ドライ船、航海距離31%増加。パナマ運河、通航隻数は7割減

国際海運団体BIMCO(ボルチック国海海運協議会)のリポートによると、パナマ運河の通航制限を受けて、2024年1―4月に同運河を通航したドライバルク船の隻数は前年同期比74%減少した。同期間にパナマ運河を通航したドライ船の航海距離は31%増加した。ドライ貨物の通航量は減ったが、航海距離が増えたことで、トンマイル(輸送重量距離)では1%減となった。

フィリペ・グベイア海運アナリストは「航海距離が伸びていなければ、荷動き減少でケープサイズ以下の中小型バルカーのトンマイル需要は2%減少していた可能性がある。市況が前年同期を20―30%上回ることもなかっただろう」との見方を示した。

ドライ貨物の通航量が減少した主因は、米国から東アジアに向かう穀物の鈍化だ。中国は米国に代わりブラジルからの穀物輸入を増やした。それらはアフリカ大陸南端の喜望峰経由で運ばれる。

パナマ運河を通航する貨物の34%を、米国産を中心とする穀物が占める。石炭、鋼材、肥料、ペトコークなどのドライ貨物も輸送されるが、通航制限導入後もそれら貨物の荷動きは安定している。

ドライ船はコンテナ船のようにスケジュールが決まっていないため、パナマ運河の通航枠を予約することが難しい。ドライ船社の多くが喜望峰回りかホーン岬回りを選択した結果、輸送距離が伸びた。

 

引用至《日本海事報》 2024年05月30日デイリー版2面

コンテナ運賃、急騰 南北航路にも波及。コロナ禍の混乱再来 懸念も

コンテナ運賃の急騰が続いている。アジア発欧米向けだけでなく、南米向けやアフリカ向けなど南北航路でもスペースが逼迫(ひっぱく)。先週末までの上海発南米東岸向けコンテナ運賃は20フィートコンテナ当たり7000ドルを超えた。これだけの高騰はコロナ禍の混乱が生じた2022年以来。アジア諸港での港湾混雑も深刻になっており、シンガポールでは常時3―4日の沖待ちを余儀なくされる状況という。物流関係者の間では「コロナ禍のサプライチェーン混乱の再来」という懸念が高まっており、予断を許さない状況だ。

「あるフォワーダーが船社に対し、日本発欧米向けで週当たり一定のスペースを確保できるなら、40フィート型でFAK(品目無差別)レートプラス4000ドルを支払うと言ったらしい」。こんな話が広まるほど、足元のスペース不足は深刻となっている。

既に多くの船社で、6月発アジア発欧米向けのスペースがフルブッキング状態となりつつあるようだ。船社は6月中旬以降、FAKレートの引き上げを予定しているが、「そもそも6月はもうスペースは取れないのでは」(フォワーダー)と諦めている声も出る。こうした航路環境のため、NVOCC(海上利用運送事業者)などは船社に対してFAKレートに上乗せした運賃を支払わざるを得ず、スペース確保に四苦八苦している。

こうした激しい値動きはアジア発では多いが、日本発でもここまで厳しいのは21―22年以来。「完全にコロナ禍の時の混乱の再来になりつつある」。あるフォワーダー関係者はこう嘆く。

では本当にコロナ禍の再来なのか。今後の見方は分かれる。

「欧州向けの混雑は、中国EV(電気自動車)の関税引き上げ前の駆け込み需要など、一過性の要因も強いのでは」との指摘は根強い。米国では8月から中国EVに100%関税が課せられるほか、今秋の米大統領選挙で対中強硬姿勢を見せるトランプ氏が当選すれば、中国製品への関税引き上げも予想されることも、前倒し出荷につながっているようだ。一定量が出荷されれば、輸送需要が平準化する可能性もある。

4月からのコンテナ市況の急上昇は、紅海情勢の悪化や荷主による安全在庫積み増しによる前倒し出荷など、コロナ禍の巣ごもり需要に基づいたものではない。また20―21年ごろは新造船竣工量が限定的だったが、24年は新造船だけで200万TEUも増えることが予想される。こうしたコロナ禍との違いもあり、一部では当時のような状況にはならないのではとの意見もある。

それではなぜ、コロナ禍と状況が似てきているのか。コンテナ輸送にとって不可欠なコンテナ機器の供給ができなくなっていることも大きいとの見方がある。

昨年末からの紅海での混乱により、欧州・北米東岸航路では喜望峰ルートへの迂回(うかい)にシフト。このためアジアとの輸送日数が2週間以上増加。アジア諸港、特に中国での空コンテナ在庫が減少した。またアジアから地中海地域はスエズ運河を通航できなくなったことで、各船社がアルヘシラスなど西地中海のハブ港経由でのルートに変更。そのため、地中海諸港やハブ港での混雑が発生。アジアへの空コンテナの回送が遅れていることも指摘されている。

港湾混雑は地中海諸港だけでなく、アジア諸港でも頻発している。世界最大のトランシップ(TS、積み替え)港であるシンガポールではバース接岸前に3―4日の沖待ちが常態化。上海、深圳など中国ハブ港で混雑も悪化し、TSに支障が生じていることが混乱に拍車をかけている。

こうした混乱の影響により、これまで基幹航路に限られていた需給逼迫が南北航路やアジア域内に波及。外的環境は必ずしも同じではないが、混雑に至るプロセスはコロナ禍の混乱と同じ状況になりつつある。

この状況はいつまで続くのか。いまの混雑状況を考慮すると、7―8月ごろまでという当初の予測から、最近では10月上旬の中国・国慶節まで続くという見方も出てきている。

 

引用至《日本海事報》2024年05月30日デイリー版1面

自動車船、発注残200隻に。需給緩和か均衡か

完成車などを運ぶ自動車船の新造発注残が約200隻まで積み上がった。自動車船の世界の船腹量は約700隻で、発注残は輸送能力換算で既存船の4割近くに上る。そのため、新造船の竣工が集中する2025―26年に船腹需給が緩む可能性が懸念されている。一方で、自動車船のスペース不足でコンテナ船などに流れた貨物が自動車船に回帰することで需給がバランスした状態が続くとの見方もある。

欧州の自動車船大手ワレニウス・ウィルヘルムセンによると、今年3月末時点の世界の自動車船(2000台積み以上)の船腹量は707隻。標準車換算の輸送能力は約420万台。

それに対し、自動車船の新造船発注残(2000台積み以上)は199隻。輸送能力換算で発注残は既存船の約38%に当たる。

新造船の竣工時期は24年が35隻、25年が71隻、26年が58隻、27年が30隻、28年が7隻。

自動車船の発注残は、20年ごろに20隻を割り込むほどまで落ち込んだ。船舶の供給過多で運賃競争が激化し、オペレーター(運航会社)が再投資できない状況が続いたことが主因だ。

その後、荷動き回復と運賃改善を受け、オペは船舶投資を再開。オペに船腹を拠出する船主も投資に踏み切った。それにより新造発注残は4年ほどで10倍に拡大した。

自動車船を巡っては、中国発の荷動き急増が需給逼迫(ひっぱく)の一因となっている。中国船社が自国の荷主の輸送ニーズに応えるため、自前の船隊構築に乗り出したことも発注残を押し上げた。

自動車船の発注残がリーマン・ショック前の過去最高水準近くにまで積み上がったことに対し、海運関係者は需給バランスが崩れる要因になり得ると危惧している。

「船舶の供給の伸びを上回るほどに完成車の海上荷動きが伸びるとは考えにくい」(海運関係者)ためだ。

自動車メーカーの生産回復を背景に、足元では輸送需要は旺盛で船腹需給はタイトな状況が続く。ただ、輸送需要を左右する自動車販売市場にやや陰りが見られるという。

中国の今年1―3月の自動車輸出は前年同期比33%増の132万台だった。順調に伸びてはいるが、伸び率は鈍化し、欧州向けEV(電気自動車)輸出が規制される可能性もある。

市場関係者は「スエズ運河の迂回(うかい)がなければ、自動車船の船腹需給は緩和していたかもしれない」と、事業環境に変化の兆しが見られるとの認識を示す。

一方で、新造船の供給増加により自動車船の需給逼迫は解消するものの、需給がバランスした状況は25年まで続くとの見方もある。

仮に船腹余剰になれば高齢船のスクラップ処分が進み、減速運航も広がるとみられるためだ。他の船種で運ばれている自動車が自動車船に回帰する可能性もある。

中国の23年の自動車輸出台数は、前年比57%増の約522万台に拡大し、日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった。

中国から輸出される完成車のうち、4割程度がコンテナ船やオープンハッチ型バルカーなど他の船種で運ばれているとの情報もある。

輸送品質や効率に関しては、自動車を運ぶために設計された自動車船に分がある。自動車船の供給が増えれば、他の船種で運ばれている完成車が回帰する可能性が高い。

 

引用至《日本海事報》2024年05月27日デイリー版1面

高齢タンカー、船価下落続く。「影の船団」需要減退。「もしトラ」も影響

中古船市場で高齢タンカーの価格下落が続いている。船齢20歳のVLCC(大型原油タンカー)価格は昨春の4800万ドル(約72億円)強をピークに足元は3割安の3550万ドル(約53億円)に低下した。経済制裁対象のロシア原油を輸送する高齢タンカー船腹、通称「影の船団」に対する規制強化で高齢船の投入先が縮小しているのが主因だ。さらに今秋の米大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が当選した場合、ロシア制裁の行方が不透明になる可能性も見据えて、ギリシャ船主らは投資の重点を新造タンカーにシフトしている。

「ギリシャ船主が高齢タンカーに興味を失い、新造発注に力を入れている。〝もしトラ〟(もしかしたらトランプ)も見据えているようだ」

タンカーブローカー関係者は最近の船舶投資トレンドについてそう指摘する。

米国の運航管理システム大手ベソン・ノーティカル傘下の船価鑑定会社ベッセルズ・バリューによると、船齢20歳のVLCC価格は2021年まで2200万―2500万ドルで推移していたが、22年2月のロシアのウクライナ侵攻後に急騰。欧米の経済制裁に伴う「影の船団」需要により、昨年4月のピーク時には約2倍の4821万ドルに達した。

「影の船団」はロシア原油のインドやトルコ、中国向け輸送を担い、通常トレードでは使われにくい船齢15歳以上の高齢船が投入され、制裁リスクと引き換えに高運賃を稼いだ。

しかし昨年半ば以降、欧米諸国は「影の船団」に対する調査強化や制裁の厳格化を推進。米ブルームバーグによると、「ギリシャのタンカー船主の多くはロシア産原油の取引から手を引いた」という。

一方、新鋭タンカーについては世界の新造発注残が依然として低水準なことから、中長期的にタイトな船腹需給が期待できる。

紅海などでの地政学リスクの高まりによるトレード変化で市況高騰が続いていることもあり、今年に入りギリシャ船主などが「タンカーの新造発注に力を入れている」(ブローカー関係者)。

ベソン・ノーティカルの集計によると、1―4月の世界のタンカー新造発注隻数は前年同期比32%増の104隻となった。船型構成はMR(ミディアムレンジ)型プロダクト船が37%を占め、次いでVLCC31%、スエズマックス19%、LR(ラージレンジ)2型プロダクト船12%、アフラマックス1%となっている。

 

引用至《日本海事報》2024年05月24日デイリー版1面

コンテナ運賃、想定外の急騰。年初来高値、長期化は懐疑的

アジア発北米西岸向けコンテナ運賃が17日付までに40フィートコンテナ当たり5000ドル超となり、年初来の最高値を更新した。欧米諸国向けを中心にコンテナ運賃は4月末から急上昇したが、5月1日付の北米向けサービスコントラクト(SC)更改時期を挟んでの急騰は異例。アジア積みではすでに先週から、SC契約運賃でのブッキングが取りにくくなっているほか、急な需給引き締まりでスペースが足りずかなりのロールオーバー(積み残し)も出ているようだ。荷主に加え、船社側もこれだけの需給逼迫(ひっぱく)は「想定外」のようで対応に追われている。想定外の盛り上がりだが、「経済状況とリンクしていない可能性もあり、長期化はしないのでは」との意見もある。

 

「北米向けSC締結直後にこれだけ(市況が)高騰した例は例がないのでは。5月に入ってブッキングが取りづらい状況が続いていたが、ここまでになるとは」

荷主企業の関係者は急な状況変化に驚きを隠せない。

17日付の上海航運交易所(SSE)によれば、北米西岸向けは5025ドル、北米東岸向け6026ドルとなり、いずれも3週間連続の値上がり。4月中旬からだと実に両岸向けとも2000ドル以上も上昇している。

紅海での攻撃に伴って昨年末から急騰したコンテナ運賃市況だったが、喜望峰への迂回(うかい)ルートの定着に伴って3月以降、徐々に軟化。

もともと今年は大量竣工に伴う需給悪化が想定されていたこともあり、5月の北米SCを含めて船社と荷主の運賃交渉は2023年度に比べて若干、値下がりした金額で決着したようだ。

米大手小売業向けなどのSC契約は、北米西岸向けが1400ドル台、北米東岸向けが2200―2400ドル前後。3月時点では北米西岸向けFAK(品目無差別運賃)で1400ドルが出ているなど、軟調基調だった。

ところがBCO(大手荷主)向けの北米SC交渉が決着した4月中旬以降、スペース不足が強まって市況が上昇。5月を挟んで一気に高騰するなど異例の展開となった。この状況には荷主やNVOCCだけでなく船社側も想定外だったようで、ハパックロイドのロルフ・ヤンセンCEO(最高経営責任者)も4月からの市況急騰には「どこからきたのか分かりにくい」とコメント。船社側にとってもこの急騰は想定外との認識をにじませている。

今回の市況急騰の背景には、米国経済の堅調や地政学リスクに対応した発注前倒し、小売事業者による在庫補充などに加え、喜望峰など迂回ルート定着による過剰船腹の吸収、紅海迂回で空コンテナ回送遅延によるアジア側でのコンテナ不足、中国諸港(上海、青島、寧波)、地中海諸港での混雑などが遠因とも指摘されている。

■安全在庫水準高まる

拓殖大学・松田琢磨教授 北米経済が堅調のため輸入者が在庫補充に転じたことに加え、欧米諸国でも紅海情勢を受けたリードタイムの延びや物流停滞のリスクを懸念して安全在庫水準を高める動きが荷主の需要を強める働きをしている。一方でインバランスの拡大や各地港湾での混雑がサービスの供給をする上で制約となっており、新造船の供給も追加的な船腹需要を下回っている。この結果、船腹需要が供給を上回る状態となってスポット運賃の上昇につながっているものと考えられる。

ただし、欧州では需要が基礎的な経済状況とリンクしていないとの話もあることから、この状況が長続きするかどうかについて懐疑的な見方もあり、下半期以降に供給過剰に戻るとの見通しを示す一部船社もある。

 

引用至《日本海事報》2024年05月21日デイリー版1面

ベソン、サービスを有機的に結合。ライリー社長、買収戦略 推進

海運会社・用船者向け運航管理システム「IMOSプラットフォーム」を提供するベソン・ノーティカル(米ボストン)は16日、東京都内で海事メディア向けに会見を開いた。ショーン・ライリー社長兼COO(最高執行責任者)は、英ベッセルズ・バリューや英シップフィックスなど4社を買収したことに触れ、「各社の製品・サービスをIMOSに有機的に結び付け、ユーザーのデータに基づく意思決定を支援する」と語った。

会見にはライリー氏のほか、チーフプロダクトオフィサーのエリック・クリストファーソン氏、チーフコマーシャルオフィサーのラス・ハバード氏が出席。日本拠点の光田時雄氏、萩原芳廣氏も同席した。

ライリー氏は同社が開発・提供する運航管理システムについて、「年間1220億ドル、年60億トンの貨物取引をサポートしている」と説明。「海上商取引を推進する標準プラットフォームの提供を目指している」と同社のビジョンを紹介した。

同社の運航管理システムは、世界中の海運会社や荷主に広く利用されている。日本の主要な海運会社も導入している。ベソンは顧客ニーズに対応し、継続的に機能の拡充を図っている。

ベソンはサービスメニューのさらなる充実を図るため、ここ数年でベッセルズ・バリューやシップフィックス、ノルウェーのオーシャンボルト、米国のQ88の買収を決めた。

デジタル化や脱炭素化などを受け、海運業界は変革期にある。ハバード氏はオイルメジャーなどが船舶からのGHG(温室効果ガス)排出量を報告する仕組みの標準化を進めている事例を紹介し、「コラボレーションと標準化の重要性が増している」と指摘した。

EU―ETS(欧州連合の排出量取引制度)など新たな規制への対応に関して、クリストファーソン氏は「顧客とワーキンググループを設置し対応を検討している。ソリューションは開発後も使いながら改善を重ねる手法で対応している」と述べた。

 

引用至《日本海事報》2024年05月17日デイリー版1面

【人手不足 陸・海・空 荒波の先】 (4)造船の協力会社も危機。構造改革に翻弄

「まず耳を疑った。鋼材価格などは上がっているものの、造船会社は足元で上昇した船価で受注しているほか、円安効果も続いている。まさか建造を止めるとは思わなかった」

元請け造船所の協力会社で構成される造船協力事業者団体、住友重機械造船協同組合の河西良二理事相談役は、今年2月の住友重機械工業グループの新造船事業からの撤退発表を聞いた際の気持ちをこう語る。

造船会社は、自社の従業員だけで船舶を建造するわけではない。協力会社に多くの業務を委託することで、作業を効率化し、コスト競争力強化につなげている。

協力会社のうち構内下請けは、造船所構内に常駐し加工・組み立てや艤装などの業務を担う。足場架設、溶接、鋼板組み立て、塗装、配管工事、電気工事、装置・機器据え付け、保温工事、内装工事など仕事は多岐にわたる。造船の現場で働く人員の比率は、およそ造船会社の技能工が3に対し協力会社は7に達する。

この構内下請けのほか、自社工場で船体ブロック、舵や軸のパーツ、艤装品などを製造し造船会社に納品する構外下請けも協力会社の一種で、造船会社の業務を下支えする。

▼会員の人員2桁減

各造船協力事業者団体で構成される日本造船協力事業者団体連合会の会員は現在46団体(所属企業計1420社)で、2次、3次の下請け会社分なども含め人員は約4万人を抱える。日造協の野口雅史専務理事は「会員の所属企業人員は2019年度から23年度までに14%減少した。特に構内下請けは25%以上落ち込んだ」と説明する。

19―23年度の期間中、国内の造船会社が事業の構造改革を相次いで実施したことが造船業での協力会社の人員縮小にも大きく影響した。

旧三井造船グループは千葉工場(千葉県市原市)、玉野艦船工場(岡山県玉野市)での商船事業を休止(最終船引き渡しは千葉で21年3月、玉野では21年7月)し、国内での建造拠点をなくした。ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は、舞鶴事業所(京都府舞鶴市)での商船建造を終了(21年5月)、修繕事業に特化させた。佐世保重工業と神田造船所(現神田ドック)の2社は新造船事業を休止(22年1月)。それぞれ修繕などに主力事業を移した。

造船会社の構造改革では、建造能力を削減する事例が多く、協力会社の仕事減少につながった。日造協の会長も務める河西氏は、「協力会社は抱えている職人に給料を払っていかなければならず、仕事が減ると、職種が重なる建設業などに移らなければならない」と業界の事情を説明する。新造船から修繕などにシフトした場合でも、「協力会社の人員が3分の1に減ったケースもある。他の造船会社の仕事と掛け持ちなどしていないとやっていけない」と語る。

▼離れたら戻らない

一回「造船」を離れた協力会社は公共工事などに参加し、なかなか戻ってこない中、足元では新造船需要が復活。河西会長は、造船会社から協力会社が人員増加要請を受けているという厳しい状況を明かす。

日造協では、人材確保対策としてPR活動など幅広い取り組みを進める。女性の活躍を紹介するパンフレット「ライフ アンド ワーク」、協力会社の職種を紹介する冊子「造船しごと紹介本」、船ができるまでのプロセスなどを分かりやすく説明するウェブ動画などを作成。日造協のホームページに掲載しているほか、冊子などを自治体、学校に配布している。

協力会社の求人活動を支援するため、自治体の協力を受けUターン・Iターン関連イベントに参加。さらに、社員が友人や知人を紹介するリファラル採用を導入する会員企業の冊子作成をサポートするほか、ポータルサイト「リクルートジャーナル」を開設している。

外国人材の受け入れも積極的に推進する。これまで大きなトラブルも発生せず、「もめたことがないと自信を持って言える」(河西会長)中、在留資格の特定技能1号は、技能実習を終えた外国人材による取得がほとんどで、いわゆる試験ルート経由は限定的となっている。この要因として、河西会長は日本語能力レベルの基準が高い点を指摘する。技能実習2号(3年)までの終了者は、特定技能1号に移行する場合、日本語能力試験が免除になっている現行の運用を新制度でも適用してほしいとの考えを示す。

▼技能工の研修必要

協力会社では、人材不足に加え、現存の人員でも造船技術を持った技能工がほとんどいないことも大きな課題の一つとなっている。初めて造船に携わる人員を多く運用しなければならず、品質や工程維持、安全面で問題が発生する可能性がある。河西会長は、その対応策として全国に6カ所開設されている「造船技能研修センター」の活用を挙げる。

同センターは1999年に因島(広島県尾道市)で設立後、04―07年度に横浜市、兵庫県相生市、愛媛県今治市、大分市、長崎市に相次いで設置された。地元の造船会社や自治体が協力し、日本中小型造船工業会や日本海事協会(NK)などの支援で運営される。一方、設立後すでに20年が経過しており、設備が老朽化。指導者や講師の高齢化による後継者不足などに直面している。河西会長はこの設備維持に向けた国の支援、協力会社技能者へのさらなる活用の重要性を強調する。

協力会社の人員確保・育成と並行して、元請けとなる造船会社の事業安定化にも気を配る。造船会社は商船の建造とともに、日本の安全保障・海上警備を支える艦艇・巡視船や官公庁船の建造も担う。この分野で、国による建造促進と安定した予算確保、物価上昇などを踏まえた適正価格での発注などに期待を寄せる。

新造船事業からの撤退を発表した住重グループは、24年以降新造船の受注をストップ。3月末時点の受注残6隻を26年1月までに全て引き渡し、その後は、洋上風力発電向けを中心とする海洋構造物と関連船舶建造などに事業をシフトする。

住友重機械造船協同組合に自身の会社が所属する河西氏は、住重グループの今回の決断について「営利企業が決めたことに対し、とやかく言うことはできない。その決定を受け入れるしかない」と語る。一方で、最終船を建造後、その次の仕事が生まれるまでのタイムラグを懸念する。「次の仕事は何になりそうで、いつから始まるのか、住重グループに示してほしいと要望している。最終船の建造が終わって事業が切り替わる際に次の仕事の開始までに時間がかかると、例えば神奈川県エリアで造船関連の仕事を掛け持ちしていない協力会社は転業せざるを得ない」

 

引用至《日本海事報》2024年05月09日デイリー版1面

自動車船社、欧州で再編の兆し。中国勢台頭 契機に

自動車船の需給逼迫(ひっぱく)が続く中で、欧州の自動車船オペレーター(運航会社)の間で再編の兆しが出てきた。イタリア船社グリマルディグループは、ノルウェー船社ホーグオートライナーズの発行済み株式の5・12%を取得した。中国勢が荷主として存在感を高め、オペとしても台頭してくると予想されることが、再編の一つの契機となる可能性がある。

自動車船事業は自動車メーカーの生産が回復し輸送需要が高まる中で、中国からの輸出が急拡大したため船腹需給がタイト化。運賃も上昇し、自動車船オペの収益も大幅に改善した。

それに伴い、自動車船オペの株価も上昇。自動車船を非中核事業とみなすデンマーク海運大手APモラー・マースクは昨年までに、保有していたホーグオートライナーズの全株式を手放した。

英ベッセルズ・バリュー(VV)は、マースクによるホーグオートライナーズ株式売却を受けてリポートを発表。その中で記録的な好業績の波に乗り、競合他社が買収に乗り出す可能性があるとの見方を示した。

VVは業容拡大の次のステージに向けて準備を進めるグリマルディを候補に挙げた。今回、その予想通りグリマルディがホーグオートライナーズの株式取得に動いた。

グリマルディの運航船隊は自動車船、RORO船、フェリーを合わせ130隻規模。サービス網は欧州域内を中心に、西アフリカ、北米・南米東岸をカバーしている。船舶投資も積極的で、9000台積み自動車船17隻の発注残がある。

中国の2023年の自動車輸出台数は前年比57%増の522万台となり、日本を抜き世界一の輸出国になった。自国の荷主の輸送ニーズに応えるため、中国船社は自動車船隊の構築を進めている。

日本の海運大手3社は世界トップクラスの自動車船隊を擁する。邦船関係者は「中国船社の台頭で船社間の競争が厳しくなるだろう」と語る。

自動車船にはコンテナ船社も関心を示している。昨年に仏CMA―CGMが参入したのに続き、最大手のMSCは自動車船18隻を保有するノルウェー船主グラム・カー・キャリアーズに対し公開買い付けを行う。

■オペの業績好調

海運会社の自動車船事業の業績は好調に推移している。商船三井は4月30日に25年3月期の業績予想を発表し、橋本剛社長は「今期は前期に続き自動車船の利益貢献度が高くなる」との見通しを示した。

自動車船の輸送台数はスエズ運河迂回(うかい)の影響で5%減の303・3万台にとどまる見通しだ。ただ、「期間契約が下支えし、配船効率を高めることで、増益を見込む」(濱崎和也専務執行役員)。

一方で、「世界的なEV(電気自動車)の販売減速による完成車海上荷動きへの影響を見極めていく必要がある」(橋本社長)。新造船の供給増加が需給緩和要因になることも懸念されている。

 

 

引用至《日本海事報》2024年05月07日デイリー版1面

IMO、複数の制度を融合へ。GHG減、技術・経済的手法

IMO(国際海事機関)で国際海運からのGHG(温室効果ガス)排出削減の技術的手法と経済的手法に関して、最終的には各国で妥結できる部分・要素を融合していくことになりそうだ。現時点では複数の制度が提案されている。MEPC81(第81回海洋環境保護委員会)では両手法で複数の制度が浮上し、各国間で燃料転換を図るため、燃料GHG強度を段階的に強化していくことにおおむね一致した。だが、「燃料製造過程の排出考慮」「課金の導入」「途上国支援の有無」などについては、国によって意見・立場が異なる。全ての国が賛同する制度が見られない中、来年中に有効な制度がまとまるか注目される。

IMOは昨年改定した「GHG削減戦略」で技術的手法と経済的手法から成る中期対策について、2025年の承認・採択、27年の発効を規定。各国はこのスケジュールに沿って、審議を進めている。

3月のMEPC81には技術的手法で欧州のGFSや、中国、ノルウェー、ブラジル、UAE(アラブ首長国連邦)、アルゼンチン、南アフリカ、ウルグアイなどによるIMSF&Fが提案された。経済的手法では、日本のフィーベートをはじめ5制度が挙がった(別表参照)。

加えて、各提案国が提案内容を反映した海洋汚染等防止条約(MARPOL条約)改正案を作成し、10月の次回会合(MEPC82)に提出することになった。

一方、「全ての国が納得・賛同している制度は現時点ではない。今後は各制度を構成する要素を精査し、合意できる部分を固めていく作業になるのではないか」

日本政府代表を務める国土交通省海事局海洋・環境政策課の塩入隆志環境渉外室長はこう予想する。

大別すると、技術的手法を構成する要素には「GFI(GHG燃料強度)の導入」「柔軟性メカニズム(規制値超過・未達の場合の船舶間の融通)の導入」や、対象となる燃料の範囲を「『WtW』(ウェル・ツー・ウェイク)」とするか「『TtW』(タンク・ツー・ウェイク)」にするか、などが挙げられる。

MEPC参加国の中で、GFIの導入に関しては明確な反対は見られないが、WtWについては一部の途上国が異を唱えている。TtWは欧州や島しょ国が反対姿勢だ。柔軟性メカニズムについては、要否やその内容で意見が分かれているという。

経済的手法を構成する要素では、「GHG排出量への課金」「課金によるゼロエミッション燃料船への支援」「途上国支援の是非やその範囲」などが挙げられる。各国間では、「課金の導入そのものの是非」「課金により集めたお金の使途を海事分野に限定するのか否か」で見解が異なる模様だ。

日本提案のフィーベート(化石燃料船に対して課金〈fee〉し、ゼロエミッション船に対して還付〈rebate〉を行う課金・還付のこと)では、GHG排出量に課金し、ゼロエミ燃料船を整備するファーストムーバー(先行者)への還付を規定している。

日本はMEPC82までに同制度の実現を担保するMARPOL条約改正案を練り上げていく。

並行して、各国で思惑が異なる技術的手法、経済的手法の構成要素について調整し、妥結点を見いだしていく方針。

塩入氏は「各論点について合意できるところを見極め、GHG削減戦略の目標(50年ごろのネットゼロ)の達成にかなう制度の構築を図りたい」と意気込みを語る。

 

 

引用至《日本海事報》2024年05月02日デイリー版1面

中古船市場1―3月、日本船主41隻売却。1300億円、円安・船価高 追い風

米国の運航管理システム大手ベソン・ノーティカルが集計した日本船主の1―3月の中古船売却実績は41隻、8億6313万ドル(約1300億円)となり、アジアの船主国でトップとなった。中古船価高騰と円安ドル高による売船益の拡大を追い風に、日本船主が保有船の売却を積極的に進めたとみられる。一方、バイヤー(購入者)側は中国船主が74隻、23億3167万ドルを購入し、アジア最大の買船国となった。

「昨年まで多くの日本船主は船価高騰で新造リプレースが難しいことから、保有船の売却を手控えていた。しかし、今年に入り『もう待てない』という雰囲気が高まり、売船に踏み切る船主が増えている」

中古船市場関係者は船主の傾向をそう指摘する。

1―3月売買実績はベソン・グループで船価鑑定を手掛ける英ベッセルズ・バリュー(VV)のデータを基に集計された。

アジア船主の1―3月売船実績は計162隻、36億5300万ドル。前年同期に比べて隻数ベースでは65%減少したが、船価高と高付加価値船の増加により資産価値ベースでは17%増加した。

主な船種別の売却実績はバルカー103隻▽コンテナ船11隻▽LPG(液化石油ガス)船6隻▽タンカー28隻。

アジア船主国の売船実績上位5カ国は、トップの日本に続いて中国40隻、8億2577万ドル▽韓国23隻、7億2660万ドル▽シンガポール21隻、5億4960万ドル▽香港18隻、4億5802万ドル。

■貨物の裏付け

バイヤー側を見ると、1―3月の主なアジア船主国別の買船実績は、首位の中国に続いて韓国16隻、8億4399万ドル▽シンガポール15隻、3億9604万ドル▽インドネシア14隻、2億3180万ドル▽台湾1隻、1億3216万ドル▽ベトナム9隻、1億2140万ドル―となっている。

首位の中国船主の中でも、特に香港やシンガポールに営業拠点を有し、ボーキサイトなどの貨物を潤沢に確保している船主が活発に買船に動いている。このほか、「一部の韓国船主などは中古船価のさらなる先高観を見据えた投機的な狙いもあるようだ」(市場関係者)。

企業別の買船トップ5社(資産価値ベース)は韓国船主シノコー8隻、4億4490万ドル▽韓国船社パンオーシャン4隻、2億6150万ドル▽中国リース大手ICBCファイナンシャルリーシング1隻、2億3257万ドル▽シンガポール船主ウイニング・シッピング6隻、2億612万ドル▽中国エネルギー企業Jovoエナジー2隻、1億8000万ドル。

 

引用至《日本海事報》 2024年04月30日デイリー版1面

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