【人手不足 陸・海・空 荒波の先】 (4)造船の協力会社も危機。構造改革に翻弄

「まず耳を疑った。鋼材価格などは上がっているものの、造船会社は足元で上昇した船価で受注しているほか、円安効果も続いている。まさか建造を止めるとは思わなかった」

元請け造船所の協力会社で構成される造船協力事業者団体、住友重機械造船協同組合の河西良二理事相談役は、今年2月の住友重機械工業グループの新造船事業からの撤退発表を聞いた際の気持ちをこう語る。

造船会社は、自社の従業員だけで船舶を建造するわけではない。協力会社に多くの業務を委託することで、作業を効率化し、コスト競争力強化につなげている。

協力会社のうち構内下請けは、造船所構内に常駐し加工・組み立てや艤装などの業務を担う。足場架設、溶接、鋼板組み立て、塗装、配管工事、電気工事、装置・機器据え付け、保温工事、内装工事など仕事は多岐にわたる。造船の現場で働く人員の比率は、およそ造船会社の技能工が3に対し協力会社は7に達する。

この構内下請けのほか、自社工場で船体ブロック、舵や軸のパーツ、艤装品などを製造し造船会社に納品する構外下請けも協力会社の一種で、造船会社の業務を下支えする。

▼会員の人員2桁減

各造船協力事業者団体で構成される日本造船協力事業者団体連合会の会員は現在46団体(所属企業計1420社)で、2次、3次の下請け会社分なども含め人員は約4万人を抱える。日造協の野口雅史専務理事は「会員の所属企業人員は2019年度から23年度までに14%減少した。特に構内下請けは25%以上落ち込んだ」と説明する。

19―23年度の期間中、国内の造船会社が事業の構造改革を相次いで実施したことが造船業での協力会社の人員縮小にも大きく影響した。

旧三井造船グループは千葉工場(千葉県市原市)、玉野艦船工場(岡山県玉野市)での商船事業を休止(最終船引き渡しは千葉で21年3月、玉野では21年7月)し、国内での建造拠点をなくした。ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は、舞鶴事業所(京都府舞鶴市)での商船建造を終了(21年5月)、修繕事業に特化させた。佐世保重工業と神田造船所(現神田ドック)の2社は新造船事業を休止(22年1月)。それぞれ修繕などに主力事業を移した。

造船会社の構造改革では、建造能力を削減する事例が多く、協力会社の仕事減少につながった。日造協の会長も務める河西氏は、「協力会社は抱えている職人に給料を払っていかなければならず、仕事が減ると、職種が重なる建設業などに移らなければならない」と業界の事情を説明する。新造船から修繕などにシフトした場合でも、「協力会社の人員が3分の1に減ったケースもある。他の造船会社の仕事と掛け持ちなどしていないとやっていけない」と語る。

▼離れたら戻らない

一回「造船」を離れた協力会社は公共工事などに参加し、なかなか戻ってこない中、足元では新造船需要が復活。河西会長は、造船会社から協力会社が人員増加要請を受けているという厳しい状況を明かす。

日造協では、人材確保対策としてPR活動など幅広い取り組みを進める。女性の活躍を紹介するパンフレット「ライフ アンド ワーク」、協力会社の職種を紹介する冊子「造船しごと紹介本」、船ができるまでのプロセスなどを分かりやすく説明するウェブ動画などを作成。日造協のホームページに掲載しているほか、冊子などを自治体、学校に配布している。

協力会社の求人活動を支援するため、自治体の協力を受けUターン・Iターン関連イベントに参加。さらに、社員が友人や知人を紹介するリファラル採用を導入する会員企業の冊子作成をサポートするほか、ポータルサイト「リクルートジャーナル」を開設している。

外国人材の受け入れも積極的に推進する。これまで大きなトラブルも発生せず、「もめたことがないと自信を持って言える」(河西会長)中、在留資格の特定技能1号は、技能実習を終えた外国人材による取得がほとんどで、いわゆる試験ルート経由は限定的となっている。この要因として、河西会長は日本語能力レベルの基準が高い点を指摘する。技能実習2号(3年)までの終了者は、特定技能1号に移行する場合、日本語能力試験が免除になっている現行の運用を新制度でも適用してほしいとの考えを示す。

▼技能工の研修必要

協力会社では、人材不足に加え、現存の人員でも造船技術を持った技能工がほとんどいないことも大きな課題の一つとなっている。初めて造船に携わる人員を多く運用しなければならず、品質や工程維持、安全面で問題が発生する可能性がある。河西会長は、その対応策として全国に6カ所開設されている「造船技能研修センター」の活用を挙げる。

同センターは1999年に因島(広島県尾道市)で設立後、04―07年度に横浜市、兵庫県相生市、愛媛県今治市、大分市、長崎市に相次いで設置された。地元の造船会社や自治体が協力し、日本中小型造船工業会や日本海事協会(NK)などの支援で運営される。一方、設立後すでに20年が経過しており、設備が老朽化。指導者や講師の高齢化による後継者不足などに直面している。河西会長はこの設備維持に向けた国の支援、協力会社技能者へのさらなる活用の重要性を強調する。

協力会社の人員確保・育成と並行して、元請けとなる造船会社の事業安定化にも気を配る。造船会社は商船の建造とともに、日本の安全保障・海上警備を支える艦艇・巡視船や官公庁船の建造も担う。この分野で、国による建造促進と安定した予算確保、物価上昇などを踏まえた適正価格での発注などに期待を寄せる。

新造船事業からの撤退を発表した住重グループは、24年以降新造船の受注をストップ。3月末時点の受注残6隻を26年1月までに全て引き渡し、その後は、洋上風力発電向けを中心とする海洋構造物と関連船舶建造などに事業をシフトする。

住友重機械造船協同組合に自身の会社が所属する河西氏は、住重グループの今回の決断について「営利企業が決めたことに対し、とやかく言うことはできない。その決定を受け入れるしかない」と語る。一方で、最終船を建造後、その次の仕事が生まれるまでのタイムラグを懸念する。「次の仕事は何になりそうで、いつから始まるのか、住重グループに示してほしいと要望している。最終船の建造が終わって事業が切り替わる際に次の仕事の開始までに時間がかかると、例えば神奈川県エリアで造船関連の仕事を掛け持ちしていない協力会社は転業せざるを得ない」

 

引用至《日本海事報》2024年05月09日デイリー版1面

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