自動車船、発注残200隻に。需給緩和か均衡か
完成車などを運ぶ自動車船の新造発注残が約200隻まで積み上がった。自動車船の世界の船腹量は約700隻で、発注残は輸送能力換算で既存船の4割近くに上る。そのため、新造船の竣工が集中する2025―26年に船腹需給が緩む可能性が懸念されている。一方で、自動車船のスペース不足でコンテナ船などに流れた貨物が自動車船に回帰することで需給がバランスした状態が続くとの見方もある。
欧州の自動車船大手ワレニウス・ウィルヘルムセンによると、今年3月末時点の世界の自動車船(2000台積み以上)の船腹量は707隻。標準車換算の輸送能力は約420万台。
それに対し、自動車船の新造船発注残(2000台積み以上)は199隻。輸送能力換算で発注残は既存船の約38%に当たる。
新造船の竣工時期は24年が35隻、25年が71隻、26年が58隻、27年が30隻、28年が7隻。
自動車船の発注残は、20年ごろに20隻を割り込むほどまで落ち込んだ。船舶の供給過多で運賃競争が激化し、オペレーター(運航会社)が再投資できない状況が続いたことが主因だ。
その後、荷動き回復と運賃改善を受け、オペは船舶投資を再開。オペに船腹を拠出する船主も投資に踏み切った。それにより新造発注残は4年ほどで10倍に拡大した。
自動車船を巡っては、中国発の荷動き急増が需給逼迫(ひっぱく)の一因となっている。中国船社が自国の荷主の輸送ニーズに応えるため、自前の船隊構築に乗り出したことも発注残を押し上げた。
自動車船の発注残がリーマン・ショック前の過去最高水準近くにまで積み上がったことに対し、海運関係者は需給バランスが崩れる要因になり得ると危惧している。
「船舶の供給の伸びを上回るほどに完成車の海上荷動きが伸びるとは考えにくい」(海運関係者)ためだ。
自動車メーカーの生産回復を背景に、足元では輸送需要は旺盛で船腹需給はタイトな状況が続く。ただ、輸送需要を左右する自動車販売市場にやや陰りが見られるという。
中国の今年1―3月の自動車輸出は前年同期比33%増の132万台だった。順調に伸びてはいるが、伸び率は鈍化し、欧州向けEV(電気自動車)輸出が規制される可能性もある。
市場関係者は「スエズ運河の迂回(うかい)がなければ、自動車船の船腹需給は緩和していたかもしれない」と、事業環境に変化の兆しが見られるとの認識を示す。
一方で、新造船の供給増加により自動車船の需給逼迫は解消するものの、需給がバランスした状況は25年まで続くとの見方もある。
仮に船腹余剰になれば高齢船のスクラップ処分が進み、減速運航も広がるとみられるためだ。他の船種で運ばれている自動車が自動車船に回帰する可能性もある。
中国の23年の自動車輸出台数は、前年比57%増の約522万台に拡大し、日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった。
中国から輸出される完成車のうち、4割程度がコンテナ船やオープンハッチ型バルカーなど他の船種で運ばれているとの情報もある。
輸送品質や効率に関しては、自動車を運ぶために設計された自動車船に分がある。自動車船の供給が増えれば、他の船種で運ばれている完成車が回帰する可能性が高い。
引用至《日本海事報》2024年05月27日 デイリー版1面