コンテナ船、SC混乱再燃の懸念も。3大アライアンス、スエズ航行回避で
紅海でイエメンの親イラン武装組織フーシによる商船攻撃が相次いでいることを受け、コンテナ船の3大アライアンス全てがスエズ運河の通航中止を決めた。これにより、定期配船に大きな影響が出ている。各社はアジア―欧州・地中海航路を喜望峰経由に順次切り替える方針で、長距離化によるスケジュール遅れや、ハブ港での混雑が予想されている。パナマ運河の通航制限継続なども加わり、グローバルサプライチェーン(SC)の混乱が再燃する可能性も出てきた。
スエズ運河航行中止を決め、対外公表したのは、MSC、マースク(以上2M)、CMA―CGM、エバーグリーン(以上オーシャンアライアンス=OA)、オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)、ハパックロイド、陽明海運、HMM(以上ザ・アライアンス=TA)の各社。OAのCOSCOも一部顧客にはすでにスエズ運河経由の中止を説明しているという。これにより、3大アライアンスの全てが、アジア―欧州・地中海航路でのスエズ運河通航を取りやめることになる。
コンテナ船関係者によると、喜望峰経由の場合、トランジットタイムは10日―2週間長期化し、船型にもよるが燃料費などで1ラウンド100万―200万ドルの追加コストが発生するという。
2週間の長期化で、スケジュール維持には各ループ2隻が必要となる計算だが、現在のアジア―欧州・地中海航路で各ループ投入船型を2隻ずつ増やすと単純計算で100万TEU弱のキャパシティーが追加で必要となり、需給引き締めにはつながりそうだ。
また、スケジュールの乱れ、接続港の変更などから、ハブ港での混雑悪化も予想され、SCにとっては混乱要因が増える。
スエズ運河では2021年3月、コンテナ船「EVER GIVEN」が座礁し、ほぼ1週間航行ができなくなり、改善に向かっていたスケジュールの定時性が再度悪化した。ある関係者は「北米西岸港湾での大規模滞船など物流全体が混乱していた当時とは状況が異なるが、ガザ情勢(イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻)が1週間で解決するとは思えず、影響は(EVER GIVEN座礁時と比較して)より深刻ではないか」との見方を示した。
また、欧州・地中海航路が喜望峰経由となった場合、長期契約での輸送条件とは異なるため「契約運賃は使っていただけない。コスト増に見合った運賃をお願いすることになり、今後荷主の理解を得るべく説明していくことになる」(外資メガキャリアの日本法人営業責任者)という。
パナマ運河の渇水による通航制限も、コンテナ船の定時運航にマイナスの影響を与えている。定期配船のコンテナ船は事前予約しているため、他の船種より相対的に影響は少ないが、混雑の余波でスケジュールが乱れがちだ。TAでは、アジア―北米東岸サービスの一部をパナマ運河経由ではなくスエズ運河経由にシフトしようとしていたが、今回のスエズ通航回避で対策の見直しを迫られることになる。
スポット運賃にも影響が出始めている。ノルウェー・ゼネタがまとめたコンテナ運賃指標によると、極東発欧州向け運賃指標は11月上旬まで緩やかに低下してきたが、15日付指標は1FEU当たり1560ドルで、前週比5%増、前月比21%増と上昇傾向が顕著だ。ある外船社営業担当者は「日本出しでも、一定の運賃水準でないとスペースが確保しづらくなってきた」と語る。
海上輸送の混乱を受け、航空輸送へのシフトも予想される。
ある日系フォワーダーは「足元は欧州がクリスマス休暇で、大規模な緊急輸送需要は見込んでいないが、日本発では自動車部品などで週末にかけて緊急出荷が出る可能性はある。この状況が続けば年明け以降航空への影響は拡大するだろう」との見方を示した。
引用至《日本海事報》2023年12月21日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292203