LNG船、船腹需要に影響か。米国輸出許可停止、1億トン分 計画遅延も

米国のバイデン政権が打ち出したLNG(液化天然ガス)輸出許可の一時停止の影響が注目されている。輸出許可済みのLNGプロジェクトは影響を受けず、中東のカタールからの供給拡大も見込まれるため、市場への影響は限定的とみられる。だが、新規プロジェクトの稼働が遅れれば、船腹需要に影響する可能性がある。

 日本エネルギー経済研究所は5日、米国のLNG輸出許可一時停止の影響などをテーマにウェビナーを開催した。

 その中で資源・燃料・エネルギー安全保障ユニットガスグループの柳沢崇文主任研究員は「2026年以降に立ち上がる予定の約1億トン分のLNGプロジェクトが影響を受ける可能性がある」と指摘した。

 影響を受ける可能性があるプロジェクトには、「コモンウェルスLNG」「CP2LNG第1期」など10件(表の 1.、 2.)を挙げた。供給能力は合計で年間1億1300万トン規模に上る。

 「CP2LNG第1期」は、米ベンチャーグローバルLNGが主導するプロジェクト。日本の発電大手のJERAやINPEXが長期購入契約を結んでいる。同プロジェクトについて、柳沢氏は「審査が遅延する可能性が大きい。FID(最終投資決定)が遅れるリスクもある」と述べた。

 JERAとINPEXは同プロジェクトから、それぞれ年100万トンのLNGをFOB(本船渡し)契約で購入する。LNG船の確保も進めているとみられる。引き取り開始時期が遅れれば、海運会社との調整が必要になる可能性もある。

 バイデン大統領は1月26日、エネルギー省(DOE)によるLNG輸出許可の判断を一時停止すると発表した。停止期間は審査基準の見直しが完了するまでとしている。

 米国から自由貿易協定(FTA)を結んでいない国にLNGを輸出する際は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)の承認を得た上で、DOEの審査を受ける必要がある。

 今回のDOEによる輸出許可の一時停止は、現行の審査基準は策定から5年近くが経過し、LNG輸出に伴う米国内のエネルギー費用上昇の可能性やGHG(温室効果ガス)排出の影響を十分に考慮できていないことが理由だ。

 DOEも声明を発表。輸出許可済みの年間3・5億トン分のLNGプロジェクトは影響を受けず、欧州やアジアの同盟国への供給能力にも影響はないと説明した。

 輸出許可済みの3・5億トンは、稼働済みの事業が約1億トン、表の 3. 4. 5.の18件のプロジェクトの計約2億トン、メキシコLNG設備経由の輸出が約0・5億トン。

 米国は現在、年間約1億トンのLNG輸出能力を持つ。23年は豪州やカタールを抜き世界最大のLNG輸出国になったとみられる。さらに、建設中のプロジェクトが稼働すると30年までに輸出能力はほぼ2倍になる。

 柳沢氏は今回の輸出許可一時停止を受けて「国内向け政治メッセージの意味合いが強い印象だ」とした上で、「米国のLNGプロジェクト開発の不透明感が増す」と言及。米国産LNG購入の消極化、新規プロジェクトへの投資の停滞などの影響が考えられるとした。

 米国以外のLNGプロジェクトへの影響については、「カナダの案件にアジアの買い主からの需要が増す可能性がある。その他地域のプロジェクト開発にも追い風になる可能性がある」(柳沢氏)。

 LNG市場への影響に関しては、「カタールのLNG増産計画もあり、現時点で市場への影響は限定的」と予測。ただ、「輸出許可の一時停止の期間によって影響は変わってくる」との見方を示した。

© Copyright - 高甲實業有限公司
- design by Morcept