新春インタビュー 日本港運協会・久保昌三会長。日本港湾2023―24:回顧と展望。港の強化 全力で推進

『競争力強化』を3本柱とする国際コンテナ戦略港湾政策については、京浜港・阪神港を10年に選定して以来、戦略港湾への貨物集中や港湾運営会社の設立、港湾機能の高度化といった諸施策を総合的に展開し、北米、欧州方面に直航する国際基幹航路の日本寄港維持・拡大に取り組んできた。23年には一時途絶えていた北米東岸航路で2年ぶりに日本寄港が復活するなどの成果もあった」

 「とはいえ、単に戦略港湾を選ぶだけでは十分ではない。国土交通省ではいま『新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会』を設置しているが、将来に向けた一手の議論は正しいものの、いまやるべきことは既存の戦略港湾政策をもっと深掘りし、その成果を上げていくことだろう。地方港から戦略港湾に貨物を集める『集貨』、企業誘致や保税区などの設置による『創貨』、これらは国策であることをしっかり留意しながら取り組むことが大切だ」

 「地方港から戦略港湾への集貨の要である国際フィーダー網の充実だが、課題だった日本海側のネットワーク拡充も21年末の神戸港から敦賀、舞鶴、境港へのサービス開始を皮切りに、22年の北九州・ひびきコンテナターミナル経由での秋田・新潟への寄港など着実に地歩を固めてきた。さらに大半が250TEU型以下だったわが国の国際フィーダー航路の船型も、京浜―苫小牧航路に1000TEU型が就航するなど大型化している」

 「こうした諸施策の積み重ねもあり、22年度の内航フィーダーコンテナ輸送量は12%増の90万TEUと、過去最高だった18年度と同水準となった。伸び率では韓国・釜山フィーダーを上回っているほか、輸送量の差も縮小傾向にある」

 「こうした国際フィーダーの奮闘は非常に喜ばしいが、内航船社など民の努力だけでは限界がある。また国際フィーダーの寄港が地方港にとってメリットを享受できるような補助・支援制度もさらに必要だろう。また海外港湾の事例にあるように、特別保税区を組み合わせることも、アジアからの広域集荷に資することになるのではないか。集貨への取り組みを進められるような仕組み作りを、国主導で引き続き進めてもらいたい」

■最新技術で人材確保を
 ――港湾の脱炭素化に向けた取り組みは。

 「社会のあらゆる分野で同時進行的に進む『脱炭素化』の流れに、ひとり港湾が取り残されることがあってはならない。国、地方自治体が全国各港で進めているカーボンニュートラルポート(CNP)形成に向けた取り組みには、業界としても積極的に対応していく必要がある」

 「しかしながら、中小事業者の割合が9割近い港運業界は、多くの事業者の経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)であり、脱炭素化のため荷役機械を一気に環境対応型に切り替えることは現実的ではないので、より効果的で長期的な視点に立った支援制度の充実を引き続き求めたい」

 「全国の港でCNP形成の取り組みが進むなか、23年11月から港湾ターミナルでの脱炭素化の取り組みを客観的に評価する認証制度『CNP認証(コンテナターミナル)』の試行が行われている。試行に当たっては国内の主要港から六つのターミナルを選び、評価基準に必要な情報を提供してもらい、基準の妥当性や体制などを検討すると聞いており、港湾の脱炭素化を国内外でリードしていくことに資する取り組みとして期待している」

 ――物流の「2024年問題」が本格化し、運輸の各分野においても人材確保が喫緊の課題となる。港湾運送での対応は。

 「少子高齢化が進む日本においてはどの産業も人手不足で苦労しているが、港湾運送においても例外ではなく、ギャング(荷役作業チーム)のシフトが組みにくくなっているとの声が聞こえてくる」

 「国では一昨年『港湾労働者不足対策アクションプラン』を策定・公表し、総合的な施策メニューを示しつつ官民で取り組みを進めているところだ。若い人に興味を持ってもらい、魅力とやりがいを実感できる職場作りこそが、本当の意味での人手不足対策になるだろう」

 「そのためには、港湾現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や荷役機器の遠隔操作など最新技術の導入が不可欠となる。遠隔操作RTG(タイヤ式トランスファークレーン)の導入やAI(人工知能)ターミナル形成、サイバーポートの普及による港湾物流効率化は、これからの港湾の生産性向上と職場環境の改善でどれも不可欠な施策である」

■官民連携で持続可能な港へ
 ――施策の推進で見えてくる港の将来像とは。

 「サイバーポートやDXの推進によって港湾現場の効率性が向上して労働環境を大きく改善すれば、女性や高齢者などより幅広い人々に港の業務に携わってもらうことが可能となる。すでに現在の港湾現場で働く作業員は荷役機器を操作したり情報端末を駆使したりと、かなり高度な働き方を求められている。現在の港湾現場は、人海戦術で肉体を酷使せざるを得なかった昔とは様変わりしているが、残念ながら現状が必ずしもきちんと認識されているとは言い難い」

 「遠隔操作RTGの導入やAIターミナルの実現などにより、世界の趨勢(すうせい)に劣後しない効率的な港湾の構築に取り組むことが大切だ。それが、ひいては若い人を引きつけて人材の確保につながり、日本の港湾の持続可能性につながるものと信じている」

 ――最後に、24年の展望を。

 「冒頭申し上げた通り、国際情勢は厳しさを増し、地政学的なリスクが高まっている。また、脱炭素化の流れについても、大枠では揺るがないものの、より現実的な解を求める動きも出てきている。そして、国内に目を転じれば、人手不足の問題は日本社会全体の構造的なものであるため、その解決は一筋縄ではいかない」

 「これら内外を取り巻く課題に対処していくためには、事業者の知恵を取り入れながら官民連携しつつ一歩一歩進めていく姿勢が重要である。港湾運送は業種によって立ち位置が異なるし、労働組合との関係もある。それでも、港湾の持続可能性を確かなものにしていくためには、おのおのが小異を留保しつつ、大局的な視点で処方箋を考えていく必要があると考える。関係者が手を携えながら、『昇り龍』のごとく上昇気流に乗っていく。24年の日本港湾がそのような気概で進んでいけるよう努力したい」

 くぼ・まさみ 63(昭和38)年上組合資会社(現上組)入社。常務、専務などを経て04年社長に就任。12年代表取締役会長・経営責任者・取締役会議長、23年6月から名誉相談役。93年日本港運協会理事、96年常任理事、04年6月副会長、09年6月から会長。兵庫県出身、81歳。

引用至《日本海事報》2024年01月05日 デイリー版2面

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