ぐ水準となる。

 24年の受注量がそこから1割程度減少するとの予測が多いのは、造船所と船主のにらみ合いが長期化し、新造商談がスローダウンすることを織り込んでいるからだ。

■上振れのシナリオ
 ただし、以上のシナリオは海運市況が平年並みに推移することが前提。ドライバルクを中心に用船マーケットが本格的な上昇局面に入れば、船主と造船所の膠着(こうちゃく)状態が崩れ、新造発注が異例の期先納期までさらに進む可能性もある。

 「24年は新造商談がスローダウンし、受注量が年間竣工量と同程度に落ち着くのが現実的な予想だ。しかし、海運マーケットが想定以上に好調に推移し、為替相場も23年の円安水準が維持され、新造案件が先物納期でも増えてくるなら、日本造船所は採算が合う限り28―29年船台まで受注を進めるのではないか」(同)

 特に各社が主力とする中小型バルカーは現時点では、重油焚(だ)きの最新鋭船が最も環境性能に優れたデザインと考えられている。だが、環境規制の行方次第では、新燃料船が新造整備の主流にいつ躍り出ても不思議ではない。

 こうした中、造船所には新燃料船より工期が短く、連続建造でコストも抑えられる重油焚きバルカーで、「好採算の案件があれば極力先物まで受注したいとの心理が働く」(同)との見立てだ。

 その兆しは昨年末、かすかながら見え始めていた。

 バルカーの主要航路平均スポット用船料は12月初め現在、ケープサイズが5万ドル台、パナマックスが2万ドル台、スープラマックスが1万6000ドル台、ハンディサイズが1万4000ドル台。全船型で一般的な新造船の損益分岐点を大幅に上回って推移している。

 これを受けて船主心理は急速に改善しており、「27年前半や同年半ば前後の先物納期でも、発注を具体的に検討する船主が国内外で一定数出てきた」(国内造船所関係者)。

 24年は、ドライ市況が年初の軟化から例年復調する中国の旧正月(春節)が明けるのは2月半ば。この時期に新造商談がどこまで活発化するかが、今年の新造船マーケットの最初の焦点になりそうだ。

引用至《日本海事報》2024年01月01日 デイリー版6面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292397

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