2024年問題、規制的措置で変わるか。物流関連2法 改正案注目
物流危機が懸念される「2024年問題」に対応し、今国会で審議中の物流関連2法の改正案が注目を集めている。企業に広く物流効率化への努力義務を課し、特に大手の発着荷主と物流事業者を「特定事業者」として取り組みを義務付ける。荷主の生産や販売とコスト削減を支えるため、物流への負荷は増すばかりだった。しわ寄せを受けたのが現場のドライバーだ。法改正により、物流業界に変革は訪れるのか。
改正案を目にした大手メーカーの物流担当者は顔をしかめた。「トラック業界の過当競争は規制緩和が大きな要因だろう。そのツケが回ってきただけだ。商慣習がなかなか変わらないのは理解できるが、政府が市場原理を曲げようとしているようで釈然としない」
トラック運送の規制緩和は1990年に始まり、それ以前に4万社ほどだった運送事業者は6万数千社に増加した。供給過剰で値崩れが起こり、社会保険の未加入といった違反行為も横行した。一方で多品種・小ロット・短納期の取引が広がり、物流負荷が増していった。
現場のドライバーの労働条件は悪化し、労働時間は全産業平均より約2割長く、年間賃金は約1割低い状態になっている。倉庫などでの荷待ちも増え、荷役などのサービスも商慣習化した。
その構図の限界が見えてきた。4月からドライバーの時間外労働時間や拘束時間の上限が引き下げられる24年問題により、ドライバー不足が顕在化。NX総合研究所によると、対策を打たなければ24年には14・2%、30年には34・1%の輸送力が不足する可能性がある。
そこで政府がドライバーの待遇改善、物流生産性の向上と輸送力の引き上げに向けて打ち出したのが、物効法(流通業務総合効率化法)と貨物自動車運送事業法の改正だ。
物効法改正案のポイントは荷主の責任を明確化し、規制的措置を導入することにある。政府はこれまで社会的規制を強化し、法令や数々のガイドラインで改善を促したが、効果は限定的だった。物流事業者の立場は弱く、荷主の承諾がなければ商慣習を含めた抜本的な改善は難しい。識者は「荷主を動かすには強制的な力が必要だ」と解説する。
改正案では発荷主ばかりでなく、物流事業者と直接取引関係にない着荷主への規制的措置に踏み込んだ。特に貨物取扱量が一定規模以上の発着荷主を特定荷主として、物流効率化への中長期計画の作成や定期報告などを義務付け、ドライバーの荷待ち・荷役の削減、トラックの積載率向上などを促す。責任者として役員クラスの「物流統括管理者」(CLO)の選任も義務化する。違反すれば最高100万円の罰金を科すこともあり得る。
特定荷主としては、3000社程度の指定を想定。国内トラック運送貨物の半分程度に網をかけることになるという。
改正案に対して、物流事業者はおおむね歓迎するが、懸念されるのは改善のための負担が物流事業者側に偏ることだ。例えば、政府がガイドラインで定めたドライバーの荷待ち・荷役時間の合計を原則2時間以内に抑えるルール。ドライバーがサービスとして行っている荷役作業を倉庫側が引き受けても、対価を収受できる保証はない。また、荷主が荷待ち・荷役の実態把握のために運行データを収集しようにも、アナログな管理が主体の中小・零細事業者の負担は大きい。
■荷主に危機意識
物効法改正案の規制的措置は物流事業者も対象になる。保有車両台数200台以上の大手トラック事業者約400社、倉庫業界でシェア5割を占める100社程度が特定事業者の指定を受ける見通しで、CLOの選任を除いて荷主と同様の取り組みが義務付けられる。
加えて、政府は事業法の改正案にトラック事業者の取引に対する規制的措置を盛り込んだ。運送契約の締結には契約条件の明確化と書面交付を義務付ける。実運送事業者の適正運賃・料金の確保に向けて多重下請け構造を是正するため、元請け事業者には実運送事業者の名称などを記載した実運送体制管理簿の作成を義務化。一定規模以上の事業者150社程度へ下請けに出す行為の適正化に関する管理規定の作成、責任者の選任も義務付ける。一般事業者には適正化への努力義務を課す。
第一報を聞いた大手トラック会社の管理者は「直接取引のある下請けは管理できているが、その先は把握していない。今後の作業を思うと頭が痛い」と話し、「そのコストは誰が負担するのか。また、運賃を上げるにもドライバーの待機料や付帯作業料を払うにも荷主からの原資が必要だ」とつぶやいた。
業界全体で健全な価格転嫁の進展が期待されるが、別の大手の関係者は「大手から中堅は別として、時間外労働規制が強化されてもより多くの仕事を受けようと、ドライバーの労働時間をごまかす事業者がいてもおかしくない。荷主を含め、皆がルールを守らなければ法改正の意味がなくなる」と憂慮する。
これに対して、国土交通省は運送事業者への監査を強化する構えを見せる。「トラックGメン」も悪質な荷主や元請けに監視の目を光らせる。価格転嫁に関しては、政府挙げての対策も進む。
経済産業省の中野剛志物流企画室長は2月、政官民の会合で「(特定)荷主が(物効法に基づく)勧告などを受ければ、役員クラスのCLOの首が飛ぶことになる。これまでとは事情が異なり、各社危機感を持っていると聞いている」と発言した。
実際、大手メーカーの物流子会社関係者は「法令で定められるからには協力会社を含めてしっかり取り組む。本社と各工場の関連部門で連携し、対策を講じる」と話す。
別のメーカー関係者は「既に長距離トラックを中心に需給バランスが変わる兆しもある。『運べなくなる時代』に備え、『選ばれる荷主』を目指したい」と先を見据える。
引用至《日本海事報》2024年04月03日 デイリー版1面