マースクゼロカーボンシッピング研究所CTO トーベン・ノルガールド氏、代替燃料 LCAで評価を

日本企業を含む海運業界の主要プレーヤーが参画するマースクゼロカーボンシッピング研究所(MMMCZCS)は代替燃料などの研究開発を通じ、海運業界の脱炭素化に取り組んでいる。13―15日の3日間、シンガポールで開催される国際海事展「アジア・パシフィック・マリタイム」(APM)では、MMMCZCSのトーベン・ノルガールド最高技術責任者(CTO)が基調パネルに登壇。海運業界のネットゼロ達成に向けて議論を行う予定だ。ノルガールドCTOに話を聞いた。(神頭久)

■代替燃料の課題
 ――船舶の脱炭素における代替燃料について。それぞれのメリットと課題は。

 「現在、船舶向けの代替燃料はアンモニア、メタン、メタノール、バイオ燃料などだ。メタンはLNG(液化天然ガス)のインフラが使用できる点で素晴らしい選択肢だが、温室効果が高いメタンスリップ(未燃焼メタンの漏えい排出)は考慮すべき点だ」

 「メタノールは、技術面での利用可能性が高く、準備も進み、導入することは容易だ。下流への投資は進む一方、上流への投資を集めることが課題だ」

 「アンモニアは上流への投資が成熟しつつある。船舶での導入には下流への投資が必要だ。新たな設計、エンジン、乗組員の訓練、船舶への新しい安全基準が必要だ」

 「バイオ燃料は、重油と同じインフラで導入でき、費用対効果に優れるが、長期的かつ持続可能な生産への準備が課題だ。廃棄物や残留物を原料とする第2世代のバイオ燃料が求められている。これには高温ガス化の技術が必要だが、商業利用可能な規模のものはない。これらの技術が市場に参入するには、時間がかかりそうだ」

 「これらの代替燃料では、完全な脱炭素化のために市場全体をカバーすることができず、全て並行して稼働する必要があると考える」

■業界標準が必要
 ――海運業界での代替燃料のLCA(ライフサイクルアセスメント)を標準化することの重要性は。

 「LCAの方法論は、(船舶での消費時・輸送時だけでなく)燃料の生産、消費、輸送、取り扱いに関連するGHG(温室効果ガス)排出を網羅するバリューチェーン全体への評価を確立することだ。さまざまな燃料経路(Fuel Pathway、原料、生産工程・燃料の種類など)にまたがるLCAにより、排出量の観点から、完全な燃料および燃料経路を、そうでないものと区別することができる」

■漏えい排出考慮
 ――LCAへのMMMCZCS独自のアプローチについて。IMO(国際海事機関)が定めたガイドラインとの関係は。

 「MMMCZCSのLCAでは、漏えい排出の要素を考慮する。燃焼に伴う排出ではなく、プロセス全体を通しての漏出だ。メタンを低排出燃料として機能させるためには、LCAにおいてメタンスリップをどのように考慮するかを検討し、これらに関する健全な運用原則を確立する必要がある」

 「われわれのLCAの手法は、一般的な算定原則を使用する他の基準と同等だが、海運特有の要件に焦点を当て、IMOのガイドラインが実装する内容に幾つかの条件を追加している。漏えい排出の分野と個々の燃料経路について、より踏み込む。われわれの方法論は、5―10年の視点で学習を成熟させるため、IMOのガイドラインの開発ビジョンと見ることができる」

 ――25年1月発効予定のFuelEU Maritimeに関して、国際海運の準備状況と課題は。

 「この規制の具体的に実施についてはまだ多くの学習が必要だ。代替燃料の普及を促すため、罰金制度を含めた燃料基準の施行が開始される。ペナルティーが課されることもあるが、投資と移行を促進する賢明な手段として、われわれはそれを前向きに捉えている」

 「APMでは、海事産業へのカーボンニュートラル移行に向け、世界的な合意や排出基準などに加え、これらの規制の潜在的な影響について議論する予定だ」

■「全体知識」統合
 ――MMMCZCSに参画するメリットは。

 「当センターとの提携により、業界の最前線でカーボンニュートラルへの移行を加速できる。われわれはバリューチェーンにおける24社の戦略的パートナーを擁する。パートナーとは非常にユニークな方法で提携し、われわれが財団からの助成金に基づいた独自のリソースを展開することができる一方、戦略的パートナーは機密情報やデータにアクセスできる」

 「各パートナーのスペシャリストが当センターに出向し、われわれの教育下で業務を行うことで、燃料生産、輸送、港湾、燃料補給、荷主、船級協会に至るバリューチェーン全体の知識を統合する能力が得られる」

 「当センターはこれらの出向者を、脱炭素化への移行を促進するリーダーとしてそれぞれの組織に戻すことが脱炭素化を推進するための重要な要素であると考える」

■日本の役割期待
 ――日本のパートナーや協力者に向けて。

 「日本が海運の脱炭素推進に重要な役割を果たすのは素晴らしいことだ。セクターの相乗効果に着目すると、日本の海事産業のみならず、日本の社会全体が地元の発電所産業を通じたアンモニア利用を推進していることが分かる」

 「アンモニア燃料の輸送レーンとして機能する最初のグリーン海運回廊を確立することは、海事産業にとって主要な焦点の一つになるだろう。燃料としてのアンモニアの実証だけでなく、シンガポールのように、これらの燃料や輸送の将来的な中心地として機能することを期待する」

引用至《日本海事報》2024年03月12日 デイリー版1面

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