BIMCO事務総長兼CEO デビッド・ルースリー氏。解撤条約発効、矛盾解決を

紅海におけるイエメンの親イラン武装組織フーシ派による船舶攻撃で航路変更を余儀なくされるなど、混乱する海上輸送。一方、2050年カーボンニュートラル実現に向け、環境規制の動向についても注目が集まる。転換期にある業界の課題と展望について、国際海運団体BIMCO(ボルチック国際海運協議会)のデビッド・ルースリー事務総長兼CEO(最高経営責任者)に聞いた。(聞き手 神頭久)

――紅海危機により、緊迫状況が続く。

「昨年12月と今年1月に、フーシ派による商船への攻撃に対し非難声明を出した。2月には拘束されている船員の解放を求める声明を発表した。船員の安全が脅かされ、海上貿易が混乱している。船員と国際海運を守るためにこの地域に軍艦を派遣する国々に感謝するとともに、脅威緩和へのあらゆる対策を支持する」

――BIMCOは用船契約書の標準書式において戦争危険条項の「VOYWAR」と「CONWARTIME」の改定を計画している。

「VOYWARとCONWARTIMEの最終更新は13年だが、これらが目的に適合しているかを確認するための分科会を設立し、更新の必要な箇所について検討している。今月開催されるBIMCO文書委員会(DC)では、これらが議題となる予定だ。分科会の修正案をDCで議論し、今秋または来春ごろに新しい条項を発表する予定だ」

■EU域外にも必要

――シップリサイクル条約が25年6月から発効する。EU(欧州連合)が承認する解撤ヤードのリストだけで需要を満たせるか。

「22年10月にわれわれが発表した、解撤ヤードのリストに関する報告書では、これらの施設だけでは需要に対応するためのキャパシティーを満たせないと示した。基準を満たすEU域外のヤードを追加する方向にシフトする必要がある。解撤場所が集まるインド、バングラデシュ、パキスタンなどのヤードはまだEUのリストに含まれていないが、これらの多くのヤードが改善に向けて多大な努力をしている」

「同条約の発効は、シップリサイクル産業にとって新たな時代の幕開けとなる。同条約とバーゼル条約間の法的矛盾が、この歴史的な機会を妨げてはならない。われわれは第81回海洋環境保護委員会(MEPC81)に先立ち、国際海事機関(IMO)に対し、これらの解決を求める文書を提出した。条約間の矛盾は、船主、解撤ヤード、船舶に重大な影響を及ぼす」

■最初の格付け注視

――CII(燃費実績格付け制度)へのレビュー・グループが設置された。寄せられたフィードバックは。

「レビュー・グループで二つのアンケートを実施した。現在、多くの関係者は、EU排出量取引制度(EU―ETS)の実務的・商業的な体制を整えることに専念しているようだ。第1回調査の結果、定期用船契約用CII条項は、さまざまな度合いで受け入れられていることが明らかになった。CIIに関する交渉の出発点として役立っており、一部の用船契約では修正の有無にかかわらず合意されている。用船者と船主のコンセンサスを得ることは、規制の枠組み上容易ではないが、春には最初の格付けが発表されるため、引き続き注視する」

――船舶からの水中放射騒音(URN)へのIMOのガイドラインについて。

「われわれは最近、サウサンプトン大学が実施したURNの研究の論文に、ICS(国際海運会議所)、INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)、IPTA(国際区画タンカー協会)と協賛した。論文では、URNレベルを下げる潜在的要因として、エネルギー効率対策を挙げている。このため脱炭素化は、水中の騒音レベルを大幅に減少することに寄与する可能性がある。船舶により優れた技術を導入するとともに、分析力とデータの可用性を高め、運航速度を下げることでURNが改善することが期待されている」

――海事法や契約への独自の研修プログラムについて。

「今後数年間で、われわれは日本を含むアジアでのトレーニングを拡大していく。地域のオフィスから直接トレーニングセッションを実施することができるよう、新たなパートナーシップを構築する。オンライントレーニングの受け入れが拡大していることで、アジアのさまざまな国や日本からも参加者が集まっている。オンライントレーニングは、これらを提供するために実用的な方法であると考えている」

――業界関係者へ向けたメッセージは。

「世界の業界関係者には、運航の効率化に対し可能な限り早急な対策を講じることを望む。脱炭素化を目指す上で、効率の向上はGHG(温室効果ガス)排出量を滞りなく削減できる。これまでの速く航走し目的港近辺で待機する『Sail Fast, Then Wait(SFTW)』という一般商船の慣習を見直し、航海計画を改善するための海事シングルウインドーの導入を推奨する。船舶の目的地到着の最適日時を通知する統合システム『ブルー・ビスビー・ソリューション』では排出量を15%削減できる」

「国際海運は、GHG排出量を40年までに70%以上削減し、50年にはネットゼロを達成するという課題に直面している。早急な排出量削減に向け、効率化を加速させる必要があり、われわれはこれを支援する。効率化により、海運業界は足元でのメリットだけでなく、より高価な代替燃料に移行された将来、大きな報いを受けることができるだろう」

 

 

引用至《日本海事報》2024年03月18日デイリー版1面

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