今年の新造船市場予想、先物納期 にらみ合い。受注1割減、船価は微増

今年の新造船市場予想、先物納期 にらみ合い。受注1割減、船価は微増

2024年の新造船マーケットは、主要造船所の線表が海運ブーム期以来の先物まで進んだことで新造商談が減速し、日本造船所の受注量は前年比で1割程度減少するとの見方が大勢だ。船価を巡っては、インフレによるコスト増加分を転嫁したい造船所と、海運市況の先行き不透明感から価格のレベル感に神経質になっている船主のにらみ合いが継続。新造船価は横ばいか微増で推移するとの予想が多い。

■線表ブーム期並み
 今年の日本造船所の新造船受注動向を占う上で、ポイントは大きく二つある。

 一つは、造船所の線表が近年なかった先物まで進んでいる点だ。

 日本造船主要各社はドライ市況が急回復した昨春、国内外の船主から主力の中小型バルカーを集中的に受注。過半が26年船台を完売し、先行勢は複数社が27年半ばまでの工事にめどを付けた。

 さらに、夏場の商談停滞を経て、秋口に再開した新造商談〝秋の陣〟で線表をじわりと伸ばし、各社が26年船台をほぼ完売。艤装期間が長いLNG(液化天然ガス)などの新燃料船を連続建造するヤードなど、内定を含めて線表確定が28年まで進んだ工場も出てきた。

 つまり、主要日本造船所は新しい年が明けた今の時点で、3年超の潤沢な手持ち工事を確保しているところが多く、00年代後半の海運・造船ブーム期以来、線表を4年先まで進めた工場もある状況だ。

 このため、造船所は受注を急ぐ必要はなく、「24年は採算重視で案件を選別する姿勢を強め、年末までに27年船台1年分を売り切る程度に受注ペースを落とす公算が大きい」(商社船舶部)。

■高止まりで様子見
 もう一つのポイントが、今年は新造船価の高止まりがほぼ確実視されていることだ。

 造船所は線表を先物まで進めたことで、船価を下げてまで受注に動く局面ではない。加えて、世界的なインフレの影響で、鋼材・舶用機器などの材料費のほか人件費、電気料金などが軒並み高騰。コスト全般の上昇による「採算悪化を為替の円安効果で何とか吸収しているのが現状」(国内造船所関係者)で、船価を下げる選択肢は年間を通じてないだろう。

 資機材の中で特に価格上昇圧力が強まっているのがエンジンだ。主機の価格は近年受注が急増した小型バルカー向けの需給逼迫(ひっぱく)もあり、「コロナ前からこれまでの値上げ幅は5割以上に達している」(同)。

 他の舶用機器も同2―3割の値上げが進んだとの声が多い。21年から右肩上がりの上昇が続いた鋼材価格は天井感が一時出ていたが、昨年末に値上げ圧力が再び高まるなど、日本ではなお史上最高値の水準で推移。人件費は23年に一段と高騰した。

 こうした状況下、造船所関係者の間では「24年の船価は前年水準の維持を最低ラインとして、インフレによるコスト増加分の転嫁で前年比数%の微増を期待する」との声が多い。

 日本造船各社は業績が厳しい中、鋼材価格の高騰が始まった21年初めからの急激なコスト増をカバーするため、船価の引き上げを強い姿勢で進めてきた。

 これが24年の船価予想では「最低でも現状維持」(同)などと若干弱気に映るのは、今の事業環境で船価水準をもう一段引き上げれば「船主に許容されないレベルに達してしまう」(同)との感触を得ているからとみられる。

 ギリシャなどの海外勢を含め、船隊刷新に向けた新造整備を探っている船主は年末時点で少なくなく、造船所への引き合いも増えていた。一方、船主を取り巻く事業環境は良好とは言えない。

 「中国経済の減速懸念やコロナ後の滞船解消、地政学リスクなどが意識される中、24年の海運マーケットが急回復する材料は少ない。加えて、ドル金利高で資金調達コストが大きく膨らんでおり、船価がこれ以上上がれば多くの船主が本格的に様子見に入り、受発注が停滞する公算が大きい」(商社船舶部)

 好市況なら期先成約も

■商談スローダウン
 潤沢な手持ち工事を確保した造船所と、船価の高止まりで発注に様子見姿勢の船主。24年は両者のにらみ合いが続くとみられる中、日本造船所の新造船受注量はどう推移するだろうか。

 「24年の日本の受注量は、年間竣工量と同程度の900万総トン前後になると予測している」

 国内造船所と商社船舶部の見立ては、この内容でほぼ一致している。

 日本船舶輸出組合のまとめによると、23年の日本の輸出船受注量は1―10月累計で前年同期比16%減の811万総トン。このペースを維持すれば、通年では1000万総トン程度に着地する見通しだ。

 船価回復で受注が急増した21年とその勢いを前半まで維持した22年の実績は下回るが、海運市況が大底だった16年以降で見れば、両年と18年に次ぐ水準となる。

 24年の受注量がそこから1割程度減少するとの予測が多いのは、造船所と船主のにらみ合いが長期化し、新造商談がスローダウンすることを織り込んでいるからだ。

■上振れのシナリオ
 ただし、以上のシナリオは海運市況が平年並みに推移することが前提。ドライバルクを中心に用船マーケットが本格的な上昇局面に入れば、船主と造船所の膠着(こうちゃく)状態が崩れ、新造発注が異例の期先納期までさらに進む可能性もある。

 「24年は新造商談がスローダウンし、受注量が年間竣工量と同程度に落ち着くのが現実的な予想だ。しかし、海運マーケットが想定以上に好調に推移し、為替相場も23年の円安水準が維持され、新造案件が先物納期でも増えてくるなら、日本造船所は採算が合う限り28―29年船台まで受注を進めるのではないか」(同)

 特に各社が主力とする中小型バルカーは現時点では、重油焚(だ)きの最新鋭船が最も環境性能に優れたデザインと考えられている。だが、環境規制の行方次第では、新燃料船が新造整備の主流にいつ躍り出ても不思議ではない。

 こうした中、造船所には新燃料船より工期が短く、連続建造でコストも抑えられる重油焚きバルカーで、「好採算の案件があれば極力先物まで受注したいとの心理が働く」(同)との見立てだ。

 その兆しは昨年末、かすかながら見え始めていた。

 バルカーの主要航路平均スポット用船料は12月初め現在、ケープサイズが5万ドル台、パナマックスが2万ドル台、スープラマックスが1万6000ドル台、ハンディサイズが1万4000ドル台。全船型で一般的な新造船の損益分岐点を大幅に上回って推移している。

 これを受けて船主心理は急速に改善しており、「27年前半や同年半ば前後の先物納期でも、発注を具体的に検討する船主が国内外で一定数出てきた」(国内造船所関係者)。

 24年は、ドライ市況が年初の軟化から例年復調する中国の旧正月(春節)が明けるのは2月半ば。この時期に新造商談がどこまで活発化するかが、今年の新造船マーケットの最初の焦点になりそうだ。

引用至《日本海事報》2024年01月01日 デイリー版6面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292397

海運大手、ROE10%視野へ。紅海迂回・円安、純利益押し上げ

日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社の2024年3月期連結決算で、財務指標の一つであるROE(自己資本利益率)が10%を超える期待感が出ている。足元では紅海を迂回(うかい)する海運会社が相次ぎ、コンテナ船の業績が回復するとの指摘も出てきた。円安効果に伴う業績による押し上げ効果もあり、純利益が上方修正されれば「ROE10%の壁」を超える可能性もある。

 ROEは自己資本に対し、純利益が何割かを示す指数のこと。ROEが高いほど、株主の投下資本に対し会社が効率的に利益を上げていることを示す。

 21年3月期時点で海運大手のROEは15―22%と東証プライム市場で一般的に求められる10%をクリアしていた。

 最大の理由は自己資本に比べ、純利益が先行して増加した点にある。

 3社が出資するオーシャンネットワークエクスプレス(ONE)は20年後半から本格的に米国などの「巣ごもり需要」の取り込みに成功。ONEの22年3月期税引き後利益は、前年比約5倍の約2兆1800億円を計上した。

 海運大手は各約3割を出資しているため、21年2月から22年6月までに合計5回の配当を受け取り、配当額は1兆円を超えた。

 自己資本の積み上げの基礎となる利益剰余金は期末以降に計上されるため、純利益が先行して計上された形だ。

 一方、足元では自己資本と純利益の関係が過渡期に入っている。

 海運大手の23年9月期の自己資本は、日本郵船2兆6471億円、商船三井2兆1603億円、川崎汽船1兆5837億円といずれも過去最高を記録した。

 日本郵船や川崎汽船は自社株買いを実施している。本来、自社株買いの原資は自己資本となるため自己資本は減少する。

 関係者によると、自社株買いの株式は「消却」するまで自己資本が減少に転じないとみられる。期末以降に自己資本が減少に転じれば、「適正な資本構成を構築できる」(海運幹部)。

 今期は過去最高の自己資本、コンテナ船市況の不透明感で23年9月期時点の期末予想でROE10%を超えているのは商船三井だけ。

 しかし、11月以降、イエメンの武装組織フーシ派による紅海を航行する船舶への襲撃が発生。足元ではAPモラー・マースク、ONE、CMA―CGM、ハパックロイドなど世界の主要コンテナ船社が紅海を迂回することを表明した。

 自動車船やタンカー、バルカー船社も紅海を迂回、喜望峰回りの遠距離航路を選択している。

 特にコンテナ船は新造船の発注が急増し、来年の市況への影響が懸念されていた。

 パナマ運河でも渇水による通航制限が長期化されており、「洋の東西」の主要運河が大きな制約を受けている。

 24年3月期末に向け自己資本の適正水準、純利益の押し上げがあれば、各社ともにROE10%を超える可能性は高い。

 もう一つの課題となっているPBR(株価純資産倍率)についても自己資本の水準次第では、時価総額の押し上げで理論上の解散価値と同等とされる1倍も視野に入りそうだ。

引用至《日本海事報》2023年12月27日 デイリー版1面

コンテナ船、SC混乱再燃の懸念も。3大アライアンス、スエズ航行回避で

紅海でイエメンの親イラン武装組織フーシによる商船攻撃が相次いでいることを受け、コンテナ船の3大アライアンス全てがスエズ運河の通航中止を決めた。これにより、定期配船に大きな影響が出ている。各社はアジア―欧州・地中海航路を喜望峰経由に順次切り替える方針で、長距離化によるスケジュール遅れや、ハブ港での混雑が予想されている。パナマ運河の通航制限継続なども加わり、グローバルサプライチェーン(SC)の混乱が再燃する可能性も出てきた。

 スエズ運河航行中止を決め、対外公表したのは、MSC、マースク(以上2M)、CMA―CGM、エバーグリーン(以上オーシャンアライアンス=OA)、オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)、ハパックロイド、陽明海運、HMM(以上ザ・アライアンス=TA)の各社。OAのCOSCOも一部顧客にはすでにスエズ運河経由の中止を説明しているという。これにより、3大アライアンスの全てが、アジア―欧州・地中海航路でのスエズ運河通航を取りやめることになる。

 コンテナ船関係者によると、喜望峰経由の場合、トランジットタイムは10日―2週間長期化し、船型にもよるが燃料費などで1ラウンド100万―200万ドルの追加コストが発生するという。

 2週間の長期化で、スケジュール維持には各ループ2隻が必要となる計算だが、現在のアジア―欧州・地中海航路で各ループ投入船型を2隻ずつ増やすと単純計算で100万TEU弱のキャパシティーが追加で必要となり、需給引き締めにはつながりそうだ。

 また、スケジュールの乱れ、接続港の変更などから、ハブ港での混雑悪化も予想され、SCにとっては混乱要因が増える。

 スエズ運河では2021年3月、コンテナ船「EVER GIVEN」が座礁し、ほぼ1週間航行ができなくなり、改善に向かっていたスケジュールの定時性が再度悪化した。ある関係者は「北米西岸港湾での大規模滞船など物流全体が混乱していた当時とは状況が異なるが、ガザ情勢(イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻)が1週間で解決するとは思えず、影響は(EVER GIVEN座礁時と比較して)より深刻ではないか」との見方を示した。

 また、欧州・地中海航路が喜望峰経由となった場合、長期契約での輸送条件とは異なるため「契約運賃は使っていただけない。コスト増に見合った運賃をお願いすることになり、今後荷主の理解を得るべく説明していくことになる」(外資メガキャリアの日本法人営業責任者)という。

 パナマ運河の渇水による通航制限も、コンテナ船の定時運航にマイナスの影響を与えている。定期配船のコンテナ船は事前予約しているため、他の船種より相対的に影響は少ないが、混雑の余波でスケジュールが乱れがちだ。TAでは、アジア―北米東岸サービスの一部をパナマ運河経由ではなくスエズ運河経由にシフトしようとしていたが、今回のスエズ通航回避で対策の見直しを迫られることになる。

 スポット運賃にも影響が出始めている。ノルウェー・ゼネタがまとめたコンテナ運賃指標によると、極東発欧州向け運賃指標は11月上旬まで緩やかに低下してきたが、15日付指標は1FEU当たり1560ドルで、前週比5%増、前月比21%増と上昇傾向が顕著だ。ある外船社営業担当者は「日本出しでも、一定の運賃水準でないとスペースが確保しづらくなってきた」と語る。

 海上輸送の混乱を受け、航空輸送へのシフトも予想される。

 ある日系フォワーダーは「足元は欧州がクリスマス休暇で、大規模な緊急輸送需要は見込んでいないが、日本発では自動車部品などで週末にかけて緊急出荷が出る可能性はある。この状況が続けば年明け以降航空への影響は拡大するだろう」との見方を示した。

引用至《日本海事報》2023年12月21日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292203

マースク運航船 標的に。ミサイル攻撃、紅海の迂回加速か

デンマーク海運最大手のマースクが運航するコンテナ船が紅海航行中にミサイル攻撃の標的となった。米中央軍は15日、X(旧ツイッター)で同社が運航する「MAERSK GIBRALTAR」(1万100TEU型)がイエメンの親イラン武装組織フーシのミサイル攻撃対象となったと発表した。紅海を航行するコンテナ船が攻撃の標的となったことで、喜望峰経由への変更など航行を迂回(うかい)する動きが拡大しそうだ。

 フーシは9日にもイスラエル港湾に貨物を輸送する船舶を攻撃の標的に加えると宣言。船舶の航行リスクが高まっていた。

 こうした中、米軍の発表によると、14日正午ごろイエメンのフーシ支配地域から、紅海とアデン湾を隔てるバベルマンデブ海峡に向けて弾道ミサイルが発射された。

 同船は香港船籍。オマーンのサラーラからサウジアラビアのジッダに向けて航海していたとみられている。

 フーシはミサイル発射後も攻撃を続ける構えを見せたが、負傷者や船の損傷などは生じていないという。

 フーシの報道官は15日、X上で「イスラエルに向けて航行中の同コンテナ船に対する作戦を実行した」との声明を出した。

 中東情勢の悪化が続く中、コンテナ船社では安全を確保するため、紅海やアラビア海を迂回する動きも出ている。

 航海ルートについては状況に応じて判断しているようで、ある船社関係者は「イスラエルの港湾はオペレーションの遅れや受け入れ貨物制限はあるが稼働し続けている。紅海での航行をどうするかが目下の課題だ」と話す。

引用至《日本海事報》2023年12月18日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=292113

1・6万TEU型メタノール燃料の第1船は来年2月に就航する

マースク、1.6万TEUメタノール燃料船。アジア―欧州航路に投入へ

デンマーク海運最大手のマースクは7日、現在建造中のメタノール燃料に対応する大型コンテナ船のうち、第一船をアジア―欧州航路に就航させると発表した。本船の船型は1万6000TEU型で、韓国のHD現代重工業が建造。メタノールに対応した、デュアルフューエル(2元燃料)エンジンを搭載している。就航は来年2月を計画しており、MSCとのコンテナ船アライアンス「2M」で提供する「AE7/Condor」サービスに投入する。

 マースクでは9月、同社として初となるメタノール燃料対応コンテナ船「LAURA MAERSK」(2100TEU型)が竣工した。2月のメタノール燃料対応船の就航はこれに続き2隻目となる。

 新造船は来年1月末に造船所で命名される計画で、続く2隻の姉妹船についても来年前半に配船。年後半にもさらに4隻の引き渡しを受ける予定だという。

 第1船を投入する「AE7/Condor」では中国、東南アジア、中東、欧州に寄港する。

 マースクは2021年以降、グリーン燃料で運航できる新造船だけを発注する方針をとっている。このうち現在24隻のメタノール燃料対応船を発注。この内訳は1万6000TEU型が12隻、1万7000TEU型が6隻、9000TEU型が6隻となっている。

 マースクのカールステン・キルダールCCO(最高商務責任者)は「世界最大級のトレードレーンであるアジア―欧州航路に、当社の大型メタノール燃料船を初めて投入することは、ネット・ゼロ達成に向けた画期的な出来事だ」とコメントしている。

引用至《日本海事報》2023年12月11日 デイリー版3面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=291938

NXHD、海外ロジ堅調、GBHQ成果。単価下落続くも海運は回復基調

NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は22日、国際事業の7―9月期(第3四半期)業績に関するオンライン会見を開催した。海外事業は全4リージョンが減収減益。航空・海運ともに物量減、単価下落が響いたが、海運については荷動きが回復基調を見せているという。また、ロジスティクスは東アジアを除き堅調な実績を残した。昨年のグローバル事業本部(GBHQ)設置で、ロジもグローバルに横串を通したことが奏功。アパレル、消費財などで新規案件を取り込むなど成果が出ており、2024年からさらに収益に貢献する見通しだ。

NXHDグローバル事業本部の名古屋輝明事業戦略部長、日本通運の金森祥之、安藤恒夫両執行役員が、グループの国際関連事業の業績を説明した。各事業の業績は表の通り。

名古屋事業戦略部長は第3四半期の海外事業について「昨年後半から続く欧米での金利上昇による設備投資縮小や、不動産問題を抱える中国の停滞などで、総じて荷動きは低調」と説明。海上フォワーディングの数量は対前年比で微増と回復の兆しを見せたが、航空は海運回帰の動きもあり前年同期比で17・5%減だった。

第4四半期(10―12月)の見通しは「景気悪化の影響から年末商戦に向けた市況の盛り上がりは想定しにくい。販売単価は欧米が現状維持、アジアは下落傾向が続く」と見通す。

一方、ロジ関連はアパレル、日用雑貨、モビリティー関連で堅調に推移している。名古屋氏は「GBHQ設立でロジスティクスも全世界的に強化を図っている。地域・産業ごとに強弱を付け、ビジネスを伸ばすポテンシャルを捉えながら取り組んできたことが、新規事業立ち上げなどにつながっている」と説明した。

■航空、10―12月は2割減も

日本通運の航空事業では第3四半期に前年の反動減に加え、海上輸送への回帰、運賃下落が響いた。輸出の混載重量は前年同期比20%減の4万8503トンだった。

地域別では、米州向けの取り扱いは33%減った。メキシコなど一部エリアで自動車関連のスポットがあったが、半導体関連の反動減が響いた。東アジアは20%減で、中国、台湾への半導体製造装置の需要が伸び悩んだ。南アジアは14%減で、インド、インドネシアへの自動車関連が前期に続き伸長したが、マレーシア、フィリピンの重量が低調に推移した。欧州は8%減となり、ベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)や北欧向けの自動車関連のスポットがあり、マイナス幅は1桁にとどまった。

輸入件数は、10%減の9万1364件。景気減退に加え、米州、アジア発を中心に海上便へのシフトが定着したことなどが需要を押し下げた。生鮮品も出荷規模の縮小が続いた。

第4四半期の輸出は一部エリアで自動車関連が好調だが、全体では1―2割程度の減少を見込む。輸入は1割程度の減少になると予想。パナマ運河の通航制限やアマゾン川の水位低下で、海上から航空のスポットに回る貨物は発生しているが、物量増は一時的とみている。

■海運、運賃適正化への動き

海運事業の第3四半期売上高は31%減で、特に輸出が48・1%減となった。

日本発輸出NVOCC(海上利用運送事業)取扱量は前年同期比7・5%減の5万6415TEU。ただ、9月は1万9972TEUで微増と、14カ月ぶりに単月実績が前年同月を上回った。米州、東アジア向けが増加したという。前月(8月)比では17%増となった。エリア別では米州向けが5%減の9641TEU、欧州向けが8%減の5931TEU、東アジア向けが9%減の2万2444TEU、南アジア・豪州向けが7%減の1万8399TEU。

1―9月累計は11%減の17万1478TEU。第4四半期も傾向は変わらず、通年でも2桁減となる見通し。

安藤執行役員は「日本発では、適正水準への運賃修復を図るという動きが出てきている。パナマ運河の渇水問題などもあり、北米向けでは一部船社で運賃が上昇している。輸出売上高は減少しているが、粗利率は12ポイント改善しており、これは仕入れ強化に取り組んできた成果だ」と説明した。

日本着輸入NVOCC取扱量は4%減の5万3720TEUだった。

港湾運送事業の売上高は3%減の116億円。コンテナターミナルでは中国新規船社部の増収もあったが、日韓・東南アジア航路が減少した。

商船三井、SOV2隻目新造。台湾洋上風発向け、「アジア展開の布石」

商船三井は台湾合弁会社の大三商航運(TSSM社)を通じオランダ造船大手ダーメン・シップヤーズに、洋上風力発電のメンテナンス事業などに従事するサービス・オペレーション・ベッセル(SOV)を発注した。新造船はTSSM社にとって2隻目の台湾籍SOV。2025年末の竣工を予定し、台湾での洋上風力発電所の支援業務に投入される。商船三井は今回の新造プロジェクトをアジア地域でのSOV事業展開の布石とする考えだ。

商船三井とダーメンが22日までに発表した。SOV1隻の造船契約を21日、商船三井と台湾・大統海運の合弁会社TSSM社とダーメンが締結。ベトナム工場で建造する。

新造船「CSOV9020」は全長87・7メートル、全幅19・7メートル、計画喫水 5・3メートルで、最大120人を収容できる居住施設を持つ。洋上で安全に作業するため、自動船位保持装置(DPS)や船体動揺を吸収する機能を備えたギャングウエーも搭載。メタノール燃料船に改造可能なメタノールレディー仕様とする。

商船三井は昨年3月、アジア初の新造SOVとなる「TSS PIONEER」をベトナムの造船所で竣工。同船もTSSM社を通じて発注しており、デンマークの洋上風力発電大手オーステッドとの長期契約に基づき、台湾最大規模の洋上風力発電プロジェクトの保守・点検支援に投入した。

商船三井は今回の新造船で、「TSS PIONEER」で培ったSOVの操業経験を生かし、発電事業者や風車メーカー、建設事業者などに対して洋上での快適な宿泊設備を提供するとともに、本船から洋上風力発電所へ人員や物資の安全な移送を行う。

商船三井で風力発電事業などを担当する杉山正幸執行役員は「『TSS PIONEER』に加え、今回の新造SOVの操業を通じ、TSSM社の台湾でのSOVプレーヤーとしての地位を確固たるものにする。同時に、日本を含むアジア地域での商船三井のSOV事業展開の布石としたいと考えている」とコメントした。

TSSM社の林宏年董事長は「アジア初の専用SOVでの操業経験を踏まえ、グリーンエネルギー分野への貢献をさらに深めたい」とコメント。

ダーメンのアルノー・ダーメンCEO(最高経営責任者)は「数あるSOVビルダーの中から今回、商船三井・TSSM社に採用いただき光栄だ」と述べた。

邦船オペ向け長期用船満了でケープサイズの退役が本格化

マースク、7―9月期 EBITDA83%減。業績悪化で1万人削減

デンマーク海運最大手マースクの2023年7―9月期業績は、EBITDA(金利・税引き・償却前利益)が前年同期比83%減の18億7800万ドル(約2800億円)となった。主力のコンテナ輸送での需要の低迷や運賃下落が響いた。業績悪化に対応するため、同社は全従業員の1割程度に当たる1万人の人員を削減する方針を明らかにした。

7―9月期の売上高は47%減121億2900万ドル、EBIT(金利・税引き前利益)は94%減の5億3800万ドル、最終利益は94%減の5億5400万ドルと大幅な減収減益となった。

事業セグメントのうち、コンテナ船部門などで構成する「オーシャン」の売上高は56%減の78億9700万ドル、EBITDAは89%減の11億3300万ドル。取扱量は前年同期から5%増えたが、アジア―欧州、北米、中南米航路を中心に運賃が下落し、EBITは2700万ドルの赤字(前年同期は87億ドルの黒字)に転落した。

売上高に占めるEBITDA率は14・3%と、前年同期の55・1%に比べて40・8ポイント下落した。

ロジスティクス部門の「ロジスティクス&サービス(L&S)」の売上高は16%減の35億1700万ドル、EBITDAは14%減の3億3900万ドル、EBITが47%減の1億3600万ドル。物量はほぼ前年並みだったが航空運賃下落などが響いた。

ターミナル事業は売上高が11%減の9億9900万ドル、EBITDAが10%減の3億5300万ドル、EBITが24%減の2億7000万ドルだった。

■人員削減で6億ドル

通期予想については前回公表値のEBITDA95億―110億ドル、EBIT35億―50億ドルを据え置く一方、予想の下限に近い業績を見込むとした。

コロナ禍以降市況が低迷する中、同社はコスト削減を推進。年初から既に約6500人のリストラに着手しているという。

今後数カ月で最大2500人、24年にかけて3500人を削減する計画で、これにより同年までに6億ドルのコストカットを見込む。

マースクのヴィンセント・クラークCEO(最高経営責任者)は「業界は需要の低迷や過去の水準に戻った運賃、インフレ圧力など新たな状況に直面している」と指摘。「組織と業務の合理化を継続的に進めながらターミナル事業とL&S事業での成長機会を追求し、顧客の多様なサプライチェーン・ニーズを満たすという当社の戦略に引き続き専心する」とした。

(右から)福田氏、ライフォード氏、チュア氏、ヨルゲンセン氏

クラブネス・ドライ、デジタル化で市況の荒波超える。重要な運賃の決定も

ノルウェー船社トルバルド・クラブネスのシンガポール事務所に入ると、メインフロアの奥に電子海図が大きくディスプレーされていた。トルバルド・クラブネスの創業は1946年、シンガポール事務所の開設は2006年と、この歴史ある不定期船会社の名前を知らない人はいないだろう。しかし、記者がクラブネスという名前をはっきりと意識するようになったのは、18年10月にミカエル・ヨルゲンセン氏が来日し、クラブネス・デジタルについて取材したときだ。そのとき、記者はこう感じた。「不定期船ビジネスにデジタルは必要なのか?」。あれから5年、当時の疑問は大きく変わった。海運にデジタルは欠かせない―。(山本裕史)

■ドライ船社の自負
 「クラブネスは、持ち株会社の傘下にクラブネス・コンビネーション・キャリアーズ(KCC)、クラブネス・ドライ、クラブネス・デジタルを擁する。シンガポールの社員は、クラブネス・ドライの中で三つの主要事業に注力している。プール、マーケット・マネジャー、そしてクラブネス・チャータリングだ」

 5年ぶりに再会したドライ部門長のミカエル・ヨルゲンセン上級副社長は、シンガポール事務所の役割についてこう説明した。

 クラブネス・ドライは、パナマックスを中心に太平洋とインド洋の用船とフォワーディングを担当している。

 「用船はクラブネス・ドライにとって非常に重要な仕事だ。どのタイミングで船舶を使用し、どのように効率的に貨物を輸送するかが重要だからである」

 用船を担当する太平洋C&T部門副社長のアイヴァン・ライフォード氏は、クラブネス・ドライの用船活動について次のように説明する。

 「クラブネス・ドライの用船事業は、『海運の本質を改善する』というグループのビジョンに基づき、75年にわたる経験とその過程で得た豊富な知識を生かし、年間約450隻の船舶を用船している。われわれは市場の中だけで仕事をするのではなく、24時間365日体制でサービスを提供している」

 われわれは市場の中だけで仕事をしているわけではない―。

 ライフォード氏のこの言葉はどういう意味なのか?

 ヨルゲンセン氏が説明する。

 「例えば、当社は20年には日本の大手商社である丸紅とパナマックスに特化したプールオペレーションを開始した。ドライマーケットは常に不安定である。例えば市場が上昇するとみれば、われわれは船主に電話する。それは相場が下がる前に、向こう3カ月間の用船料を固定したいかと聞きたいからだ。そんなことをするプール・マネジャーはほとんどいない。しかし、われわれは常にオーナーと共にプールを発展させたいと考えている。だから、このような形でコミュニケーションを取っているのだ」。

 丸紅船舶部とクラブネス・ドライは、3年間のパートナーシップを成功させた後、クラブネス・ドライへの丸紅の出資比率を25%に引き上げるなど、協力関係を強めている。

■デジタルは海運の未来
 クラブネス・ドライのもう一つの「武器」は、海運へのデジタル・アプローチである。

 海運業界がデジタル化とまだ距離を置いていた15年、クラブネスは同社の戦略文書でこう述べている。

 「デジタルは海運の未来だ。デジタルは今後、海運にどのような影響を与えるのか」

 ヨルゲンセン氏が話す。

 「最初の3―4年間は、デジタルが何を意味するのかよく分かっていなかった。しかし、15年にデジタルの種がまかれ、7―8年たった今、私たちはその果実を収穫する時期に入ったのだ」

 市場で利用可能なデジタルツールは、航路を最適化し、船舶の位置や針路などの衛星データを一目で把握できるようにするだけではない。

 同社は二つのサービスを提供している。「カーゴ・バリュー」は、産業界の顧客向けに在庫と出庫のクラス最高の管理を行うもので、「マーケット・マネジャー」は、船主、用船者、貿易業者、オペレーター向けに最適化された運賃決定を行うものである。

 ヨルゲンセン氏は次のように説明する。

 「18年に日本に行った際、各オペレーターに説明をした。例えば、石炭火力発電所は、石炭の在庫と消費量、船舶による供給量を管理する必要がある。カーゴ・バリューを利用すれば、海上輸送を最適に計画し、在庫レベルを適切なレベルに調整することができる。現在では貨物面だけでなく、マーケット・マネジャーを通じて重要な運賃の決定も行っている」

 クラブネスは世界の不定期船会社の中で最も先進的なデジタル化について、15年時点で既に開始していた。

 同時に、ヨルゲンセン氏は同僚とのコミュニケーションの重要性についても語る。

 「クラブネス・ドライの仲間であるマーケット・マネジャーのハルキ・チュア氏や、丸紅に勤務するシニアマーケティングマネジャーの福田大輔氏の意見に耳を傾けるようにしている。時には聞きたくない意見もある。そういう意見も大事だと思う。誰もがプロフェッショナルを自覚している。だから、同僚が自由に意見を言える雰囲気を作るのが私の仕事だと思っている」

 デジタルスキルとコミュニケーションスキル―。

 次世代の海運会社に求められる重要な要素は何か。クラブネス・シンガポールのオフィスへの取材はその一端を感じる契機となった。

引用至《日本海事報》2023年10月30日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290943

スエズ運河

スエズ運河、通航料 来年1月値上げ。5―15%。一部コンテナ船は除外

スエズ運河庁(SCA)は先週発表した声明の中で、船舶の通航料を5―15%引き上げることを決定した。適用は2024年1月15日から。タンカー、ドライバルク船などほぼ全船種が対象になる。欧州北西部から直接極東に向かうコンテナ船は値上げの対象にならないとしている。

 エジプト政府にとって、スエズ運河通航料は外貨収入源の重要な手段の一つである。

 スエズ運河は23年初めから値上げを実施した。同国政府によると「(スエズ運河通航料の値上げにより)7億ドル(約1000億円)の収入増になる」と説明していた。

 エジプトは貿易収支の赤字幅が縮小しているものの、依然として外貨収入獲得としてスエズ運河の重要性を指摘している。

 24年1月15日以降の値上げで15%増加するのは、原油、石油製品、液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、化学物質(ケミカル)、その他の液体物質を輸送するタンカー、コンテナ船、自動車船、旅客船、特殊浮体式ユニットなどの各船舶。

 SCAによると、ドライバルク貨物船、一般貨物船、RORO船、その他については、通常の通航料が5%値上げされる。

 ただし、北西欧州港から直接来て、極東港に直接向かうコンテナ船は、23年通達8に規定されているように、上記の増加が免除される。

 スエズ運河庁は23年初めからの通航料値上げに関する方針ついて、オサマ・ラビー長官が船舶会社の収益力(運賃)向上が最大の理由と説明した。

 コンテナ船、原油タンカーなどの用船料が上昇し、世界的に海運各社の業績が好調であることにも触れた。

 原油価格の高値基調が続く中、他の代替ルートと比べて、スエズ運河を通る場合の効率性を強調していた。

 今回の値上げのその目的について、当局から具体的な説明の言及はない。燃料費の高騰が続く中、スエズ運河の優位性を強調し、外貨獲得につなげる思惑があるとみられる。

引用至《日本海事報》2023年10月24日 デイリー版1面
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=290794

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