LNGプラントが建設されるカーボデルガド州(写真は州都ペンバ)

モザンビーク、LNG船商談 再開。海運大手、事業拡大に弾み

モザンビークのLNG(液化天然ガス)プロジェクト向けのLNG船商談が再開された模様だ。同プロジェクトの事業主体は新造LNG船17隻を調達する計画で、それらの保有会社に日本の海運大手などを起用することが内定している。プロジェクトの稼働が大幅に後ろ倒しとなり、船価などが変更になったため、それに応じた契約条件の再交渉を進めている。プロジェクト再開が決まれば、海運大手が成長分野に位置付けるLNG船事業の拡大に弾みがつく。

 関係筋によると、モザンビークLNGプロジェクトの再開をにらみ、事業主体は造船所と新造LNG船の納期や船価などを再交渉。新たな船価を基に海運会社と用船料などの交渉を始めた。

 海運会社との交渉期限は1月末に設定されている模様。ただ、期限までに交渉がまとまるかどうかは不透明なようだ。

 モザンビークLNGプロジェクトは、同国北部沖合のエリア1鉱区と呼ばれるガス田を対象とした年産1300万トン規模の大型プロジェクト。2019年6月に最終投資決定し、24年の生産・輸出開始を計画していた。

 事業主体にはプロジェクトを主導する仏トタルエナジーズが26・5%を出資。日本からも三井物産とエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との合弁会社が20%を出資している。

 生産されるLNGの3割は日本が引き取るほか、欧州、中国、台湾、タイ、インドネシア、インドの電力・ガス会社や英シェルが長期契約で引き取ることになっている。

 ところが、LNGプラントが立地するカーボデルガド州の町がイスラム武装勢力に襲撃されるなど現地の治安が悪化。トタルは21年4月にフォースマジュール(不可抗力)を宣言し、建設作業を中断した。

 モザンビーク政府などの尽力により、現地の治安は改善。23年11月にはモザンビークの外相が来日し、日本の政府関係者やパートナーに治安の改善・維持に注力する意向を伝えた。

 プロジェクトの事業主体は20年末までに、LNG船17隻を建造する韓国の二つの造船所を選定。17隻を保有する海運会社4グループも選定したが、最終契約を結ぶ前にプロジェクトが中断されていた。

 17万立方メートル級の新造船の建造ヤードには、HD現代重工とサムスン重工業を起用。保有・管理会社は日本郵船、商船三井、川崎汽船、ギリシャ船社マランガス・マリタイムが起用されるとみられる。

 海運大手は1社当たり4―5隻の長期用船契約を事業主体と結ぶ予定とされる。海運大手の中にはパートナーとコンソーシアムを組み、商談に参加したところもある。

 日本の海運大手はLNG船事業を重点投資分野の一つに位置付けている。長期安定収益が見込まれるLNG船事業の拡大を通じて、全社的な収益の安定化を図る狙いだ。

 商船三井のLNG船の関与船(23年9月末時点)は97隻で、150隻規模への拡大を視野に入れる。日本郵船は86隻から120隻超へ、川崎汽船も45隻から75隻超へそれぞれ拡大させる計画だ。

引用至《日本海事報》2024年01月12日 デイリー版1面

コンテナ船、スエズ回避で運賃続騰。マースク、年末にも運航船被害

コンテナ船社のスエズ運河通航回避の動きを背景に、運賃の高騰が続く。上海航運交易所(SSE)のまとめによると、昨年12月29日付のアジア発地中海向け運賃は、20フィートコンテナ当たり3491ドルと、前週の1497ドルから実に2000ドル近くも急騰した。地中海向けのコンテナ運賃が1週間で1000ドル以上も値上がりするのは、SSEが運賃取りまとめを開始した2009年10月以来で初めて。北欧州向けや北米東岸向けも同様の上げ幅となった。主要船社ではマースクが早期のスエズ航行再開を打ち出していたが、昨年末に同社運航船が攻撃を受けたことで方針を転換したことも、市況に影響しそうだ。

 SSEがまとめるSCFI(上海発運賃指標)は12月29日付で1051ポイントとなり、22年11月以来の1000ポイント台となった。

 12月中旬まで地中海向けの運賃は1000ドル台半ばから上昇傾向にあったが、22日付で一気に2000ドルを突破。イエメンの親イラン武装組織フーシ派による一般商船への攻撃を受け、過去に例のない幅で高騰した。

 地中海向け以外では、北欧州向けが20フィート型当たり2694ドル(前週比1197ドル増)、北米西岸向けが40フィート型当たり2553ドル(同577ドル増)、北米東岸向けは同3559ドル(同1006ドル増)。紅海・スエズ運河をルートとしていた地中海・北欧州・北米東岸向けの3ルートに加え、その余波によって北米西岸向けも大きく値上がりした。

■12月だけで7隻
 フーシ派によるコンテナ船への攻撃は未遂も含めて昨年12月だけで7隻に及んだ。

 米中央軍によると、12月31日早朝、紅海を航行中の「MAERSK HANGZHOU」からフーシ派の小型船4隻からの攻撃を受けているという救難信号を受信。米軍はヘリコプターにより反撃し、3隻が沈没。1隻が逃走したという。

 「MAERSK HANGZHOU」(1万5200TEU型、シンガポール)はマースクグループの保有船。2Mのアジア―地中海航路AE12・フェニックスに就航し、北アジアからスエズ運河に向けて航行中だった。

 マースクは今回の襲撃を受け、1月2日時点で紅海の航行を当面見合わせる判断を下した模様。マースクがまとめた、欧州航路、北米東岸航路など2Mのスエズ経由サービスの迂回(うかい)状況を見ると、5日時点では一部中東航路がスエズ経由となっていることを除き、喜望峰経由ないしTBA(未定)としている。

■さらに上昇の可能性
 年末にかけて急騰したコンテナ運賃は、スエズ運河回避の長期化により、さらに上昇する可能性もある。

 CMA―CGMは2日までに、15日からのアジア発地中海向けFAK(品目無差別運賃)を公表した。金額は東地中海向けが40フィートコンテナ当たり6200ドル、西地中海向けが6200ドル。12月上旬に公表した1月1日からのFAKレートは東地中海3200ドル、西地中海3000ドルだった。船社の配船次第では、運賃市況はさらに上昇する可能性もありそうだ。

引用至《日本海事報》2024年01月09日 デイリー版1面

新春インタビュー 日本港運協会・久保昌三会長。日本港湾2023―24:回顧と展望。港の強化 全力で推進

『競争力強化』を3本柱とする国際コンテナ戦略港湾政策については、京浜港・阪神港を10年に選定して以来、戦略港湾への貨物集中や港湾運営会社の設立、港湾機能の高度化といった諸施策を総合的に展開し、北米、欧州方面に直航する国際基幹航路の日本寄港維持・拡大に取り組んできた。23年には一時途絶えていた北米東岸航路で2年ぶりに日本寄港が復活するなどの成果もあった」

 「とはいえ、単に戦略港湾を選ぶだけでは十分ではない。国土交通省ではいま『新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会』を設置しているが、将来に向けた一手の議論は正しいものの、いまやるべきことは既存の戦略港湾政策をもっと深掘りし、その成果を上げていくことだろう。地方港から戦略港湾に貨物を集める『集貨』、企業誘致や保税区などの設置による『創貨』、これらは国策であることをしっかり留意しながら取り組むことが大切だ」

 「地方港から戦略港湾への集貨の要である国際フィーダー網の充実だが、課題だった日本海側のネットワーク拡充も21年末の神戸港から敦賀、舞鶴、境港へのサービス開始を皮切りに、22年の北九州・ひびきコンテナターミナル経由での秋田・新潟への寄港など着実に地歩を固めてきた。さらに大半が250TEU型以下だったわが国の国際フィーダー航路の船型も、京浜―苫小牧航路に1000TEU型が就航するなど大型化している」

 「こうした諸施策の積み重ねもあり、22年度の内航フィーダーコンテナ輸送量は12%増の90万TEUと、過去最高だった18年度と同水準となった。伸び率では韓国・釜山フィーダーを上回っているほか、輸送量の差も縮小傾向にある」

 「こうした国際フィーダーの奮闘は非常に喜ばしいが、内航船社など民の努力だけでは限界がある。また国際フィーダーの寄港が地方港にとってメリットを享受できるような補助・支援制度もさらに必要だろう。また海外港湾の事例にあるように、特別保税区を組み合わせることも、アジアからの広域集荷に資することになるのではないか。集貨への取り組みを進められるような仕組み作りを、国主導で引き続き進めてもらいたい」

■最新技術で人材確保を
 ――港湾の脱炭素化に向けた取り組みは。

 「社会のあらゆる分野で同時進行的に進む『脱炭素化』の流れに、ひとり港湾が取り残されることがあってはならない。国、地方自治体が全国各港で進めているカーボンニュートラルポート(CNP)形成に向けた取り組みには、業界としても積極的に対応していく必要がある」

 「しかしながら、中小事業者の割合が9割近い港運業界は、多くの事業者の経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)であり、脱炭素化のため荷役機械を一気に環境対応型に切り替えることは現実的ではないので、より効果的で長期的な視点に立った支援制度の充実を引き続き求めたい」

 「全国の港でCNP形成の取り組みが進むなか、23年11月から港湾ターミナルでの脱炭素化の取り組みを客観的に評価する認証制度『CNP認証(コンテナターミナル)』の試行が行われている。試行に当たっては国内の主要港から六つのターミナルを選び、評価基準に必要な情報を提供してもらい、基準の妥当性や体制などを検討すると聞いており、港湾の脱炭素化を国内外でリードしていくことに資する取り組みとして期待している」

 ――物流の「2024年問題」が本格化し、運輸の各分野においても人材確保が喫緊の課題となる。港湾運送での対応は。

 「少子高齢化が進む日本においてはどの産業も人手不足で苦労しているが、港湾運送においても例外ではなく、ギャング(荷役作業チーム)のシフトが組みにくくなっているとの声が聞こえてくる」

 「国では一昨年『港湾労働者不足対策アクションプラン』を策定・公表し、総合的な施策メニューを示しつつ官民で取り組みを進めているところだ。若い人に興味を持ってもらい、魅力とやりがいを実感できる職場作りこそが、本当の意味での人手不足対策になるだろう」

 「そのためには、港湾現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や荷役機器の遠隔操作など最新技術の導入が不可欠となる。遠隔操作RTG(タイヤ式トランスファークレーン)の導入やAI(人工知能)ターミナル形成、サイバーポートの普及による港湾物流効率化は、これからの港湾の生産性向上と職場環境の改善でどれも不可欠な施策である」

■官民連携で持続可能な港へ
 ――施策の推進で見えてくる港の将来像とは。

 「サイバーポートやDXの推進によって港湾現場の効率性が向上して労働環境を大きく改善すれば、女性や高齢者などより幅広い人々に港の業務に携わってもらうことが可能となる。すでに現在の港湾現場で働く作業員は荷役機器を操作したり情報端末を駆使したりと、かなり高度な働き方を求められている。現在の港湾現場は、人海戦術で肉体を酷使せざるを得なかった昔とは様変わりしているが、残念ながら現状が必ずしもきちんと認識されているとは言い難い」

 「遠隔操作RTGの導入やAIターミナルの実現などにより、世界の趨勢(すうせい)に劣後しない効率的な港湾の構築に取り組むことが大切だ。それが、ひいては若い人を引きつけて人材の確保につながり、日本の港湾の持続可能性につながるものと信じている」

 ――最後に、24年の展望を。

 「冒頭申し上げた通り、国際情勢は厳しさを増し、地政学的なリスクが高まっている。また、脱炭素化の流れについても、大枠では揺るがないものの、より現実的な解を求める動きも出てきている。そして、国内に目を転じれば、人手不足の問題は日本社会全体の構造的なものであるため、その解決は一筋縄ではいかない」

 「これら内外を取り巻く課題に対処していくためには、事業者の知恵を取り入れながら官民連携しつつ一歩一歩進めていく姿勢が重要である。港湾運送は業種によって立ち位置が異なるし、労働組合との関係もある。それでも、港湾の持続可能性を確かなものにしていくためには、おのおのが小異を留保しつつ、大局的な視点で処方箋を考えていく必要があると考える。関係者が手を携えながら、『昇り龍』のごとく上昇気流に乗っていく。24年の日本港湾がそのような気概で進んでいけるよう努力したい」

 くぼ・まさみ 63(昭和38)年上組合資会社(現上組)入社。常務、専務などを経て04年社長に就任。12年代表取締役会長・経営責任者・取締役会議長、23年6月から名誉相談役。93年日本港運協会理事、96年常任理事、04年6月副会長、09年6月から会長。兵庫県出身、81歳。

引用至《日本海事報》2024年01月05日 デイリー版2面

今年の新造船市場予想、先物納期 にらみ合い。受注1割減、船価は微増

今年の新造船市場予想、先物納期 にらみ合い。受注1割減、船価は微増

2024年の新造船マーケットは、主要造船所の線表が海運ブーム期以来の先物まで進んだことで新造商談が減速し、日本造船所の受注量は前年比で1割程度減少するとの見方が大勢だ。船価を巡っては、インフレによるコスト増加分を転嫁したい造船所と、海運市況の先行き不透明感から価格のレベル感に神経質になっている船主のにらみ合いが継続。新造船価は横ばいか微増で推移するとの予想が多い。

■線表ブーム期並み
 今年の日本造船所の新造船受注動向を占う上で、ポイントは大きく二つある。

 一つは、造船所の線表が近年なかった先物まで進んでいる点だ。

 日本造船主要各社はドライ市況が急回復した昨春、国内外の船主から主力の中小型バルカーを集中的に受注。過半が26年船台を完売し、先行勢は複数社が27年半ばまでの工事にめどを付けた。

 さらに、夏場の商談停滞を経て、秋口に再開した新造商談〝秋の陣〟で線表をじわりと伸ばし、各社が26年船台をほぼ完売。艤装期間が長いLNG(液化天然ガス)などの新燃料船を連続建造するヤードなど、内定を含めて線表確定が28年まで進んだ工場も出てきた。

 つまり、主要日本造船所は新しい年が明けた今の時点で、3年超の潤沢な手持ち工事を確保しているところが多く、00年代後半の海運・造船ブーム期以来、線表を4年先まで進めた工場もある状況だ。

 このため、造船所は受注を急ぐ必要はなく、「24年は採算重視で案件を選別する姿勢を強め、年末までに27年船台1年分を売り切る程度に受注ペースを落とす公算が大きい」(商社船舶部)。

■高止まりで様子見
 もう一つのポイントが、今年は新造船価の高止まりがほぼ確実視されていることだ。

 造船所は線表を先物まで進めたことで、船価を下げてまで受注に動く局面ではない。加えて、世界的なインフレの影響で、鋼材・舶用機器などの材料費のほか人件費、電気料金などが軒並み高騰。コスト全般の上昇による「採算悪化を為替の円安効果で何とか吸収しているのが現状」(国内造船所関係者)で、船価を下げる選択肢は年間を通じてないだろう。

 資機材の中で特に価格上昇圧力が強まっているのがエンジンだ。主機の価格は近年受注が急増した小型バルカー向けの需給逼迫(ひっぱく)もあり、「コロナ前からこれまでの値上げ幅は5割以上に達している」(同)。

 他の舶用機器も同2―3割の値上げが進んだとの声が多い。21年から右肩上がりの上昇が続いた鋼材価格は天井感が一時出ていたが、昨年末に値上げ圧力が再び高まるなど、日本ではなお史上最高値の水準で推移。人件費は23年に一段と高騰した。

 こうした状況下、造船所関係者の間では「24年の船価は前年水準の維持を最低ラインとして、インフレによるコスト増加分の転嫁で前年比数%の微増を期待する」との声が多い。

 日本造船各社は業績が厳しい中、鋼材価格の高騰が始まった21年初めからの急激なコスト増をカバーするため、船価の引き上げを強い姿勢で進めてきた。

 これが24年の船価予想では「最低でも現状維持」(同)などと若干弱気に映るのは、今の事業環境で船価水準をもう一段引き上げれば「船主に許容されないレベルに達してしまう」(同)との感触を得ているからとみられる。

 ギリシャなどの海外勢を含め、船隊刷新に向けた新造整備を探っている船主は年末時点で少なくなく、造船所への引き合いも増えていた。一方、船主を取り巻く事業環境は良好とは言えない。

 「中国経済の減速懸念やコロナ後の滞船解消、地政学リスクなどが意識される中、24年の海運マーケットが急回復する材料は少ない。加えて、ドル金利高で資金調達コストが大きく膨らんでおり、船価がこれ以上上がれば多くの船主が本格的に様子見に入り、受発注が停滞する公算が大きい」(商社船舶部)

 好市況なら期先成約も

■商談スローダウン
 潤沢な手持ち工事を確保した造船所と、船価の高止まりで発注に様子見姿勢の船主。24年は両者のにらみ合いが続くとみられる中、日本造船所の新造船受注量はどう推移するだろうか。

 「24年の日本の受注量は、年間竣工量と同程度の900万総トン前後になると予測している」

 国内造船所と商社船舶部の見立ては、この内容でほぼ一致している。

 日本船舶輸出組合のまとめによると、23年の日本の輸出船受注量は1―10月累計で前年同期比16%減の811万総トン。このペースを維持すれば、通年では1000万総トン程度に着地する見通しだ。

 船価回復で受注が急増した21年とその勢いを前半まで維持した22年の実績は下回るが、海運市況が大底だった16年以降で見れば、両年と18年に次ぐ水準となる。

 24年の受注量がそこから1割程度減少するとの予測が多いのは、造船所と船主のにらみ合いが長期化し、新造商談がスローダウンすることを織り込んでいるからだ。

■上振れのシナリオ
 ただし、以上のシナリオは海運市況が平年並みに推移することが前提。ドライバルクを中心に用船マーケットが本格的な上昇局面に入れば、船主と造船所の膠着(こうちゃく)状態が崩れ、新造発注が異例の期先納期までさらに進む可能性もある。

 「24年は新造商談がスローダウンし、受注量が年間竣工量と同程度に落ち着くのが現実的な予想だ。しかし、海運マーケットが想定以上に好調に推移し、為替相場も23年の円安水準が維持され、新造案件が先物納期でも増えてくるなら、日本造船所は採算が合う限り28―29年船台まで受注を進めるのではないか」(同)

 特に各社が主力とする中小型バルカーは現時点では、重油焚(だ)きの最新鋭船が最も環境性能に優れたデザインと考えられている。だが、環境規制の行方次第では、新燃料船が新造整備の主流にいつ躍り出ても不思議ではない。

 こうした中、造船所には新燃料船より工期が短く、連続建造でコストも抑えられる重油焚きバルカーで、「好採算の案件があれば極力先物まで受注したいとの心理が働く」(同)との見立てだ。

 その兆しは昨年末、かすかながら見え始めていた。

 バルカーの主要航路平均スポット用船料は12月初め現在、ケープサイズが5万ドル台、パナマックスが2万ドル台、スープラマックスが1万6000ドル台、ハンディサイズが1万4000ドル台。全船型で一般的な新造船の損益分岐点を大幅に上回って推移している。

 これを受けて船主心理は急速に改善しており、「27年前半や同年半ば前後の先物納期でも、発注を具体的に検討する船主が国内外で一定数出てきた」(国内造船所関係者)。

 24年は、ドライ市況が年初の軟化から例年復調する中国の旧正月(春節)が明けるのは2月半ば。この時期に新造商談がどこまで活発化するかが、今年の新造船マーケットの最初の焦点になりそうだ。

引用至《日本海事報》2024年01月01日 デイリー版6面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292397

海運大手、ROE10%視野へ。紅海迂回・円安、純利益押し上げ

日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社の2024年3月期連結決算で、財務指標の一つであるROE(自己資本利益率)が10%を超える期待感が出ている。足元では紅海を迂回(うかい)する海運会社が相次ぎ、コンテナ船の業績が回復するとの指摘も出てきた。円安効果に伴う業績による押し上げ効果もあり、純利益が上方修正されれば「ROE10%の壁」を超える可能性もある。

 ROEは自己資本に対し、純利益が何割かを示す指数のこと。ROEが高いほど、株主の投下資本に対し会社が効率的に利益を上げていることを示す。

 21年3月期時点で海運大手のROEは15―22%と東証プライム市場で一般的に求められる10%をクリアしていた。

 最大の理由は自己資本に比べ、純利益が先行して増加した点にある。

 3社が出資するオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)は20年後半から本格的に米国などの「巣ごもり需要」の取り込みに成功。ONEの22年3月期税引き後利益は、前年比約5倍の約2兆1800億円を計上した。

 海運大手は各約3割を出資しているため、21年2月から22年6月までに合計5回の配当を受け取り、配当額は1兆円を超えた。

 自己資本の積み上げの基礎となる利益剰余金は期末以降に計上されるため、純利益が先行して計上された形だ。

 一方、足元では自己資本と純利益の関係が過渡期に入っている。

 海運大手の23年9月期の自己資本は、日本郵船2兆6471億円、商船三井2兆1603億円、川崎汽船1兆5837億円といずれも過去最高を記録した。

 日本郵船や川崎汽船は自社株買いを実施している。本来、自社株買いの原資は自己資本となるため自己資本は減少する。

 関係者によると、自社株買いの株式は「消却」するまで自己資本が減少に転じないとみられる。期末以降に自己資本が減少に転じれば、「適正な資本構成を構築できる」(海運幹部)。

 今期は過去最高の自己資本、コンテナ船市況の不透明感で23年9月期時点の期末予想でROE10%を超えているのは商船三井だけ。

 しかし、11月以降、イエメンの武装組織フーシ派による紅海を航行する船舶への襲撃が発生。足元ではAPモラー・マースク、ONE、CMA―CGM、ハパックロイドなど世界の主要コンテナ船社が紅海を迂回することを表明した。

 自動車船やタンカー、バルカー船社も紅海を迂回、喜望峰回りの遠距離航路を選択している。

 特にコンテナ船は新造船の発注が急増し、来年の市況への影響が懸念されていた。

 パナマ運河でも渇水による通航制限が長期化されており、「洋の東西」の主要運河が大きな制約を受けている。

 24年3月期末に向け自己資本の適正水準、純利益の押し上げがあれば、各社ともにROE10%を超える可能性は高い。

 もう一つの課題となっているPBR(株価純資産倍率)についても自己資本の水準次第では、時価総額の押し上げで理論上の解散価値と同等とされる1倍も視野に入りそうだ。

引用至《日本海事報》2023年12月27日 デイリー版1面

コンテナ船、SC混乱再燃の懸念も。3大アライアンス、スエズ航行回避で

紅海でイエメンの親イラン武装組織フーシによる商船攻撃が相次いでいることを受け、コンテナ船の3大アライアンス全てがスエズ運河の通航中止を決めた。これにより、定期配船に大きな影響が出ている。各社はアジア―欧州・地中海航路を喜望峰経由に順次切り替える方針で、長距離化によるスケジュール遅れや、ハブ港での混雑が予想されている。パナマ運河の通航制限継続なども加わり、グローバルサプライチェーン(SC)の混乱が再燃する可能性も出てきた。

 スエズ運河航行中止を決め、対外公表したのは、MSC、マースク(以上2M)、CMA―CGM、エバーグリーン(以上オーシャンアライアンス=OA)、オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)、ハパックロイド、陽明海運、HMM(以上ザ・アライアンス=TA)の各社。OAのCOSCOも一部顧客にはすでにスエズ運河経由の中止を説明しているという。これにより、3大アライアンスの全てが、アジア―欧州・地中海航路でのスエズ運河通航を取りやめることになる。

 コンテナ船関係者によると、喜望峰経由の場合、トランジットタイムは10日―2週間長期化し、船型にもよるが燃料費などで1ラウンド100万―200万ドルの追加コストが発生するという。

 2週間の長期化で、スケジュール維持には各ループ2隻が必要となる計算だが、現在のアジア―欧州・地中海航路で各ループ投入船型を2隻ずつ増やすと単純計算で100万TEU弱のキャパシティーが追加で必要となり、需給引き締めにはつながりそうだ。

 また、スケジュールの乱れ、接続港の変更などから、ハブ港での混雑悪化も予想され、SCにとっては混乱要因が増える。

 スエズ運河では2021年3月、コンテナ船「EVER GIVEN」が座礁し、ほぼ1週間航行ができなくなり、改善に向かっていたスケジュールの定時性が再度悪化した。ある関係者は「北米西岸港湾での大規模滞船など物流全体が混乱していた当時とは状況が異なるが、ガザ情勢(イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻)が1週間で解決するとは思えず、影響は(EVER GIVEN座礁時と比較して)より深刻ではないか」との見方を示した。

 また、欧州・地中海航路が喜望峰経由となった場合、長期契約での輸送条件とは異なるため「契約運賃は使っていただけない。コスト増に見合った運賃をお願いすることになり、今後荷主の理解を得るべく説明していくことになる」(外資メガキャリアの日本法人営業責任者)という。

 パナマ運河の渇水による通航制限も、コンテナ船の定時運航にマイナスの影響を与えている。定期配船のコンテナ船は事前予約しているため、他の船種より相対的に影響は少ないが、混雑の余波でスケジュールが乱れがちだ。TAでは、アジア―北米東岸サービスの一部をパナマ運河経由ではなくスエズ運河経由にシフトしようとしていたが、今回のスエズ通航回避で対策の見直しを迫られることになる。

 スポット運賃にも影響が出始めている。ノルウェー・ゼネタがまとめたコンテナ運賃指標によると、極東発欧州向け運賃指標は11月上旬まで緩やかに低下してきたが、15日付指標は1FEU当たり1560ドルで、前週比5%増、前月比21%増と上昇傾向が顕著だ。ある外船社営業担当者は「日本出しでも、一定の運賃水準でないとスペースが確保しづらくなってきた」と語る。

 海上輸送の混乱を受け、航空輸送へのシフトも予想される。

 ある日系フォワーダーは「足元は欧州がクリスマス休暇で、大規模な緊急輸送需要は見込んでいないが、日本発では自動車部品などで週末にかけて緊急出荷が出る可能性はある。この状況が続けば年明け以降航空への影響は拡大するだろう」との見方を示した。

引用至《日本海事報》2023年12月21日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292203

マースク運航船 標的に。ミサイル攻撃、紅海の迂回加速か

デンマーク海運最大手のマースクが運航するコンテナ船が紅海航行中にミサイル攻撃の標的となった。米中央軍は15日、X(旧ツイッター)で同社が運航する「MAERSK GIBRALTAR」(1万100TEU型)がイエメンの親イラン武装組織フーシのミサイル攻撃対象となったと発表した。紅海を航行するコンテナ船が攻撃の標的となったことで、喜望峰経由への変更など航行を迂回(うかい)する動きが拡大しそうだ。

 フーシは9日にもイスラエル港湾に貨物を輸送する船舶を攻撃の標的に加えると宣言。船舶の航行リスクが高まっていた。

 こうした中、米軍の発表によると、14日正午ごろイエメンのフーシ支配地域から、紅海とアデン湾を隔てるバベルマンデブ海峡に向けて弾道ミサイルが発射された。

 同船は香港船籍。オマーンのサラーラからサウジアラビアのジッダに向けて航海していたとみられている。

 フーシはミサイル発射後も攻撃を続ける構えを見せたが、負傷者や船の損傷などは生じていないという。

 フーシの報道官は15日、X上で「イスラエルに向けて航行中の同コンテナ船に対する作戦を実行した」との声明を出した。

 中東情勢の悪化が続く中、コンテナ船社では安全を確保するため、紅海やアラビア海を迂回する動きも出ている。

 航海ルートについては状況に応じて判断しているようで、ある船社関係者は「イスラエルの港湾はオペレーションの遅れや受け入れ貨物制限はあるが稼働し続けている。紅海での航行をどうするかが目下の課題だ」と話す。

引用至《日本海事報》2023年12月18日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292113

1・6万TEU型メタノール燃料の第1船は来年2月に就航する

マースク、1.6万TEUメタノール燃料船。アジア―欧州航路に投入へ

デンマーク海運最大手のマースクは7日、現在建造中のメタノール燃料に対応する大型コンテナ船のうち、第一船をアジア―欧州航路に就航させると発表した。本船の船型は1万6000TEU型で、韓国のHD現代重工業が建造。メタノールに対応した、デュアルフューエル(2元燃料)エンジンを搭載している。就航は来年2月を計画しており、MSCとのコンテナ船アライアンス「2M」で提供する「AE7/Condor」サービスに投入する。

 マースクでは9月、同社として初となるメタノール燃料対応コンテナ船「LAURA MAERSK」(2100TEU型)が竣工した。2月のメタノール燃料対応船の就航はこれに続き2隻目となる。

 新造船は来年1月末に造船所で命名される計画で、続く2隻の姉妹船についても来年前半に配船。年後半にもさらに4隻の引き渡しを受ける予定だという。

 第1船を投入する「AE7/Condor」では中国、東南アジア、中東、欧州に寄港する。

 マースクは2021年以降、グリーン燃料で運航できる新造船だけを発注する方針をとっている。このうち現在24隻のメタノール燃料対応船を発注。この内訳は1万6000TEU型が12隻、1万7000TEU型が6隻、9000TEU型が6隻となっている。

 マースクのカールステン・キルダールCCO(最高商務責任者)は「世界最大級のトレードレーンであるアジア―欧州航路に、当社の大型メタノール燃料船を初めて投入することは、ネット・ゼロ達成に向けた画期的な出来事だ」とコメントしている。

引用至《日本海事報》2023年12月11日 デイリー版3面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=291938

NXHD、海外ロジ堅調、GBHQ成果。単価下落続くも海運は回復基調

NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は22日、国際事業の7―9月期(第3四半期)業績に関するオンライン会見を開催した。海外事業は全4リージョンが減収減益。航空・海運ともに物量減、単価下落が響いたが、海運については荷動きが回復基調を見せているという。また、ロジスティクスは東アジアを除き堅調な実績を残した。昨年のグローバル事業本部(GBHQ)設置で、ロジもグローバルに横串を通したことが奏功。アパレル、消費財などで新規案件を取り込むなど成果が出ており、2024年からさらに収益に貢献する見通しだ。

NXHDグローバル事業本部の名古屋輝明事業戦略部長、日本通運の金森祥之、安藤恒夫両執行役員が、グループの国際関連事業の業績を説明した。各事業の業績は表の通り。

名古屋事業戦略部長は第3四半期の海外事業について「昨年後半から続く欧米での金利上昇による設備投資縮小や、不動産問題を抱える中国の停滞などで、総じて荷動きは低調」と説明。海上フォワーディングの数量は対前年比で微増と回復の兆しを見せたが、航空は海運回帰の動きもあり前年同期比で17・5%減だった。

第4四半期(10―12月)の見通しは「景気悪化の影響から年末商戦に向けた市況の盛り上がりは想定しにくい。販売単価は欧米が現状維持、アジアは下落傾向が続く」と見通す。

一方、ロジ関連はアパレル、日用雑貨、モビリティー関連で堅調に推移している。名古屋氏は「GBHQ設立でロジスティクスも全世界的に強化を図っている。地域・産業ごとに強弱を付け、ビジネスを伸ばすポテンシャルを捉えながら取り組んできたことが、新規事業立ち上げなどにつながっている」と説明した。

■航空、10―12月は2割減も

日本通運の航空事業では第3四半期に前年の反動減に加え、海上輸送への回帰、運賃下落が響いた。輸出の混載重量は前年同期比20%減の4万8503トンだった。

地域別では、米州向けの取り扱いは33%減った。メキシコなど一部エリアで自動車関連のスポットがあったが、半導体関連の反動減が響いた。東アジアは20%減で、中国、台湾への半導体製造装置の需要が伸び悩んだ。南アジアは14%減で、インド、インドネシアへの自動車関連が前期に続き伸長したが、マレーシア、フィリピンの重量が低調に推移した。欧州は8%減となり、ベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)や北欧向けの自動車関連のスポットがあり、マイナス幅は1桁にとどまった。

輸入件数は、10%減の9万1364件。景気減退に加え、米州、アジア発を中心に海上便へのシフトが定着したことなどが需要を押し下げた。生鮮品も出荷規模の縮小が続いた。

第4四半期の輸出は一部エリアで自動車関連が好調だが、全体では1―2割程度の減少を見込む。輸入は1割程度の減少になると予想。パナマ運河の通航制限やアマゾン川の水位低下で、海上から航空のスポットに回る貨物は発生しているが、物量増は一時的とみている。

■海運、運賃適正化への動き

海運事業の第3四半期売上高は31%減で、特に輸出が48・1%減となった。

日本発輸出NVOCC(海上利用運送事業)取扱量は前年同期比7・5%減の5万6415TEU。ただ、9月は1万9972TEUで微増と、14カ月ぶりに単月実績が前年同月を上回った。米州、東アジア向けが増加したという。前月(8月)比では17%増となった。エリア別では米州向けが5%減の9641TEU、欧州向けが8%減の5931TEU、東アジア向けが9%減の2万2444TEU、南アジア・豪州向けが7%減の1万8399TEU。

1―9月累計は11%減の17万1478TEU。第4四半期も傾向は変わらず、通年でも2桁減となる見通し。

安藤執行役員は「日本発では、適正水準への運賃修復を図るという動きが出てきている。パナマ運河の渇水問題などもあり、北米向けでは一部船社で運賃が上昇している。輸出売上高は減少しているが、粗利率は12ポイント改善しており、これは仕入れ強化に取り組んできた成果だ」と説明した。

日本着輸入NVOCC取扱量は4%減の5万3720TEUだった。

港湾運送事業の売上高は3%減の116億円。コンテナターミナルでは中国新規船社部の増収もあったが、日韓・東南アジア航路が減少した。

商船三井、SOV2隻目新造。台湾洋上風発向け、「アジア展開の布石」

商船三井は台湾合弁会社の大三商航運(TSSM社)を通じオランダ造船大手ダーメン・シップヤーズに、洋上風力発電のメンテナンス事業などに従事するサービス・オペレーション・ベッセル(SOV)を発注した。新造船はTSSM社にとって2隻目の台湾籍SOV。2025年末の竣工を予定し、台湾での洋上風力発電所の支援業務に投入される。商船三井は今回の新造プロジェクトをアジア地域でのSOV事業展開の布石とする考えだ。

商船三井とダーメンが22日までに発表した。SOV1隻の造船契約を21日、商船三井と台湾・大統海運の合弁会社TSSM社とダーメンが締結。ベトナム工場で建造する。

新造船「CSOV9020」は全長87・7メートル、全幅19・7メートル、計画喫水 5・3メートルで、最大120人を収容できる居住施設を持つ。洋上で安全に作業するため、自動船位保持装置(DPS)や船体動揺を吸収する機能を備えたギャングウエーも搭載。メタノール燃料船に改造可能なメタノールレディー仕様とする。

商船三井は昨年3月、アジア初の新造SOVとなる「TSS PIONEER」をベトナムの造船所で竣工。同船もTSSM社を通じて発注しており、デンマークの洋上風力発電大手オーステッドとの長期契約に基づき、台湾最大規模の洋上風力発電プロジェクトの保守・点検支援に投入した。

商船三井は今回の新造船で、「TSS PIONEER」で培ったSOVの操業経験を生かし、発電事業者や風車メーカー、建設事業者などに対して洋上での快適な宿泊設備を提供するとともに、本船から洋上風力発電所へ人員や物資の安全な移送を行う。

商船三井で風力発電事業などを担当する杉山正幸執行役員は「『TSS PIONEER』に加え、今回の新造SOVの操業を通じ、TSSM社の台湾でのSOVプレーヤーとしての地位を確固たるものにする。同時に、日本を含むアジア地域での商船三井のSOV事業展開の布石としたいと考えている」とコメントした。

TSSM社の林宏年董事長は「アジア初の専用SOVでの操業経験を踏まえ、グリーンエネルギー分野への貢献をさらに深めたい」とコメント。

ダーメンのアルノー・ダーメンCEO(最高経営責任者)は「数あるSOVビルダーの中から今回、商船三井・TSSM社に採用いただき光栄だ」と述べた。

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