邦船オペ向け長期用船満了でケープサイズの退役が本格化

マースク、7―9月期 EBITDA83%減。業績悪化で1万人削減

デンマーク海運最大手マースクの2023年7―9月期業績は、EBITDA(金利・税引き・償却前利益)が前年同期比83%減の18億7800万ドル(約2800億円)となった。主力のコンテナ輸送での需要の低迷や運賃下落が響いた。業績悪化に対応するため、同社は全従業員の1割程度に当たる1万人の人員を削減する方針を明らかにした。

7―9月期の売上高は47%減121億2900万ドル、EBIT(金利・税引き前利益)は94%減の5億3800万ドル、最終利益は94%減の5億5400万ドルと大幅な減収減益となった。

事業セグメントのうち、コンテナ船部門などで構成する「オーシャン」の売上高は56%減の78億9700万ドル、EBITDAは89%減の11億3300万ドル。取扱量は前年同期から5%増えたが、アジア―欧州、北米、中南米航路を中心に運賃が下落し、EBITは2700万ドルの赤字(前年同期は87億ドルの黒字)に転落した。

売上高に占めるEBITDA率は14・3%と、前年同期の55・1%に比べて40・8ポイント下落した。

ロジスティクス部門の「ロジスティクス&サービス(L&S)」の売上高は16%減の35億1700万ドル、EBITDAは14%減の3億3900万ドル、EBITが47%減の1億3600万ドル。物量はほぼ前年並みだったが航空運賃下落などが響いた。

ターミナル事業は売上高が11%減の9億9900万ドル、EBITDAが10%減の3億5300万ドル、EBITが24%減の2億7000万ドルだった。

■人員削減で6億ドル

通期予想については前回公表値のEBITDA95億―110億ドル、EBIT35億―50億ドルを据え置く一方、予想の下限に近い業績を見込むとした。

コロナ禍以降市況が低迷する中、同社はコスト削減を推進。年初から既に約6500人のリストラに着手しているという。

今後数カ月で最大2500人、24年にかけて3500人を削減する計画で、これにより同年までに6億ドルのコストカットを見込む。

マースクのヴィンセント・クラークCEO(最高経営責任者)は「業界は需要の低迷や過去の水準に戻った運賃、インフレ圧力など新たな状況に直面している」と指摘。「組織と業務の合理化を継続的に進めながらターミナル事業とL&S事業での成長機会を追求し、顧客の多様なサプライチェーン・ニーズを満たすという当社の戦略に引き続き専心する」とした。

(右から)福田氏、ライフォード氏、チュア氏、ヨルゲンセン氏

クラブネス・ドライ、デジタル化で市況の荒波超える。重要な運賃の決定も

ノルウェー船社トルバルド・クラブネスのシンガポール事務所に入ると、メインフロアの奥に電子海図が大きくディスプレーされていた。トルバルド・クラブネスの創業は1946年、シンガポール事務所の開設は2006年と、この歴史ある不定期船会社の名前を知らない人はいないだろう。しかし、記者がクラブネスという名前をはっきりと意識するようになったのは、18年10月にミカエル・ヨルゲンセン氏が来日し、クラブネス・デジタルについて取材したときだ。そのとき、記者はこう感じた。「不定期船ビジネスにデジタルは必要なのか?」。あれから5年、当時の疑問は大きく変わった。海運にデジタルは欠かせない―。(山本裕史)

■ドライ船社の自負
 「クラブネスは、持ち株会社の傘下にクラブネス・コンビネーション・キャリアーズ(KCC)、クラブネス・ドライ、クラブネス・デジタルを擁する。シンガポールの社員は、クラブネス・ドライの中で三つの主要事業に注力している。プール、マーケット・マネジャー、そしてクラブネス・チャータリングだ」

 5年ぶりに再会したドライ部門長のミカエル・ヨルゲンセン上級副社長は、シンガポール事務所の役割についてこう説明した。

 クラブネス・ドライは、パナマックスを中心に太平洋とインド洋の用船とフォワーディングを担当している。

 「用船はクラブネス・ドライにとって非常に重要な仕事だ。どのタイミングで船舶を使用し、どのように効率的に貨物を輸送するかが重要だからである」

 用船を担当する太平洋C&T部門副社長のアイヴァン・ライフォード氏は、クラブネス・ドライの用船活動について次のように説明する。

 「クラブネス・ドライの用船事業は、『海運の本質を改善する』というグループのビジョンに基づき、75年にわたる経験とその過程で得た豊富な知識を生かし、年間約450隻の船舶を用船している。われわれは市場の中だけで仕事をするのではなく、24時間365日体制でサービスを提供している」

 われわれは市場の中だけで仕事をしているわけではない―。

 ライフォード氏のこの言葉はどういう意味なのか?

 ヨルゲンセン氏が説明する。

 「例えば、当社は20年には日本の大手商社である丸紅とパナマックスに特化したプールオペレーションを開始した。ドライマーケットは常に不安定である。例えば市場が上昇するとみれば、われわれは船主に電話する。それは相場が下がる前に、向こう3カ月間の用船料を固定したいかと聞きたいからだ。そんなことをするプール・マネジャーはほとんどいない。しかし、われわれは常にオーナーと共にプールを発展させたいと考えている。だから、このような形でコミュニケーションを取っているのだ」。

 丸紅船舶部とクラブネス・ドライは、3年間のパートナーシップを成功させた後、クラブネス・ドライへの丸紅の出資比率を25%に引き上げるなど、協力関係を強めている。

■デジタルは海運の未来
 クラブネス・ドライのもう一つの「武器」は、海運へのデジタル・アプローチである。

 海運業界がデジタル化とまだ距離を置いていた15年、クラブネスは同社の戦略文書でこう述べている。

 「デジタルは海運の未来だ。デジタルは今後、海運にどのような影響を与えるのか」

 ヨルゲンセン氏が話す。

 「最初の3―4年間は、デジタルが何を意味するのかよく分かっていなかった。しかし、15年にデジタルの種がまかれ、7―8年たった今、私たちはその果実を収穫する時期に入ったのだ」

 市場で利用可能なデジタルツールは、航路を最適化し、船舶の位置や針路などの衛星データを一目で把握できるようにするだけではない。

 同社は二つのサービスを提供している。「カーゴ・バリュー」は、産業界の顧客向けに在庫と出庫のクラス最高の管理を行うもので、「マーケット・マネジャー」は、船主、用船者、貿易業者、オペレーター向けに最適化された運賃決定を行うものである。

 ヨルゲンセン氏は次のように説明する。

 「18年に日本に行った際、各オペレーターに説明をした。例えば、石炭火力発電所は、石炭の在庫と消費量、船舶による供給量を管理する必要がある。カーゴ・バリューを利用すれば、海上輸送を最適に計画し、在庫レベルを適切なレベルに調整することができる。現在では貨物面だけでなく、マーケット・マネジャーを通じて重要な運賃の決定も行っている」

 クラブネスは世界の不定期船会社の中で最も先進的なデジタル化について、15年時点で既に開始していた。

 同時に、ヨルゲンセン氏は同僚とのコミュニケーションの重要性についても語る。

 「クラブネス・ドライの仲間であるマーケット・マネジャーのハルキ・チュア氏や、丸紅に勤務するシニアマーケティングマネジャーの福田大輔氏の意見に耳を傾けるようにしている。時には聞きたくない意見もある。そういう意見も大事だと思う。誰もがプロフェッショナルを自覚している。だから、同僚が自由に意見を言える雰囲気を作るのが私の仕事だと思っている」

 デジタルスキルとコミュニケーションスキル―。

 次世代の海運会社に求められる重要な要素は何か。クラブネス・シンガポールのオフィスへの取材はその一端を感じる契機となった。

引用至《日本海事報》2023年10月30日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290943

スエズ運河

スエズ運河、通航料 来年1月値上げ。5―15%。一部コンテナ船は除外

スエズ運河庁(SCA)は先週発表した声明の中で、船舶の通航料を5―15%引き上げることを決定した。適用は2024年1月15日から。タンカー、ドライバルク船などほぼ全船種が対象になる。欧州北西部から直接極東に向かうコンテナ船は値上げの対象にならないとしている。

 エジプト政府にとって、スエズ運河通航料は外貨収入源の重要な手段の一つである。

 スエズ運河は23年初めから値上げを実施した。同国政府によると「(スエズ運河通航料の値上げにより)7億ドル(約1000億円)の収入増になる」と説明していた。

 エジプトは貿易収支の赤字幅が縮小しているものの、依然として外貨収入獲得としてスエズ運河の重要性を指摘している。

 24年1月15日以降の値上げで15%増加するのは、原油、石油製品、液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、化学物質(ケミカル)、その他の液体物質を輸送するタンカー、コンテナ船、自動車船、旅客船、特殊浮体式ユニットなどの各船舶。

 SCAによると、ドライバルク貨物船、一般貨物船、RORO船、その他については、通常の通航料が5%値上げされる。

 ただし、北西欧州港から直接来て、極東港に直接向かうコンテナ船は、23年通達8に規定されているように、上記の増加が免除される。

 スエズ運河庁は23年初めからの通航料値上げに関する方針ついて、オサマ・ラビー長官が船舶会社の収益力(運賃)向上が最大の理由と説明した。

 コンテナ船、原油タンカーなどの用船料が上昇し、世界的に海運各社の業績が好調であることにも触れた。

 原油価格の高値基調が続く中、他の代替ルートと比べて、スエズ運河を通る場合の効率性を強調していた。

 今回の値上げのその目的について、当局から具体的な説明の言及はない。燃料費の高騰が続く中、スエズ運河の優位性を強調し、外貨獲得につなげる思惑があるとみられる。

引用至《日本海事報》2023年10月24日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290794

MOUを締結した

エバーグリーン、CIPと提携。船舶用合成燃料 開発へ

台湾船社エバーグリーンは20日、デンマークのコペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズ(CIP)と共同で水素ベースの船舶用燃料に関する共同研究を行うと発表した。CIPは再エネ投資に特化した投資会社で、台湾国内で複数の洋上風力発電所の建設を手掛けている。今後、エバーグリーンと共同でカーボンニュートラルな合成燃料(e―fuel)の製造と利用に向けた検討を進めていく。

 両者が締結したMOU(覚書)では洋上風力を活用した台湾での合成燃料の生産やeアンモニアやeメタノールなどのグリーン燃料の供給など幅広い側面で協力していくことが盛り込まれた。

 エバーグリーンは2050年ネットゼロを目標に環境対応を進めており、今年7月には1万6000TEU型のメタノール燃料コンテナ船24隻の発注を決定。これらを合わせた現時点での発注残は71隻・82万TEUとなっている。

 本船運航の脱炭素化に向けてグリーン燃料の調達が必要となる中、同社は「CIPとの協力は二酸化炭素(CO2)削減目標を達成するための戦略においてさらなるステップとなる」と説明。「このパートナーシップは当社が必要とする低炭素燃料ソリューションの開発を支援するものだ」としている。

引用至《日本海事報》2023年10月24日 デイリー版1面 
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290797

邦船オペ向け長期用船満了でケープサイズの退役が本格化

国内船主、退役ケープ代替難航。用船契約短期化。小型船2隻に分散も

国内船主は海運ブーム期に発注したケープサイズバルカーの退役が本格化するのを前に、次の投資先に頭を悩ませている。同船型は邦船オペレーター(運航船社)の期間15年程度の長期用船を裏付けに当時、大量の新造整備が進展。その竣工が2008年の金融危機直後に集中しており、用船期間を満了した高齢船の売船が今後相次ぐ見通しだ。ケープサイズは船価が高額で市況のボラティリティー(変動性)も高い上、用船期間の短期化が鮮明。こうした中、保有船主の間では「全船の代替発注は困難で、小型船2隻の保有に切り替えるのが現実的」との声が多く出ている。

 「ケープサイズの船隊規模が今後縮小していくのは、多くの日本船主にとって既定路線だろう」(今治船主)

 邦船オペとの長期用船契約が今後数年で満了するケープサイズを保有している国内船主関係者は、こう口をそろえる。

 邦船オペ各社は未曽有のドライ好況が続いた03―08年の海運ブーム期、国内船主との期間15年程度の長期用船契約を積極活用し、ケープサイズを大量に新造整備した。

 その新造船の竣工が特に集中したのが、リーマン・ショック直後の09―11年ごろ。これらの船舶が用船契約を満了する24―26年は、各社が100隻規模を持つ大手邦船オペのケープサイズ船隊のリプレース需要がピークを迎えるとみられている。

 大手邦船オペは同船型ではいずれも、LNG(液化天然ガス)燃料船を自社で整備する一方、高齢船の退役が続く中で船隊規模を維持するため、最新鋭の重油焚(だ)き船を新造用船で一定数確保したい考え。

 しかし、邦船オペ向けにケープサイズを長期貸船する国内船主の多くは、既存船の用船期間満了後、邦船オペに代替の新造用船需要があったとしても「退役船と同じ隻数の新造船を整備するのは難しい」(同)との考えを示す。

■発注ハードル高く
 リーマン・ショック以前と比べ、ケープサイズを国内船主が新造整備するハードルが格段に上がっているからだ。特に鉄鋼原料のコモディティー(一般商品)化と共に輸送契約が短期化したことに伴い、かつて10年以上が主流だったケープサイズの新造用船期間が短期化したことが大きい。

 「邦船オペから提示されるケープサイズの新造用船期間は、最近では5年が主流だ。既存のケープサイズはいずれもブーム期直後から邦船オペに期間15年で新造貸船しているが、船価も高騰した今、用船市況が乱高下する同船型を5年の短期で新造貸船することは当社の財務体力では難しい。退役するケープサイズの売船益を元手に、他船型への投資を検討する」(同)

 国内のケープサイズ船主の間では、こうした声が多く上がっている。

■5年新造用船も
 一方、邦船オペ向けに期間5年の新造用船を決めた船主も一部いる。

 「EEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3対応の最新鋭の新造船であれば、竣工後の用船期間が5年でも、契約延長の可能性が高いと判断し、船価上昇前に一部発注した」(別の今治船主)

 しかしケープサイズの代替発注は今のところ、船価上昇前の一部の新造船にとどまっており、今後の売船・退役分の隻数を大きく下回る見通しだ。

 今治船主が続ける。

 「当社では27年までに邦船オペとの長期用船が切れるケープサイズが相当数あり、新造船に入れ替えられるのは一部にとどまる。ケープサイズ船隊は縮小傾向だ」

 同様に、ケープサイズの保有隻数は今後減っていく、と見通す国内船主は少なくない。

 彼らが代替の投資先に挙げるのが、小型バルカーだ。

■逆張り投資妙味
 海運ブーム初期に発注したケープサイズ複数隻を売船した船主は、次の投資先についてこう話す。

 「長期用船がないなら、スポット市況がボラタイル(不安定)なケープサイズ1隻と同じ投資額で、市況が比較的安定しているハンディサイズバルカー2隻を発注する方が得策だと考えている」(四国船主)

 「ケープサイズは足元の新造船価が18万重量トン型で7000万ドル弱、21万重量トン型で7000万ドル台後半と、20年の底値から4割弱上昇した。今の船価で長期用船を付けずに発注すれば、会社が傾く痛手を被りかねない。ケープサイズ1隻が退役する分、小型バルカー2隻を発注するのが現実的だ」(今治船主)

 一方で一部船主は、用船期間短期化と船価高騰で発注できるプレーヤーが限られる今を、発注の好機と見ている節がある。

 今治船主が逆張り投資の意向を示唆した。

 「ケープサイズは26―27年に代替需要がピークを迎えるのがほぼ確実で、発注残は世界的に少ない。手掛けられる船主が限られてくる中、リスクさえ取れるなら、投資妙味は増す」

引用至《日本海事報》2023年10月20日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290743

EU―ETS、サーチャージで転嫁。主要コンテナ船社、推定値を公表

欧州の排出量取引制度EU―ETSの海運への適用を来年に控える中、主要コンテナ船社は新たに導入するサーチャージの推定値を公表した。極東発北欧州向けの場合、MSCはドライコンテナ1TEU当たり22ユーロ(1ユーロ=約157円)の追加チャージが発生すると試算。同条件でハパックロイドは12ユーロ、マースクは1FEU当たり70ユーロとしている。算定の基準となる排出枠(EUA)の価格に変動性があることから推定値には差があるが、荷主にとってコスト増は避けられない状況だ。

 EU―ETSは来年から海運分野にも適用される。これにより船会社は排出量に応じた排出枠を購入する必要がある。

 同制度の対象となるのは5000総トン以上の船舶がEU(欧州連合)・EEA(欧州経済領域)域内の港湾間の航海、停泊で実際に排出したGHG(温室効果ガス)の全て。域外港湾との航海では排出量の50%が対象で、いずれも段階的に適用していく。

 新制度の適用を控える中、欧州の主要コンテナ船社は新たなサーチャージの導入で価格転嫁を進めることを明らかにしている。

 マースクは顧客向けの案内で「EU―ETS順守のためのコストは莫大(ばくだい)なものとなり、増加の一途をたどることが予想される」と説明。同コストの対象となるサービスのブッキング時「エミッションズ・サーチャージ」を適用するとしている。

 このほど示したチャージの推定値では極東発北欧州向けがドライコンテナ1FEU当たり70ユーロ(リーファーコンテナの場合105ユーロ)、同南欧州向けが20ユーロ(30ユーロ)、北欧州発極東向けが46ユーロ(69ユーロ)などとした。同社は遅くとも適用の30日前に正確な料率を公表するとしている。

 MSCも同様に新たにサーチャージを導入する方針で、極東発北欧州向けが1TEU当たり22ユーロ(33ユーロ)、同地中海向けが18ユーロ(27ユーロ)、北欧州発極東向けが13ユーロ(20ユーロ)、地中海発極東向け14ユーロ(21ユーロ)との目安を示した。既存・新規を問わず、全てのスポット・長期契約に適用する。

 CMA―CGMはアジア発北欧州向けのサーチャージが1TEU当たり25ユーロ(40ユーロ)、同地中海向けで20ユーロ(30ユーロ)となると試算。正式な金額は来月中旬に発表するとしている。

 このほかにもハパックロイドは東アジア発北欧州向けで1TEU当たり12ユーロ(31ユーロ)、同南欧州向けで7ユーロ(16ユーロ)との推定値を公表。金額はEUAの価格に合わせて四半期ごとに更新される見通しだ。

引用至《日本海事報》2023年10月17日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290626

BHPのグリーノー氏(中央)

BHP「用船、持続可能性を重視」。新燃料、資源メジャーで協力。ヤラ 「アンモニア必要量 明確化を」。船主・用船者に要請

【APPEC2023】

「従来は主にコストと安全性に着目していたが、今は持続可能性が同等の重みを持っている」――。シンガポールで先月開催された「アジア太平洋石油会議」(APPEC、米S&Pグローバル主催)で登壇した豪資源大手BHPのサラ・グリーノー海事部門責任者は用船の方針をそう語った。一方、ノルウェーのアンモニア生産大手ヤラ・クリーンアンモニアのナタリー・グプタ取締役は船主や用船者に向け「当社のようなサプライヤーとの協議を実り多くするために、脱炭素化へのアンモニア必要量を正確に把握すべきだ」と訴えた。

 BHPは世界最大のドライバルク用船者の一角であり、鉄鉱石年2億5000万トン強、原料炭2900万トン、発電用石炭1400万トン、銅170万トン強、ニッケル8万トンなどを生産している。

 グリーノー氏は「BHPは世界の脱炭素化への準備に対応しようとしている」と発言。同社は、世界のEV(電気自動車)普及に伴い今後30年間でニッケル需要が4倍に拡大すると予測し、銅の生産も倍増を目指す。

 「われわれの株主は当社がこの巨大な量をどう生産していくかに関心を注いでおり、目覚ましい変化として、株主価値と持続可能性が目指すべきポイントの両面として共存している」(グリーノー氏)

■データの民主化
 同氏はBHPの海上輸送の低・脱炭素戦略について「三つの重要な柱で論理的に構成されている」と解説する。

 第1点には「次世代燃料への短期・中期・長期における移行」、第2点には「推進システムと航海最適化ソリューションの継続的な革新」を列挙。

 第3点には「あまり議論されてこなかったが、非常に重要な点」として「チャータリングチョイス」(用船の選別)を挙げ、サステナビリティー(持続可能性)に基づく選別志向を示した。

 その上で「われわれのプラットフォームを活用し、業界に成果を広げていければ、データデモクラシー(データの民主化)がエコシステムにおけるパートナーシップと同様に大きな役割を果たす」と語った。

 BHPは英豪資源リオティント、米穀物大手カーギルとともに、船舶の安全・環境性能評価プラットフォームを運営する豪ライトシップ(本社・メルボルン)に出資し、業界を挙げた船のクオリティー向上を図っている。

■フロントランナー
 次世代燃料への移行を巡って、グリーノー氏は「われわれの戦略は常に先駆的に、今ここから脱炭素を進めようとしている。この観点で当社はLNG(液化天然ガス)2元燃料ニューカッスルマックスを既に就航させており、炭素排出削減と生産目標に貢献している」とフロントランナーの矜持(きょうじ)を示す。

 一方、今後については「短中期戦略として異なるアプローチを取り、ワンショットやワンプロバイダーの手法ではなく、問題解決のためにコンソーシアムを通じて、さまざまな組織と連携する。競合する他の資源会社との協力も重要な手段となり得る」とパートナーシップ重視の方針を語る。

 その上で環境対応により増加するコストを「バリューチェーン全体で共有すること、コスト削減のために作業や需要をまとめていくことが重要」と指摘した。

 具体的な連携策では「今年、われわれは『グリーンコリドー』(緑の回廊)連合の成果として、アンモニアの実現可能性の研究成果をまとめた。船のサイズやバンカリング(船舶燃料供給)最適地、投資への課題、コストなどについて検討を深めている」ことを挙げた。

 グリーンコリドー計画のアンモニア燃料研究にはBHP、リオティント、独船主オルデンドルフ、ギリシャ船主スターバルク、国際海事NPOのグローバルマリタイムフォーラムが参加している。

■ポートフォリオ戦略
 グリーノー氏はアンモニアの燃料供給エリアについて「シンガポールは明らかに重要なバンカリング地域であり、将来的には(西豪州の鉄鉱石産地)ピルバラ地域での可能性もある」と述べた。

 LNG、アンモニア以外の代替燃料については「バイオ燃料も複数の異なるサプライチェーンで活用しており、さまざまなトレードレーンにおいて非常に重要だ。メタノールも短中期的に有力候補になることは間違いない」と発言。

 続けて「当社の戦略としてバイオ燃料やグリッド推進システム、そしてアンモニアなどを注視している。われわれには複雑なサプライチェーンや幅広い商品にまたがる多くのトレードレーンがあり、その特徴に応じてポートフォリオアプローチを取る必要がある」と語り、多様な可能性を探っていく考えを示した。

■50年舶用4割に
 「当社の主な目的は、クリーンプロジェクトを追求することだ。基本的には(化石燃料由来の)『グレーアンモニア』から、製造時のCO2(二酸化炭素)を回収する『ブルーアンモニア』や再生可能エネルギー由来の『グリーンアンモニア』への移行を意味する」

 ヤラ・クリーンアンモニア(YCA)のナタリー・グプタ取締役(船舶燃料供給・バリューチェーンパートナーシップ担当)はアジア太平洋石油会議(APPEC)で、同社のアンモニア事業戦略をそう語った。

 アンモニアの現在の用途は肥料中心だが、燃焼時にCO2が発生しないゼロエミッション燃料として海運や発電業界から期待の目が注がれている。

 2021年の国際肥料協会の試算によると、脱炭素需要を追い風にアンモニアの市場規模は同年の1億8400万トンから50年には4億7000万トンに拡大し、このうち船舶燃料向けが約4割の1億8200万トンを占める見通し。

 グプタ氏は「移行の初期段階はブルーアンモニアが主流になる。製造時に回収するCO2は、米国や北海などの油井への貯留が有力な選択肢となる」と予測。

 一方、グリーンアンモニアについては「複雑なゲームになる。コストは基本的に再生可能エネルギー関連の設備投資額、電解槽の費用によって決まる。ただ、長期的には市場参入者の増加により、グリーンアンモニアの経済性は向上していくだろう」と見通す。

 国際肥料協会の50年のアンモニア種別割合予測はグリーンアンモニア43%、ブルー27%、グレー30%。

■アセット裏打ち
 ヤラ・グループは現在、アンモニア市場でシェア2割以上を確保し、アンモニア輸送船隊15隻を擁する。

 グプタ氏は「重要ポイントの一つは、われわれの供給がアセットに裏打ちされていることだ」と発言。「本質的にスポット市場で取引される化石燃料とは異なり、アンモニアは製造品であり、生産拠点や生産者の関与が不可欠」と語り、生産能力に根差した強みを強調する。

 次世代燃料としてのアンモニアの優位性は「一つにはコスト」と述べ、「アンモニアは炭素分子を持たないため、炭素分子を含む他の燃料と比較して安価なクリーンエネルギーとなり得る」と語る。

 さらに、同氏は「われわれはアンモニアのオフテイカー(引き取り手)でもある」と述べ、アンモニア需要について「海運だけでなく、他の市場からも必要とされている。当社が追求する市場には電力セクターが含まれ、アジアだけでなく欧州向けに水素キャリアーとしての潜在需要が見込まれる」と期待を込める。

 欧州連合(EU)は30年の目標にクリーン水素の生産1000万トン、輸入1000万トンを設定。グプタ氏によると、現時点で欧州の電解槽ベースのクリーンアンモニア生産能力は30万トンにとどまり、今後の飛躍的な成長が見込まれる。

■中国、舶用に野心
 グプタ氏は需要の伸びを踏まえ、「バンカリング(船舶燃料供給)を含めて、世界が脱炭素化のために必要とするアンモニアの追加量を正確に把握すべきだ」と訴える。

 背景として「アンモニアのプロジェクトは本質的に規模が重要になる。上流だけでなく、供給やバンカリングへの投資の観点からもそうであり、重要ポイントはボリュームを積み上げることだ」と説く。

 ヤラ・グループは数年前から新規生産プロジェクトを始動し、需要エリアや経済性を踏まえながら現在、フェーズ2に入っている。

 「アンモニア対応エンジンが24年末または25年をめどに実用化されれば、ノルウェーでアンモニアのバンカリング試験を短距離航路で開始できる」(グプタ氏)

 質疑応答では中国のアンモニア市場の見通しを問う声が上がり、グプタ氏は「中国は現在、アンモニアの最大の生産国だ。ただ、他の生産国のようにガス由来ではなく、主に石炭由来のグレーアンモニアを生産しているとみられる」と解説。

 その上で、「クリーンアンモニアは、中国経済の脱炭素化に大きな役割を果たすだろう。さらに、中国にはバンカリングを発展させる野心があるようだ」と指摘した。

■臭ったら即行動
 アンモニアの課題には毒性が挙げられる。

 グプタ氏は「私の理解では、トレードコモディティー(貿易商品)としてのアンモニアの安全記録に問題はない。事故原因はほとんどの場合、冷凍・冷蔵状態での貯蔵時のヒューマンファクター(人的要因)だ」との見解を提示。

 その上で、「アンモニアは5ppm(ピーピーエム)以上の濃度で臭いを感じとれるようになり、5000―1万ppmで危険が生じる。つまり、臭いから非常に危険になるまで時間的猶予がある」とし、「担当者や責任者が臭いを嗅いだとき、適切な行動をとらなかったことが事故につながっている」と指摘する。

引用至《日本海事報》2023年10月11日 デイリー版1面  外航全般

https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290504

ケミカル船社、集約が進展。持続可能性 高まるか

石油化学製品などを運ぶケミカルタンカー船社の集約が進んでいる。市況低迷の長期化に苦しめられたことに加え、船価高騰や環境対応で船舶投資が困難なことが集約を後押ししている。海運関係者は「ケミカル船業界が持続可能になるための契機になるかが焦点になる」と語る。

商船三井グループのMOLケミカルタンカーズ(MOLCT、本社・シンガポール)は9月12日、米国の複合企業フェアフィールドマックスウェル傘下のフェアフィールドケミカルキャリアーズ(FCC)を買収することで基本合意したと発表した。

MOLCTは競争法上の関係当局の承認を条件に、フェアフィールドマックスウェルからFCCの全株式を約4億ドル(約597億円)で取得する。

MOLCTのケミカル船隊は85隻。これにFCCのケミカル船36隻が加わり、MOLCTの船隊は120隻超に拡大する。ケミカル船最大手のノルウェー船社ストルトニールセンを追随する。

ケミカル船社のM&A(買収・合併)としては、2016年のストルトによる同国のJOタンカーズの買収、19年のMOLCTによるデンマーク船社ノルディック・タンカーズの買収に次ぐ案件になる。

事業環境が改善してきた中での今回のMOLCTによるFCCの買収合意を受けて、あるケミカル船関係者は「寝耳に水」と驚きを隠さない。別の関係者は「伏線はあった」と語る。

フェアフィールドマックスウェルの幹部が数年前に、FCCの売却も選択肢という考えを示したという。当時は市況低迷が長引き、ケミカル船社の業績も振るわなかった。

同関係者は「(ケミカル船は)投資先としての魅力が薄れていたのだろう」との見方を示す。

ケミカル船市況を巡っては、リーマン・ショック後も半年間は堅調に推移。関係者の間に金融危機の影響は軽微にとどまるとの安心感が広がったものの、すぐ新造船の大量竣工のあおりで市況悪化が顕在化した。

MOLCTやストルトが主力とするステンレス製のカーゴタンクを備えたケミカル船は、もともと運賃市況のボラティリティー(変動性)が低い。

ステンレス船は腐食に強く、あらゆる液体貨物を積載できる。エチレングリコールやスチレンモノマー、リン酸など多種多様な貨物を組み合わせて運ぶため、高度な専門知識と技術が求められ参入障壁が高いためだ。

だが、海運バブル期にケミカル船分野にも投機マネーが流入。船舶投資ファンドが大量発注した新造船がリーマン後に相次いで就航し、需給バランスが崩れた。石油製品を運ぶプロダクト船が流入したことも市況悪化に拍車をかけた。

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ケミカル船を取り巻く事業環境は一変した。

欧州は石油化学製品の調達先をロシアから北米や中東などにシフト。それにより輸送距離が延び、ケミカル船の船腹需要が押し上げられた。プロダクト船が石油製品輸送に回帰したことも、ケミカル船の需給タイト化を促した。

不況時に船舶投資がストップし新造船の供給が少ないことも相まって、ケミカル船の運賃市況は改善。船社の業績も改善し、船舶投資の再開を検討できるようになった。

ところが、鋼材やステンレス価格の高騰を受け、ケミカル船の新造船価は大幅に上昇した。造船所の船台も26年ごろまではほぼ埋まっている。次世代燃料の見極めも難しい。船社は投資判断が困難な状況にある。

そういった中で、M&Aを通じた成長戦略の実現という選択肢が現実味を帯びてきたようだ。

MOLCTの佐々明CEO(最高経営責任者)は、FCCの買収合意に関するプレスリリースの中で、FCCの魅力ある船隊の獲得が一つの目的だったことを認めている。

ケミカル船社の収益は改善し、市況も健全な水準を維持している。ただ、「高品質で安全な輸送サービスを安定的に提供していくための経営基盤の構築はまだ道半ば」(関係筋)だ。

インフレや環境対応など取り巻く事業環境が大きく変化する中で、ケミカル船業界がサステナブルな業界になれるのか。MOLCTによるFCCの買収は一つの試金石になる。

 

 

日本海事報告,2023 年 10 月 02 日,每日版第 1 頁

化學品航運公司正在整合。 可持續性會提高嗎?日本海事報紙電子版(jmd.co.jp)

コンテナ市況、9月以降軟化、危険水域に。供給増に需要追い付かず

主要航路のコンテナ運賃が、コンテナ船社にとって採算割れの水準まで落ち込みつつある。22日付の北欧州向けコンテナ運賃は20フィートコンテナ当たり623ドルと、今年の最安値を更新した。北欧州向けが700ドルを割り込むのは2019年以来。新造船竣工に伴う供給量の増加で需給が緩んでいるのが原因。当初、市況軟化時にコンテナ船社は過去の経験を踏まえて船腹削減を進めることで大崩れはしないと見られてきた。しかし、今年は新造船竣工量が過去10年間の平均に比べて倍以上と大きいため、船腹削減が追い付かない模様。運賃市況はコンテナ船社にとって危険水域に近づいている。

グラフは、上海航運交易所(SSE)がまとめている上海発北欧州向けコンテナ運賃を、17、18、19、23年の4年間で比較したもの。期間は1月第1週(W1)から9月末(W39)まで。

23年の北欧州向けは年初から緩やかに軟化が進んで700ドル台前半まで落ち込んだものの、8月の船社による値上げで900ドル超まで反発。ただ、値上げ効果も持続せず、9月22日付では年初来の最安値を更新した。

市況が厳しかった19年以前も同様の傾向を示しており、8月までに何度か値上げで上向くものの持続せず、9月末までに大きく値を下げるのが顕著となっている。

アジア発欧州向け(欧州西航)の荷動きは好調に推移しており、7月は前年同月比6%増の約150万TEU。前年割れが続く北米向けとは対照的に好調に推移するなど航路環境は悪くない。

荷動き好調でも市況が下落傾向にある原因について日本海事センターでは、「新造船竣工による供給量増が大きすぎ、需要(荷動き)が追い付いていない」(同センターの松田琢磨客員研究員)と説明する。

各調査機関のリポートによると、23年4月以降のコンテナ運航船腹量は月平均19万TEU以上のハイペースで増加。過去1カ月間では実に21万TEUの新造船が竣工した。

過去10年間で世界のコンテナ船隊増加量は年平均で100万TEU。23年は平均の2倍となる220万TEUの竣工が予想されるという。単年の竣工量が最も多かったのは15年の170万TEUだった。また24年の竣工量は300万TEUという試算もある。

英クラークソンがまとめた23年1月時点の世界のコンテナ船腹量は2575万TEU。23―24年の2年間で2割近い船腹量の増加が見込まれることになる。

10月からの中国国慶節休みに備えてコンテナ船各社は欠便などの船腹削減計画を実施する予定だ。当初予定よりも削減幅を上積みしているが、現状ではそれで間に合うか疑問の声もある。

北欧州以外の運賃動向(9月22日付)をみると、北米西岸向けが40フィートコンテナ当たり1790ドル。西岸向けは2000ドルを割り込むと採算が厳しいとみられており、船社にとっては正念場となっている。

 

引用至《日本海事報》2023年09月28日デイリー版1面

 

コンテナ市況、9月以降軟化、危険水域に。供給増に需要追い付かず|日本海事新聞 電子版 (jmd.co.jp)

〈欧米メジャー LNG市場展望〉長期売買契約を再評価、舶用燃料化にも期待。アジア新市場開拓、ガス低炭素に注力

シンガポールで今月上旬に開催された世界最大の天然ガス・エネルギー国際会議「ガステック」で、欧米エネルギー大手のキーパーソンらからLNG(液化天然ガス)の長期売買契約の重要性を再評価する声が相次いだ。ウクライナ危機後のLNG価格のボラティリティー(変動)増大を機に、これまで進行していたLNGのコモディティー(一般商品)化からの反動が鮮明となりつつある。一方、需要面ではLNGの舶用燃料化への期待の声も上がった。

「欧州における過去1年半を振り返ると、天然ガスの役割が浮き彫りになり、長期で多様なLNG購入契約による供給確保の重要性がはっきりと再認識された」

米エクソンモービルのピーター・クラーク上席副社長はパネルディスカッションの冒頭にそう語った。

「ロシアの輸出急減に伴い、欧州各国がガスのスポット購入に追い込まれ、エネルギー価格全体の高騰につながった。再生可能エネルギーはその需給ギャップを埋める機能を果たさず、各国は石炭などの高炭素燃料への回帰を強いられた」(クラーク氏)

英シェル・エナジーのスティーブ・ヒル上級副社長も「地政学リスクとエネルギー転換に伴うボラティリティー増大は依然として続いており、LNG業界における長期契約の重要性が強化されている」と指摘。

その上で「昨年の価格高騰において、スポット市場にほぼ完全に依存していた欧州のバイヤーに比べて、長期契約が調達の8―9割を占めるアジアのバイヤーへの影響ははるかに小さかった」と述べた。

欧州トレーダー大手ビトールのラッセル・ハーディCEO(最高経営責任者)は「昨夏、欧州のガス価格はMMBtu(百万英国熱量単位)当たり約100ドルに達し、供給危機への恐怖が高騰を引き起こした。背景にはわれわれが特定のガス源に大きく依存していたことがあり、今後は多様な独自戦略が求められてくる」と語り、ソース多様化の方向性を示す。

 

■米VG社を非難

LNG市場では2000年代後半以降、仕向け地制限のない米シェールガス輸出拡大に伴いトレーディングが活発化。LNGのスポット市場拡大とコモディティー化により、LNG船の用船契約の短期化にもつながっていた。

しかし、ここにきてエネルギー各社が長期売買契約を再評価していることで、用船契約にも中長期化への揺り戻しが起きつつある。

シェル・エナジーのヒル氏はコモディティー化に関し「LNGには二つの市場が存在する。一つは世界のガス市場のバランスを取る上で効果的なスポット市場。もう一つは長期市場であり、プロジェクトを立ち上げ、顧客とLNGビジネスに供給の確実性と価格の予測可能性をもたらす上で非常に効果的だ」と長期、スポットそれぞれの利点を解説する。

さらにヒル氏は長期売買契約の信頼性を巡り、米国のLNG生産会社ベンチャーグローバルLNG(本社・バージニア州)が試運転期間を理由に供給責任を十分に果たしていないと強く批判した。

「ベンチャーグローバルの欺瞞(ぎまん)的行為が業界に損害を与え、危険な存在となっている。これは業界への警鐘だ。LNGビジネスは長期契約の順守と信頼によって成り立っている。プロジェクトの実現を支えてきた信頼あるバイヤーに貨物を供給しないのであれば、現在の価格環境において誰もその企業を信じなくなる」(ヒル氏)

 

■船舶向け拡大へ

ディスカッションの後半にはLNGの舶用燃料需要にも話題が及んだ。

ビトールのハーディ氏は「今後数年間でLNGバンカリング(船舶燃料供給)市場は大きく成長し、道路輸送においてもLNG使用が大幅に増加するだろう」と期待感を口にする。

「50年のネットゼロは全産業の巨大な課題だが、現時点で明確な解決策が見いだされていない領域がある。その一つがバンカー(船舶燃料)だ。年約4億トンの船舶燃料が燃焼され、われわれのモノやエネルギーが世界中に運ばれている。現段階の新造船の選択肢は、LNGと重油の2元燃料を志向していることは確かだ」(ハーディ氏)

シェル・エナジーのヒル氏も「(船舶燃料のLNG転換は)今まさに起こり始めている。われわれはシンガポールで2隻目のLNG燃料供給船を導入したところだ。2元燃料仕様を備えた新造船は大型船で約3分の1に達し、巨大な潜在需要が存在する」と指摘する。

ハーディ氏は今後の見通しについて「ガス供給拡大によりLNG価格が少しでも安くなり、供給インフラも整備されると、巨大なLNGバンカー市場が出現する。船舶燃料は今後10年でLNGに大幅に転換されるだろう。この推移を興味深く見守っている」と話す。

 

■再ガス化1億トン

米エクソンモービルのピーター・クラーク上席副社長はLNG(液化天然ガス)市場の今後の展開について、米国積みを中心とした欧州向けトレード伸長シナリオを示す。

「複数のアナリストが欧州で2027年までに約1億トンの再ガス化能力が必要になると予測しており、対応プロジェクトが急速に提案されていくだろう。世界各地からLNGが供給され、特に米国ガルフが重要な役割を果たす」

エクソンも来年、米ガルフの新規プロジェクト「ゴールデンパスLNG」で年1800万トン規模の液化設備の稼働を予定している。

欧州トレーダー大手ビトールのラッセル・ハーディCEO(最高経営責任者)は「ガス不足は解消されておらず、今年はLNG5000万トンが欧州に向かう見通しだ。ロシアからのガスは依然として止まっており、われわれは『輸入LNG』と『需要減』という二つのメカニズムで問題を解決している」と分析する。

同氏は続けて「価格にもよるが、今年はおそらくLNG換算約2000万―3000万トンの需要減により需給ギャップを埋めなければならない。推奨したいのは、より柔軟なビジネスモデルを開発し、サプライ&トレーディングビジネスに適応することで、ボラティリティー(変動)の犠牲者ではなく、利用者になることだ」と訴える。

 

■ストレージ投資へ

伊エネルギー大手Eniのクリスティアン・シグノレット取締役は「ボラティリティーの一因には天然ガスとLNGの貯蔵キャパシティーが非常に少ない事実が挙げられる。われわれの投資はまだ完了しておらず、ストレージが次の投資の波だと思う」と見通す。

米シェブロンのコリン・E・パーフィット中流部門担当プレジデントは「米国ではこれからLNGプラント導入が加速し、まずは欧州向け、長期的にはアジア市場への輸出が進んでいく。過去20年間、米国と欧州では石炭火力からガスへのシフトがCO2(二酸化炭素)削減につながっており、今後はアジアでこうした転換の機会が生まれてくる」と予測。

さらに、同氏は「私はエネルギー分野で約40年間働いてきたが、今が最もエキサイティングな時代の一つだ。伝統的なエネルギーをどう転換するかという大きなチャレンジが目の前にある」と語り、変革期に意欲をのぞかせる。

 

■CCSに熱視線

LNGは石炭よりもGHG(温室効果ガス)排出量は少ないが、化石燃料であることには変わりない。さらなる排出削減への努力が需要拡大の鍵を握る。

「米国のガス市場における長期的役割を促進する一つの要素が、ガス生産の上流でのGHG削減策だ」

エクソンのクラーク氏はそう言い切る。

エクソンは米国有数のシェールガス生産地「パーミアン盆地」における30年までのネットゼロ目標を設定。クラーク氏は「当社を含めた多くの開発企業がCCS(CO2回収・貯留)設備を調査している」と明かす。

シェブロンのパーフィット氏も「石油・ガス事業の成長と同時に、炭素強度の大幅削減にも取り組む」と決意を語り、「フレアリング(余剰ガスの焼却処分)停止やLNGプラントでのメタンスリップ(メタン漏えい)対策を取らなければならない」と課題を挙げる。

一方、ガス価格高騰により、経済的に余裕のない国々が石炭に回帰している傾向も指摘された。

ビトールのハーディ氏は「今冬もガス価格が上昇すると、パキスタンやインド、中国などはLNGを受け入れず、他の燃料を使用する傾向が今後も続く。アジアは依然として19―21年の消費レベルまで戻っていない。一方、欧州はガスを必要としており、上昇した価格を支払うことになる」と分析する。

 

■独越比に供給開始

シェル・エナジーのスティーブ・ヒル上級副社長は新たな輸入国増加への期待感を口にする。

「われわれはマーケットの驚異的な成長を目にし、過去1年で新たにドイツ、ベトナム、フィリピンの3カ国への供給を手掛けた。LNG業界が過去10―15年間協議し続けてきた市場がついに現実になり、インフラが整備されている。最初のカーゴが届けられ、LNG導入の課題を大きく打ち破り、大きな成長の可能性が生まれている」

Eniのシグノレット氏も「当社はガスとLNGが未来を創ると信じており、30年までにトータル生産に占めるガス比率を6割、50年には9割とする大きなミッションを定めている。LNGビジネスの持続可能性には規模が鍵を握り、欧州だけでなく、最も成長の見込まれるアジアの顧客にもリーチしたい」と意気込む。

引用至《日本海事報》2023年09月27日デイリー版1面  

【ガステック2023】〈欧米メジャー LNG市場展望〉長期売買契約を再評価、舶用燃料化にも期待。アジア新市場開拓、ガス低炭素に注力|日本海事新聞 電子版 (jmd.co.jp)

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