伊予銀行シップファイナンス部長・佐藤浩一氏。星港と連携、バランス重視
伊予銀行(本店・松山市)は、船舶融資の専門部署であるシップファイナンス部を愛媛県今治市内に置く。同社の船舶融資残高は2023年9月末時点で1兆円強まで伸びた。「瀬戸内を中心に東京、シンガポールに拠点を持つ強みを生かして日本の海事産業に貢献していきたい」と話す、シップファイナンス部長の佐藤浩一氏に同行の現状と展望を聞いた。(聞き手 山本裕史)
■新燃料船にも対応
――最近の船舶融資の特徴は。
「脱炭素の潮流が強まっていることに伴い環境対応船が増えている。新燃料と併用のデュアル(2元)燃料船は船価が高いが、そうした船舶にはオペレーター(運航船社)の中長期用船が付いているケースが多い。当行では必ずしも用船契約の内容だけをもって審査を行っているわけではないが、高価格船では信用力のある用船者による定期用船契約の有無は審査判断の大きなポイントになる」
――用船先の海外と日本の比率はどうか。
「最近、持ち込まれている案件では、おおよそ海外が8割、日本が2割というところだ。海外船社の用船案件が引き続き多いが、今後は邦船オペレーターの用船案件も増えてくるのではないかと期待している」
――新造船価格が高騰している。日本船主の新造船発注にはどう対応しているか。
「新造船の発注については、日本船主の中にもばらつきがあると思う。企業与信の高い日本船主は26―27年の先物新造船、用船先未定で発注するケースもある。そういうケースでも、自己資金を一定程度まで引き上げてもらえば、融資対象になる。われわれの取引先の日本船主は数隻しか保有しない船主もいれば、相当数の隻数を保有する船主もいる。コーポレート(船主の企業与信)を見る場合も、こうした総合的なバランスを重視することが必要だと思っている」
――伊予銀行はS&LB(セール&リースバック、売買後の再用船)案件が少ない印象だ。
「S&LB案件も数は少ないが融資実績はある。船主がBBC(裸用船)でオペに船舶を貸し出す場合、本船の船舶管理はほとんど全てオペが行うのが通常である。例えば危険地域への配船など、BBCにはリスクがあるというのが一般的な認識だ」
「しかし、当行はS&LBだからやらない、BBCだからやらない、という考えではない。オペに依拠した契約なので、オペの与信、そして船主の与信、そうしたことを総合的に判断して融資の審査を行っている。大事なのは総合的なバランスではないか」
■星港支店を活用
――バランスとは、具体的にどういう意味か。
「われわれは地域金融なので、まずは地元の産業育成という点から出発している。これは何も地元の船主にしか融資しないというわけではない。シンガポール支店では実際、海外の案件を複数手掛け、現在の融資残高は17億ドルまで積み上がっている」
「当行が重視するのは、案件が『顧客のためになっているかどうか』という点にある。用船契約内容、自己資金投入率、投資目的など融資審査の要素は多岐にわたるが、必ずしも全ての要素が低リスクに仕上がっていなければならないというものではない。総合的に見て取引先船主の将来にとって有益な投資だと判断できれば融資は可能であるし、逆に顧客にとっての投資妥当性が見いだせなければ融資も難しくなるということだ」
――シンガポール支店との連携はどうか。
「シンガポール支店は16年の開設以来、順調に進んでいるが、課題も多い。今治に拠点を置くシップファイナンス部としては、このシンガポール支店とどう有機的に連携していくかがポイントとなる」
――具体的には。
「人材交流を含め、海外で得た知見をどう日本の船主に還元していくか、という点になる。シンガポール支店で得たノウハウを日本船主の船舶融資へのアドバイス、融資判断にプラスになるように活用していきたい。シンガポール支店で蓄積している経験は当行にとって貴重な財産だ。今後、この財産をどう日本に還元していくか。その点が今後の課題だろう」
さとう・こういち 93(平成5)年、伊予銀行入行。波止浜支店次長、審査部課長、シップファイナンス部課長、次長を経て21年から現職。52歳。
引用至《日本海事報》2024年01月17日 デイリー版1面