ホンジュラス、パナマ運河を陸路で代替。「ドライキャナル」構想に政府本腰
中米ホンジュラスで、パナマ運河を陸路で代替する「ドライキャナル」構想が加速しそうだ。昨年末、カストロ大統領が開発に本腰を入れると表明した。パナマ運河の混雑がアジア―欧米間の貿易停滞を招いていることから、米国政府なども協力を表明。日本も政府開発援助(ODA)や民間企業の参画による開発支援が視野に入る。同構想のキーマン、中原淳・駐ホンジュラス日本国大使に聞いた。
同構想は2010年代後半に立ち上がったもので、ルートは地図の通り。主に、アジアから欧米に向かうコンテナ貨物を、太平洋側に位置するアマパラ港でトレーラーに積み替えて陸路で北上。大西洋側のコルテス港で再びコンテナ船に積み込む構想だ。昨年12月にカストロ大統領が重要事業に位置付け、年初には開発に向けた特別委員会を立ち上げた。
JICA(国際協力機構)などの調査によれば、上海―米サバンナ間のコンテナ輸送でドライキャナルを利用した場合、混雑中のパナマ運河と比べて輸送日数を24日ほどに半減できる。コストは余計にかかるが、パナマ運河は混雑解消の手だてに乏しく、既に高騰している通航費がさらに上昇する可能性が高い。
地図で示したルートの9割方は完成済み。大西洋側のコルテス港はもともと、中米有数の港湾に数えられ、同国を縦断する約300キロメートルの幹線道路は21年末に完成して供用を開始している。太平洋側の近島・ティグレ島に整備するアマパラ港と、同島にアクセスする2キロメートルほどの橋の建設が残る。21年の政権交代後、構想全体が滞っていた。
■米など強力支援
ホンジュラス現政権に近い中原大使は、「ドライキャナルは前政権の政策のため、現政府が積極的に進めづらかったが、パナマ運河の混雑悪化で潮目が変わった。米国が本気で支援に乗り出そうとしていることも大きい」と説明する。既に米国や韓国、スペインが数億円単位の調査費の拠出を表明しているほか、近年、関係が近づく中国も触手を伸ばす。米国は南北を縦断する鉄道の敷設計画もほのめかしている。
中原大使は元国土交通省のキャリア官僚として国土政策局長などを歴任。21年からホンジュラスに大使として駐在し、ドライキャナル構想の再開を現政府に働き掛けてきた。豊富な法整備の経験から道路行政に明るく、実質的な筆頭閣僚で大統領の長男、エクトル・セラヤ秘書官の信頼が厚い。「パナマ運河の混雑は、日本をはじめアジア貿易の成長にとっても深刻な懸念材料だ。日本政府もバックアップしてくれている」(中原大使)
中原氏は、港湾や橋梁の開発は早ければ3年後にも着手し、10年以内の供用開始を見込む。アマパラ港が位置するフォンセカ湾は水深が深く、大型コンテナ船が接岸できる水深20メートル級の港湾を開発できる点も強みだ。米大陸は大深水港が少なく、コンテナ船の大型化への対応が遅れている。
港湾・橋梁の開発には1000億円ほどかかると見られ、各国政府の支援と民間資金を組み合わせた開発が想定される。「特に橋梁建設では日本企業の技術が生きる。コンセッション(民間への運営委託)方式などで民間企業が投資回収しやすい仕組み作りを促していく。完成後に日本の船社や物流会社が利用しやすいよう、一定の発言権を持つためにも日本の官民の投資が必要だ」(中原氏)
引用至《日本海事報》2024年03月21日 デイリー版1面