(1)造船 危機が促す再編。5年で黄信号? 設計連携か

日本の海事・物流業界が、深刻さを増す人手不足に陸・海・空で挑んでいる。造船業は大幅な賃上げなどの対策を加速する一方、危機を引き金に再編機運が再燃。物流分野では港湾、空港、倉庫の各現場で、職場環境改善や生産性向上への取り組みが進む。海運は内航分野で船員の高齢化と働き方改革への対応が焦眉の急となり、外航各社は脱炭素化に向け新燃料船の船員育成を急ぐ。本紙では人材確保に向けた各業界の動きを連載で追う。第1回は造船業界。

「造船現場の人手不足は猛烈なスピードで進む。徐々に深刻化して10年後に難局を迎える、という悠長な話では決してない。直ちに手を打たなければ、5年以内に行き詰まる可能性すらある」

昨年末の自民党外国人労働者等特別委員会。人手不足の現状に関する各産業のヒアリングに、造船業を代表して参加した国内造船所の経営者が危機感をあらわにした。

一連の議論の中で例えば農業では、従事者数が2030年には、現在の約120万人から30万人近くまで激減する可能性が示されたという。平均年齢が70歳に達する現従事者のリタイアが急速に進む一方、15―64歳の生産年齢人口が減る中で新たな人材の確保は容易ではない。

造船所経営者が続ける。

「造船業もベテラン工員の退職が進み、若手の採用は難航している。平均年齢は農業よりはるかに低いが、基本的に同じ構図だ。今動かなければ早晩、同じ道をたどることになる」

ある日本造船所はこうした状況を反映し、自社の現在の建造能力を100とした場合、それを維持できるのはたったの5年先、29年までと想定。次の5年(30―34年)は「うまくいって80、下手をすれば70を切る水準まで落ち込む」と試算する。

別の造船所経営者が厳しい表情で同意する。

「十分あり得る。数字は各社で変わるが、同じ懸念を持っている」

■TSMCと競合

国内造船各社は、受注低迷で操業を落とした10年代後半の造船不況下で人材が流出した。

人手が戻らない中で造船所の再稼働が昨年あった北部九州や瀬戸内では、造船会社間の人材獲得競争が激化。

半導体世界大手・台湾積体電路製造(TSMC)の熊本の新工場など好条件の異業種との競合もあり、人員確保が特に難航している。

コロナ禍で大幅に減った外国人技能者も、円安の逆風もあり従来の陣容には戻っていない。

さらに現場を支える協力工が、大阪万博の建設関連など異業種の需要に引っ張られ、全国的に十分に確保できなくなりつつある。

「造船以外の製造業に人員を奪われている影響が足元では大きい」(国内造船所経営者)

北部九州に工場を構える複数の造船所関係者が名前を挙げるのが、半導体受託生産世界最大手のTSMCだ。

同社は熊本県菊陽町で24年末に巨大工場を本格稼働させる計画で、その立ち上げ人材の採用を進めている。

「TSMCは最新鋭工場の労働環境の良さをPRしつつ、破格の初任給28万円を提示し、優秀な学生の〝青田買い〟を行っている。その条件で若手が大量に採用されれば、地元産業は壊滅的なダメージを受ける。人材が集まらないどころか辞めていってしまう」(九州に工場を持つ造船所関係者)

造船大手の工場立地が集中する北部九州では、半導体産業の集積が加速。TSMCに限らず、造船現場から技術者が同産業に転職してしまう事例が複数社で出ている。

■月3万円賃上げ

造船所も手をこまねいていたわけではない。各社は人材確保へ踏み込んだ対策を進めている。

その柱が、従業員の給与の引き上げだ。

ある国内造船所の経営者が明かす。

「当社では22年度、全社員の給与を一律で月額3万円引き上げた。そのくらいやらないと造船業が、若者の就職先として検討の俎上(そじょう)にすら載らなくなる。以降、離職はピタリと止まった」

同社は今期も月額1万円規模のベースアップを検討しており、大卒初任給の目標額を最低25万円に設定。22年度には外国人技能者も6―7%昇給させ、協力会社の時間単価も引き上げた。

他の大手造船所もそろってほぼ同時期から大幅な賃上げに動いている。各社は給与の引き上げ、労働環境の改善、造船業の魅力発信を三本柱に対策を強化している。

■新分野が呼び水

「人手不足の深刻化が、日本造船所間の連携を促すのは確実だ。人員の手当てが難しくなる中で、艤装期間が長くなる新燃料船の建造が今後増えるなら、協調領域を増やすしかない」

造船各社とつながりが深い邦船関係者が鋭く指摘した。

人手不足という共通の危機を乗り切り、中国・韓国のメガヤードに対抗していくには、日本造船所のさらなる連携・再編が必要ではないか―。

国内造船所関係者の間で実際、こうした議論が熱を帯びている。

「少なくとも船型開発・船体設計については、日本造船業全体で集約を進めるべきだ。人手不足が加速する中、環境規制発効のたび、各社が設計人材と開発費用を投じ、類似のデザインを開発する従来のやり方では限界が来る」(国内造船所経営者)

中小型バルカーなど各社が主力として独自に技術・知見を蓄積している分野では、設計を共通化するハードルは高い。

一方、例えば液化CO2(二酸化炭素)輸送船や浮体式原子力発電バージなどの新規分野であれば、連携して標準船型を開発するメリットを各社が大きく得られる可能性がある。

新規分野での協業を呼び水に、日本造船所同士が設計分野で連携を探る。今、その機運が再び高まっている。

 

引用至《日本海事報》 2024年03月25日デイリー版1面

ホンジュラス、パナマ運河を陸路で代替。「ドライキャナル」構想に政府本腰

中米ホンジュラスで、パナマ運河を陸路で代替する「ドライキャナル」構想が加速しそうだ。昨年末、カストロ大統領が開発に本腰を入れると表明した。パナマ運河の混雑がアジア―欧米間の貿易停滞を招いていることから、米国政府なども協力を表明。日本も政府開発援助(ODA)や民間企業の参画による開発支援が視野に入る。同構想のキーマン、中原淳・駐ホンジュラス日本国大使に聞いた。

同構想は2010年代後半に立ち上がったもので、ルートは地図の通り。主に、アジアから欧米に向かうコンテナ貨物を、太平洋側に位置するアマパラ港でトレーラーに積み替えて陸路で北上。大西洋側のコルテス港で再びコンテナ船に積み込む構想だ。昨年12月にカストロ大統領が重要事業に位置付け、年初には開発に向けた特別委員会を立ち上げた。

JICA(国際協力機構)などの調査によれば、上海―米サバンナ間のコンテナ輸送でドライキャナルを利用した場合、混雑中のパナマ運河と比べて輸送日数を24日ほどに半減できる。コストは余計にかかるが、パナマ運河は混雑解消の手だてに乏しく、既に高騰している通航費がさらに上昇する可能性が高い。

地図で示したルートの9割方は完成済み。大西洋側のコルテス港はもともと、中米有数の港湾に数えられ、同国を縦断する約300キロメートルの幹線道路は21年末に完成して供用を開始している。太平洋側の近島・ティグレ島に整備するアマパラ港と、同島にアクセスする2キロメートルほどの橋の建設が残る。21年の政権交代後、構想全体が滞っていた。

■米など強力支援

ホンジュラス現政権に近い中原大使は、「ドライキャナルは前政権の政策のため、現政府が積極的に進めづらかったが、パナマ運河の混雑悪化で潮目が変わった。米国が本気で支援に乗り出そうとしていることも大きい」と説明する。既に米国や韓国、スペインが数億円単位の調査費の拠出を表明しているほか、近年、関係が近づく中国も触手を伸ばす。米国は南北を縦断する鉄道の敷設計画もほのめかしている。

中原大使は元国土交通省のキャリア官僚として国土政策局長などを歴任。21年からホンジュラスに大使として駐在し、ドライキャナル構想の再開を現政府に働き掛けてきた。豊富な法整備の経験から道路行政に明るく、実質的な筆頭閣僚で大統領の長男、エクトル・セラヤ秘書官の信頼が厚い。「パナマ運河の混雑は、日本をはじめアジア貿易の成長にとっても深刻な懸念材料だ。日本政府もバックアップしてくれている」(中原大使)

中原氏は、港湾や橋梁の開発は早ければ3年後にも着手し、10年以内の供用開始を見込む。アマパラ港が位置するフォンセカ湾は水深が深く、大型コンテナ船が接岸できる水深20メートル級の港湾を開発できる点も強みだ。米大陸は大深水港が少なく、コンテナ船の大型化への対応が遅れている。

港湾・橋梁の開発には1000億円ほどかかると見られ、各国政府の支援と民間資金を組み合わせた開発が想定される。「特に橋梁建設では日本企業の技術が生きる。コンセッション(民間への運営委託)方式などで民間企業が投資回収しやすい仕組み作りを促していく。完成後に日本の船社や物流会社が利用しやすいよう、一定の発言権を持つためにも日本の官民の投資が必要だ」(中原氏)

 

引用至《日本海事報》2024年03月21日デイリー版1面

BIMCO事務総長兼CEO デビッド・ルースリー氏。解撤条約発効、矛盾解決を

紅海におけるイエメンの親イラン武装組織フーシ派による船舶攻撃で航路変更を余儀なくされるなど、混乱する海上輸送。一方、2050年カーボンニュートラル実現に向け、環境規制の動向についても注目が集まる。転換期にある業界の課題と展望について、国際海運団体BIMCO(ボルチック国際海運協議会)のデビッド・ルースリー事務総長兼CEO(最高経営責任者)に聞いた。(聞き手 神頭久)

――紅海危機により、緊迫状況が続く。

「昨年12月と今年1月に、フーシ派による商船への攻撃に対し非難声明を出した。2月には拘束されている船員の解放を求める声明を発表した。船員の安全が脅かされ、海上貿易が混乱している。船員と国際海運を守るためにこの地域に軍艦を派遣する国々に感謝するとともに、脅威緩和へのあらゆる対策を支持する」

――BIMCOは用船契約書の標準書式において戦争危険条項の「VOYWAR」と「CONWARTIME」の改定を計画している。

「VOYWARとCONWARTIMEの最終更新は13年だが、これらが目的に適合しているかを確認するための分科会を設立し、更新の必要な箇所について検討している。今月開催されるBIMCO文書委員会(DC)では、これらが議題となる予定だ。分科会の修正案をDCで議論し、今秋または来春ごろに新しい条項を発表する予定だ」

■EU域外にも必要

――シップリサイクル条約が25年6月から発効する。EU(欧州連合)が承認する解撤ヤードのリストだけで需要を満たせるか。

「22年10月にわれわれが発表した、解撤ヤードのリストに関する報告書では、これらの施設だけでは需要に対応するためのキャパシティーを満たせないと示した。基準を満たすEU域外のヤードを追加する方向にシフトする必要がある。解撤場所が集まるインド、バングラデシュ、パキスタンなどのヤードはまだEUのリストに含まれていないが、これらの多くのヤードが改善に向けて多大な努力をしている」

「同条約の発効は、シップリサイクル産業にとって新たな時代の幕開けとなる。同条約とバーゼル条約間の法的矛盾が、この歴史的な機会を妨げてはならない。われわれは第81回海洋環境保護委員会(MEPC81)に先立ち、国際海事機関(IMO)に対し、これらの解決を求める文書を提出した。条約間の矛盾は、船主、解撤ヤード、船舶に重大な影響を及ぼす」

■最初の格付け注視

――CII(燃費実績格付け制度)へのレビュー・グループが設置された。寄せられたフィードバックは。

「レビュー・グループで二つのアンケートを実施した。現在、多くの関係者は、EU排出量取引制度(EU―ETS)の実務的・商業的な体制を整えることに専念しているようだ。第1回調査の結果、定期用船契約用CII条項は、さまざまな度合いで受け入れられていることが明らかになった。CIIに関する交渉の出発点として役立っており、一部の用船契約では修正の有無にかかわらず合意されている。用船者と船主のコンセンサスを得ることは、規制の枠組み上容易ではないが、春には最初の格付けが発表されるため、引き続き注視する」

――船舶からの水中放射騒音(URN)へのIMOのガイドラインについて。

「われわれは最近、サウサンプトン大学が実施したURNの研究の論文に、ICS(国際海運会議所)、INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)、IPTA(国際区画タンカー協会)と協賛した。論文では、URNレベルを下げる潜在的要因として、エネルギー効率対策を挙げている。このため脱炭素化は、水中の騒音レベルを大幅に減少することに寄与する可能性がある。船舶により優れた技術を導入するとともに、分析力とデータの可用性を高め、運航速度を下げることでURNが改善することが期待されている」

――海事法や契約への独自の研修プログラムについて。

「今後数年間で、われわれは日本を含むアジアでのトレーニングを拡大していく。地域のオフィスから直接トレーニングセッションを実施することができるよう、新たなパートナーシップを構築する。オンライントレーニングの受け入れが拡大していることで、アジアのさまざまな国や日本からも参加者が集まっている。オンライントレーニングは、これらを提供するために実用的な方法であると考えている」

――業界関係者へ向けたメッセージは。

「世界の業界関係者には、運航の効率化に対し可能な限り早急な対策を講じることを望む。脱炭素化を目指す上で、効率の向上はGHG(温室効果ガス)排出量を滞りなく削減できる。これまでの速く航走し目的港近辺で待機する『Sail Fast, Then Wait(SFTW)』という一般商船の慣習を見直し、航海計画を改善するための海事シングルウインドーの導入を推奨する。船舶の目的地到着の最適日時を通知する統合システム『ブルー・ビスビー・ソリューション』では排出量を15%削減できる」

「国際海運は、GHG排出量を40年までに70%以上削減し、50年にはネットゼロを達成するという課題に直面している。早急な排出量削減に向け、効率化を加速させる必要があり、われわれはこれを支援する。効率化により、海運業界は足元でのメリットだけでなく、より高価な代替燃料に移行された将来、大きな報いを受けることができるだろう」

 

 

引用至《日本海事報》2024年03月18日デイリー版1面

マースクゼロカーボンシッピング研究所CTO トーベン・ノルガールド氏、代替燃料 LCAで評価を

日本企業を含む海運業界の主要プレーヤーが参画するマースクゼロカーボンシッピング研究所(MMMCZCS)は代替燃料などの研究開発を通じ、海運業界の脱炭素化に取り組んでいる。13―15日の3日間、シンガポールで開催される国際海事展「アジア・パシフィック・マリタイム」(APM)では、MMMCZCSのトーベン・ノルガールド最高技術責任者(CTO)が基調パネルに登壇。海運業界のネットゼロ達成に向けて議論を行う予定だ。ノルガールドCTOに話を聞いた。(神頭久)

■代替燃料の課題
 ――船舶の脱炭素における代替燃料について。それぞれのメリットと課題は。

 「現在、船舶向けの代替燃料はアンモニア、メタン、メタノール、バイオ燃料などだ。メタンはLNG(液化天然ガス)のインフラが使用できる点で素晴らしい選択肢だが、温室効果が高いメタンスリップ(未燃焼メタンの漏えい排出)は考慮すべき点だ」

 「メタノールは、技術面での利用可能性が高く、準備も進み、導入することは容易だ。下流への投資は進む一方、上流への投資を集めることが課題だ」

 「アンモニアは上流への投資が成熟しつつある。船舶での導入には下流への投資が必要だ。新たな設計、エンジン、乗組員の訓練、船舶への新しい安全基準が必要だ」

 「バイオ燃料は、重油と同じインフラで導入でき、費用対効果に優れるが、長期的かつ持続可能な生産への準備が課題だ。廃棄物や残留物を原料とする第2世代のバイオ燃料が求められている。これには高温ガス化の技術が必要だが、商業利用可能な規模のものはない。これらの技術が市場に参入するには、時間がかかりそうだ」

 「これらの代替燃料では、完全な脱炭素化のために市場全体をカバーすることができず、全て並行して稼働する必要があると考える」

■業界標準が必要
 ――海運業界での代替燃料のLCA(ライフサイクルアセスメント)を標準化することの重要性は。

 「LCAの方法論は、(船舶での消費時・輸送時だけでなく)燃料の生産、消費、輸送、取り扱いに関連するGHG(温室効果ガス)排出を網羅するバリューチェーン全体への評価を確立することだ。さまざまな燃料経路(Fuel Pathway、原料、生産工程・燃料の種類など)にまたがるLCAにより、排出量の観点から、完全な燃料および燃料経路を、そうでないものと区別することができる」

■漏えい排出考慮
 ――LCAへのMMMCZCS独自のアプローチについて。IMO(国際海事機関)が定めたガイドラインとの関係は。

 「MMMCZCSのLCAでは、漏えい排出の要素を考慮する。燃焼に伴う排出ではなく、プロセス全体を通しての漏出だ。メタンを低排出燃料として機能させるためには、LCAにおいてメタンスリップをどのように考慮するかを検討し、これらに関する健全な運用原則を確立する必要がある」

 「われわれのLCAの手法は、一般的な算定原則を使用する他の基準と同等だが、海運特有の要件に焦点を当て、IMOのガイドラインが実装する内容に幾つかの条件を追加している。漏えい排出の分野と個々の燃料経路について、より踏み込む。われわれの方法論は、5―10年の視点で学習を成熟させるため、IMOのガイドラインの開発ビジョンと見ることができる」

 ――25年1月発効予定のFuelEU Maritimeに関して、国際海運の準備状況と課題は。

 「この規制の具体的に実施についてはまだ多くの学習が必要だ。代替燃料の普及を促すため、罰金制度を含めた燃料基準の施行が開始される。ペナルティーが課されることもあるが、投資と移行を促進する賢明な手段として、われわれはそれを前向きに捉えている」

 「APMでは、海事産業へのカーボンニュートラル移行に向け、世界的な合意や排出基準などに加え、これらの規制の潜在的な影響について議論する予定だ」

■「全体知識」統合
 ――MMMCZCSに参画するメリットは。

 「当センターとの提携により、業界の最前線でカーボンニュートラルへの移行を加速できる。われわれはバリューチェーンにおける24社の戦略的パートナーを擁する。パートナーとは非常にユニークな方法で提携し、われわれが財団からの助成金に基づいた独自のリソースを展開することができる一方、戦略的パートナーは機密情報やデータにアクセスできる」

 「各パートナーのスペシャリストが当センターに出向し、われわれの教育下で業務を行うことで、燃料生産、輸送、港湾、燃料補給、荷主、船級協会に至るバリューチェーン全体の知識を統合する能力が得られる」

 「当センターはこれらの出向者を、脱炭素化への移行を促進するリーダーとしてそれぞれの組織に戻すことが脱炭素化を推進するための重要な要素であると考える」

■日本の役割期待
 ――日本のパートナーや協力者に向けて。

 「日本が海運の脱炭素推進に重要な役割を果たすのは素晴らしいことだ。セクターの相乗効果に着目すると、日本の海事産業のみならず、日本の社会全体が地元の発電所産業を通じたアンモニア利用を推進していることが分かる」

 「アンモニア燃料の輸送レーンとして機能する最初のグリーン海運回廊を確立することは、海事産業にとって主要な焦点の一つになるだろう。燃料としてのアンモニアの実証だけでなく、シンガポールのように、これらの燃料や輸送の将来的な中心地として機能することを期待する」

引用至《日本海事報》2024年03月12日 デイリー版1面

住友商事、船舶海洋に積極投資。洋上風力 重点強化。重量物船保有へ

住友商事は船舶海洋事業への投資を積極化する方針だ。現在の船舶事業部を4月1日付で「船舶海洋SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)」に改編。昨秋新設した「海洋事業開発チーム」を推進役に、洋上風力発電分野を重点的に強化する。保有船事業ではその一環で、重量物船など洋上風力関連船を船種のポートフォリオに加えていく。中小型バルカーへの投資も再開し、近年の売船でスリム化した保有船隊の拡大を狙う。

 4月1日付で船舶海洋SBU長に就く豊田高徳船舶事業部長が日本海事新聞の取材に応じ、新体制での事業戦略について「船舶トレード事業と造船事業、保有船事業が柱であることは今の船舶事業部と変わらないが、今後は組織名に冠された通り、洋上風力分野を軸に海洋事業も強化していく」との方針を明らかにした。

 その背景に関し、「足元では0・4%に過ぎない世界の発電量に占める洋上風力の割合は、2050年ごろに10%程度まで拡大する可能性があるとも言われている」と、急成長市場の潜在性に言及。

 その上で「船舶用の新燃料についても今後、運航時のCO2(二酸化炭素)排出削減のみならず、製造時にCO2を排出しない再生可能エネルギー由来のグリーン燃料でいかにつくれるか、に焦点が当たるだろう。洋上風力は中長期的に、舶用グリーン燃料を製造するためのグリーン電力としても需要が相当高まるとみており、周辺事業の開発に注力する」と語った。

 船舶事業部は新規事業開発の一環で昨年8月、部内に「海洋事業開発チーム」を新たに設置。着床式洋上風車の基礎部分であるモノパイルや風車を構成するブレード・ナセルなど、洋上風力関連貨物の輸送に対応する重量物船や風力建設支援船などの保有・参画に加えて、浮体式洋上風力の浮体基礎構造物の製造販売および関連サプライチェーンの構築も視野に入れ、洋上風力分野の事業開発を重点的に進めている。

 豊田事業部長は保有船事業については「船種のポートフォリオにマーケット船とは性質の異なる洋上風力関連船を組み入れていくとともに、中小型バルカーの代替新造も再開し、投資拡大に舵を切る」と明言した。

 保有船隊の規模に関しては「隻数の目標は設けないが、市況を見ながら全社の投資基準をクリアする良質なアセットを積み上げていき、短中期的に現在の倍程度にはしたい」との考えを示した。

 住商はここ数年、高齢船の売却を進めた結果、ピーク時に30隻規模を擁していた保有船隊が現在では半数程度にスリム化している。新造船価が高止まりする中、新たな船の仕込みは簡単ではないが、今後は長期的な視点に基づき、中小型バルカーなどマーケット船隊の入れ替えも進める。「保有船事業は今後、再拡大モードに入るということだ」(豊田事業部長)

 住商は4月1日付で、従来の「事業部門」と傘下の「本部」「部」を廃止し、新たに九つの「グループ」と「SBU」「ユニット」を設置する機構改正を実施。従来の「リース・船舶・航空宇宙事業本部」の「船舶事業部」は、「輸送機・建機グループ」の「船舶海洋SBU」となる。

 同社は各SBUについて、「注力事業」「シーディング」「バリューアップ事業」「バリュー実現」の4象限に分類。高い収益性が見込める「注力事業」に重点投資し、アセットの積み増しなどを行う計画。

 住商は21年4月、トレーディング(新造船、中古船、用船の仲介)事業を100%子会社の住商マリン(東井直彦社長)に移管。本体の船舶事業部は新規事業の開発に集中するとともに、トレーディングと並ぶ船舶部門の中核である保有船事業を、子会社の主管業務を通じて手掛けている。

引用至《日本海事報》2024年03月11日 デイリー版1面

三菱重工機械システム、完成車を自動搬送。三河港で実証実験

【中部】三菱重工業(MHI)グループの三菱重工機械システム(MHI―MS)は2月5日から今月1日まで、愛知県の三河港蒲郡地区で、屋外で自律走行する電動の車両搬送ロボットを使った完成車自動搬送の実証実験を行った。港湾における完成車輸送の効率化やデジタル化を図る取り組みで、労働環境の改善や人手不足への対応、カーボンニュートラルポート(CNP)への貢献を目指す。

MHIとMHI―MSは2021年、仏ベンチャー企業スタンレーロボティクス(SR)と、自動車の自動バレーパーキング(駐車スペースまでの往復と駐車を自動で行うサービス)や完成車自動搬送を実現する自動搬送ロボット事業を共同展開することで合意。SRの自動搬送ロボットと、MHIグループの無人システム監視・管理などの技術を組み合わせたサービスの展開を目指している。

自動搬送ロボットは制御用のGPS(衛星利用測位システム)と高性能センサーLiDAR、監視用のカメラを備え、Wi―Fi通信により管理する。伸縮・昇降プラットフォームを車両下部に差し入れた後、プライヤーが四輪をつかんで持ち上げ、ヘッド側の360度回転するタイヤをモーターで駆動して搬送する。最大時速10キロメートル、最大搬送可能重量2・6トンで、充電ドックで自動充電し、夜間や雨天時も使用できる。

実証実験では、自動搬送ロボット2台を用いて、車両2台を並行して入庫・出庫した。ドライバーからロボットへの車両受け渡しエリア、車両保管エリア、仮置きエリアに分け、事前にデジタルマップで作成した入出庫の経路データを読み込ませて搬送した。

制御スペースはパソコンやサーバー類、アンテナを設置し、モニターで監視するほか、ロケーション管理やロボットへの指示を行う。システムは既設の詰め所などにも設置でき、サーバー1台でロボット10台まで制御が可能。現時点で車両情報を管理するRFID(無線タグ)の読み取り作業が必要だが、将来的には受け渡しの自動化も視野に入れる。

具体的な用途はモータープールやターミナルでの完成車の搬送・並び替え、船積み準備、キャリアカー積載準備などを想定する。勾配・段差の走行や通信環境、マッピングの課題があり船積みは想定していない。

実証実験は愛知県の「2023年度新あいち創造研究開発補助金」を活用し、完成車の取り扱いが多い三河港蒲郡地区で行った。期間中には国や自治体、海運・港運事業者、自動車メーカーなどが見学に訪れ、大きな注目を集めたという。

電動ロボットによる自動搬送についてMHI―MSの担当者は「カーボンニュートラルや人手不足などの課題解決に向けた手段になる」と意義を強調。「ドイツの完成車一時保管用モータープールで1年以上前から実際のオペレーションに導入されている。来年度は日本でも完成車用モータープールで、実際のオペレーションを想定した実証実験を進めたい」と話す。

 

 

引用至《日本海事報》2024年03月06日デイリー版1面

サステナブル・シッピング・イニシアチブ部門長 エリザベス・プティ・ゴンザレス氏、アンドレア・ミュー氏。脱炭素鉄鋼で循環型事業へ

3月13―15日、シンガポールで行われる国際海事展「アジア・パシフィック・マリタイム」(APM)。同展は隔年開催で、企業・団体による展示のほか、海事業界が直面する諸課題に対し、関係者らが議論するさまざまなセッションから構成される。これらに登壇予定の、海運業の持続可能性の推進を目的とした国際的なイニシアチブ「サステナブル・シッピング・イニシアチブ」(SSI)のエリザベス・プティ・ゴンザレス部門長(パートナーシップ担当)とアンドレア・ミュー部門長(脱炭素担当)にSSIの取り組みについて聞いた。(神頭久)

――SSIの主要な取り組み、プロジェクト概要は。

「われわれの活動は、海洋、地域社会、人々、透明性、金融、エネルギー―の六つの鍵となる領域を基に策定した『持続可能な海運産業へのロードマップ』に基づく。海運における持続可能性の実現に向け、体系的な見解の下にこれらを推進する」

「直近の3年間では、寿命を終えた船舶の鉄スクラップ、船員の福利厚生、持続可能な船舶燃料、グリーン輸送回廊などのトピックに取り組んでいる」

「鉄スクラップに関しては、利用の最適化のみにとどまらず、グリーンスチール(GHG〈温室効果ガス〉の排出が少ない手法で生産された鉄鋼)の需要部門として機能させ、同時にスコープ3(自社以外のGHG排出量)を削減することで、海運産業の循環型ビジネスモデルへの移行を推進する」

「船員の権利、福利厚生については、船主、運航会社、用船者が、これらの達成度合いを把握できる行動規範および自己評価アンケートの作成を行う」

「船舶燃料の持続可能性については、コスト、供給力、実現可能性に加え、環境、社会、社会経済的基準を基に、燃料に関する議論において考慮すべき15の項目を明らかにすることができた」

「グリーン輸送回廊に関しては、回廊がもたらす社会経済的な利益について、マースクゼロカーボンシッピング研究所(MMMCZCS)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)と共同で出版物を発行した。これらの将来性について焦点を当てながら、公正かつ公平な回廊への移行を実証している」

「APMでは、これらの回廊の発展と成功のために、政策と規制の円滑化、技術統合、利害関係者間の協力の必要性について、業界関係者と意見を交わす予定だ」

■日本が重要な役割

――SSIのメンバーになることで創出される価値と、日本のメンバーのメリットは。

「日本の海事産業は国家にとって重要な分野であると同時に、国際貿易の原動力となっている。造船業界の先導者として、日本は高度な技術と高品質な船舶の建造力で知られている。デジタライゼーションにおいては、イノベーションの最前線に位置し、今後数年間は業界における重要な役割を担うだろう」

「日本の企業やステークホルダーがSSIのメンバーとして参加することで、船主、運航会社、用船者、港湾、NGO(非政府組織)など、海事関係者の多様なネットワークとのつながりを通し、イノベーションとコラボレーションを加速させることができるメリットがある。SSIのメンバーは、シンガポール、英国、デンマーク、ドイツ、カナダなどを拠点に、知識の共有と協力のための国際的なコミュニティーを形成している」

■CO2・7億トン削減

――グリーンスチールの採用は、海運業界にどのような影響を与えるか。

「鉄鋼は船舶の重量の75%以上を占め、最も主要な材料だ。しかし、鉄鋼の生産は大量のCO2(二酸化炭素)を排出し、海運業界のスコープ3の主な要因にもなる。船舶燃料など、運航に関わる排出量削減の取り組みに続き、鉄鋼生産におけるCO2削減も脱炭素化への取り組みにおいて焦点となる」

「海運業は鉄鋼の需要部門であるとともに、鉄スクラップの供給部門でもある。鉄スクラップは、鉄鋼の生産において重要な材料でもあり、鉄鋼部門の脱炭素化戦略の一つだ」

「グリーンスチールを採用することで、体化排出量を削減し、海運のスコープ3を削減できるほか、グリーンスチールの鉄スクラップが高価格で取引される見通しから、廃船となった船舶の価値が高まることも期待される。一次資源の採取量が削減できることで、自然景観や生息地の保全、生物多様性の保護にもつながる」

「英船級協会ロイド・レジスターの脱炭素ハブと、英海事系コンサルティング機関UMASによる最近の分析では、国際海運がグリーンスチールを段階的に採用することで、2024年から50年の間に7億7600万トンのCO2累積排出量を削減できることが示された」

「マースクなど一部の海運会社は、すでにグリーンスチールを利用可能にするよう求めている。今治造船からもグリーンスチールを使用した新造船が製造されたことが昨年話題となった。このグリーンスチールは質量バランス法を用いて生産された」

「将来、グリーンスチールに興味を示す造船所や、ゼロエミッション船のみならずグリーンスチールを採用した船舶に関心を持つ船主が増えることを期待している」

「APMでは、グリーンスチールの利用による船舶建造時の排出量削減と、海運業における循環型のビジネスモデルの達成に向け、立ちはだかるさまざまな障壁について掘り下げる予定だ」

「日本は鋼鉄、造船、船主業など全ての分野において重要な国であり、このトピックにおいて大きな影響力を持つ。日本企業と協力し、知識を共有し、将来の船舶にグリーンスチールの普及が実現することを願っている」

――25年6月から発効するシップリサイクル条約について。

「同条約は、船舶にインベントリー(IHM)の保持を義務付けている。IHMは、船舶の構造物や部品に含まれる危険物質のリストを記録した文書であり、船舶の寿命が始まってから解体されるまで保持されなければならない」

「これは、船主、取引場所に関係なく保持することが求められる。船舶が運航する20―30年の間に追跡可能なことを示すものであり、より多くの循環性を確保する上で重要な一歩だ」

「同条約が起草された09年当時は、まだ循環性の原則について議論されることが少なかった。このため条約の発効後、この分野の進展を検証し、循環原則をどのように業界に組み込むかを検討するための改正プロセスが着手されることを期待する」

 

 

引用至《日本海事報》 2024年03月06日デイリー版1面

国内船主、船価高・円安で売船。ドライ好況 買い需要増。4―6月成約拡大へ

国内船主が保有バルカーの売船に動き出した。年初から上げ足を速めていた中古バルカーの船価相場は足元、年末比で最大4割高まで急騰。これを受け、高齢船売却のタイミングをうかがっていた船主が円安局面のうちに利益を確定させる売船を志向し、中古船市場に日本勢の売り物が増えてきた。一方、買い手側は1―3月の閑散期にドライ市況が上昇局面に入ったことで、用船マーケットの先高観から購入意欲を高めており、「増えた売り玉(売却候補船)を買い需要が上回っている」(商社関係者)。売買成約は4―6月に向けて増えていくとの見方が強い。

「中古バルカーの売買船の成約件数は昨年まで、主要な売り主である国内船主が売船を手控えてきたことで低調に推移してきた。しかし今年に入り、日本船主の船齢10歳強の売り物が目立って増えており、用船契約の更改が多い4―6月に相当数が成約に至る公算が大きい」(商社船舶部)

売買船市場関係者の間でこうした見方が強まっている。

国内の専業船主がここにきて売船意欲を高めている背景には、中古バルカーの船価相場が年初から急騰していることがある。

英クラークソンズ・リサーチの統計によると、3月初め時点の船齢10年の中古船価は、ケープサイズが4300万ドル(昨年末比1200万ドル〈39%〉高)、カムサマックスが2750万ドル(同350万ドル〈15%〉高)、ウルトラマックスが2700万ドル(同750万ドル〈38%〉高)、ハンディサイズが2000万ドル(同300万ドル〈18%〉高)と、全船型が短期間で値を上げている。

複数の市場関係者によるとバルカー中古船価の騰勢は、中国・旧正月(春節)の連休が明けた2月後半から一段と強まっているようだ。

「中古バルカーのアセットバリュー(資産価値)の上がり方は旧正月明け以降、一段とシャープになった。中でも昨年導入されたCII(燃費実績格付け制度)が意識され、2013年以降に建造されたME(電子制御)エンジン搭載船に対する需要が明確に高まっている」(別の商社船舶部)

「新造船は船台が27年の先物まで埋まり、今後主流になる新燃料も定まらない中、ギリシャなど海外船主の投資資金が中古船に向かっている。一方、売り手もここ数年のドライ好況で手元資金が厚くなっており、投げ売りはしないため、中古船価の上昇が続いている」(海運ブローカー)

国内船主の間では、22年前半まで続いたドライ市況高騰下、中長期の用船契約満了後の保有バルカーを半年から1年程度の短期貸船でつなぎ、運航益を最大化する動きが広がった。

バルカーの用船市況と中古船価相場が軟化した同年半ば以降は、両マーケットの回復をにらみながら、当該船の売却のタイミングをうかがっていた船主が少なくない。

こうした船主は当該船の老齢化が徐々に進んで高レートの用船契約が付きにくくなる中、中古船価相場の上昇を受けて「足元の円安局面を逃さず利益を確定させようと、複数社が売船に踏み切り始めた」(商社船舶部)。

一方、買い手側はバルカーの用船市況の先高観に後押しされ、手元資金が潤沢なギリシャなどの海外船主が船腹確保の意欲を強めている。

ギリシャ勢は昨秋まで、ドライ市況の軟調が続く中で中古船価のレベル感に神経質になっていた。しかし、バルカーの用船市況が旧正月の連休が明けた2月第4週から騰勢を強めていることを受け、「(売り手の)国内船主が提示する一段高い船価を許容する姿勢に転じている」(同)という。

この結果、「売り玉は増えているが、買い需要がそれを上回っており、品薄感が強まっている」(同)。これに伴い、足元の船価は「新造船供給が少ないケープサイズに特に高値が付いており、中小型バルカー3船型とも下値が切り上がっている」(同)ようだ。

こうした売買船案件について、市場関係者は「4―6月期に向けて成約が増えていくだろう」(同)と口をそろえる。足元で売り物となっている国内船主の短期契約投入船は、ドライ荷動きの閑散期が終わった第2四半期に契約更改となるケースが多いからだ。中古売買船はMOA(売買船契約書)の締結後、3カ月以内に本船を引き渡すのが一般的。このため、売買船商談のピークは今月末からになりそうだ。

 

引用至《日本海事報》2024年03月05日デイリー版1面

OA、提携5年延長。2032年まで、4社協調を維持

仏CMA―CGM、中国COSCO、台湾エバーグリーン、香港OOCLの4社で構成する定航アライアンス「オーシャンアライアンス(OA)」は27日、提携期間を5年間延長して2032年までとすると発表した。現行の契約では27年までとなっていた。コンテナ船社のアライアンスを巡っては25年1月末で2Mが解体する一方、独ハパックロイドがザ・アライアンス(TA)を抜けてマースクと新アライアンス「ジェミニ」を結成することが決まっている。動向が注目されていたOAは発足当初のメンバーで32年まで続くことになる。

OAは16年4月に現行の4社で結成を発表。17年4月からアジア―北米、欧州、大西洋など主要7航路を提携範囲としてサービスを開始した。発足時点での契約期間は17年からの5年間に、オプションとして5年延長可というものだったが、19年に5年延長を決定。27年までの契約延長が確認されていた。

OAメンバーの一社であるCMA―CGMのルドルフ・サーデCEO(最高経営責任者)は、「今回の5年延長の決定は、われわれが顧客ニーズに応え、信頼性の高いサプライチェーンを提供していくということを約束するものである」とコメントしている。

ハパックロイドの25年1月末でのTA離脱が決まったことで、業界内ではOAメンバー船社とTAによる提携も一時、うわさされていた。しかし、今回の延長決定でOAの4社体制は継続することとなり、25年以降も3大アライアンスの中で発足当時の構成メンバーが変わらない唯一のグループとなる。

一方、ハパックロイド離脱後のTAについては、英海事調査機関ドゥルーリーは「北米航路ではワンハイラインズが、欧州航路ではMSCがTAの提携相手になるのでは」との見方を示している。その一方、ハパックロイド離脱後のTAについては、北米西岸航路では引き続き豊富なネットワークを維持できるものの、大西洋航路の維持が厳しくなると指摘している。

 

引用至《日本海事報》2024年02月29日デイリー版1面

三光汽船、海運業90年の歴史に幕。後任確保・新規投資 難しく

三光汽船(本社・東京都港区、田端仁一社長)が海運業の歴史に幕を下ろす。年内に最後の保有船「Sanko Hawking」(8万2500重量トン、2021年に常石造船で竣工)を売却する。同社は14年に2回目となる更生手続きを終了し、通常会社として復帰していた。近年は黒字転換していたが、社長の後任人事が難航。後継者不足や新規投資が難しくなり事業の継続が困難になった。「海運業界の風雲児」として波乱の歴史をたどった三光汽船は創業から90年で海運業から撤退する。

 

三光汽船は1934年に大阪で創業。ほどなく元衆議院議員の故河本敏夫氏が社長に就任すると、戦後の復興に合わせ船隊規模を増加させた。

同社は63年の海運集約に参加せず、「一匹狼」「自主独立」を標榜(ひょうぼう)する。

71年に時価発行増資と第三者割当増資で資金調達を拡大。これを新造船の大量発注の資金に回すと同時に72年にはジャパンライン(当時)株を買い占め、「三光商法」ともいわれた。

一方、石油ショックで不況に直面すると大量の新造船が不採算船となり85年に当時として戦後最大の5200億円の負債を抱え倒産、1回目の会社更生法適用を申請した。

98年に1回目の更生手続きの終結に伴い、00年には同社生え抜きの松井毅氏が社長に就任した。

リーマン・ショック前の07―08年には売上高2293億円、経常利益797億円の過去最高の業績を記録。売上高経常利益率は35%と当時の日本の海運業界でもトップの利益率を誇った。

三光汽船はリーマン・ショック前の好景気に大量の中型バルカーを発注。保有船35隻に対し用船150隻という「過度なレバレッジ経営」(他人資本=船主に頼る経営)に傾注していく。

くしくも85年の倒産と同様に、過度な投資後の不況が同社を直撃する。

中型バルカーだけでなく、オフショア支援船を数十隻規模で発注したことも経営悪化に拍車を掛けた。

12年7月に負債1558億円、用船料の支払い債務4056億円を抱え東京地裁に2回目となる会社更生法適用を申請、13年10月に更生計画の認可を受けた。

再建に向けスポンサー探しに難航するが、13年に米投資金融のエリオットが投融資枠の設定を含め50億円の支援でスポンサー契約を締結。

同社から田端氏が管財人兼社長として就任すると更生計画時点で44隻だった船隊を28隻までスリム化した。海運市況の上昇もあり、わずか1年後の14年12月に更生手続きを終結させ通常会社に戻った。

更生手続き終了後、バルカー、LPG(液化石油ガス)船、アフラマックス、オフショア船、ケミカル(石油化学製品)船などを運航していたが、15―16年にかけ円高で業績が不振に陥る。

段階的に保有船を縮小してきたが、ここにきて11年間、社長を務めた田端氏の健康問題に伴う後継者不足、新造船への投資が難しくなった。

現在、最後の保有船1隻について売却先の選定に入っている。数々の時代の荒波を乗り越えた三光汽船の海運業の歴史に幕が下りることになる。

 

引用至《日本海事報》2024年02月26日デイリー版1面

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